毎週金曜日夕方掲載

本レポートに掲載した銘柄

村田製作所(6981)、東京エレクトロン(8035)、NTTドコモ(9437)、富士通(6702)、ローム(6963)、アンリツ(6754)など

 

1.2019年から5Gがサービス開始へ

 2018年6月1日号の楽天証券投資WEEKLYで、「特集:5G、自動車と電子部品」と題して5G(第5世代移動体通信)について簡単に解説しました。5Gは人々の生活や企業活動を大きく変える可能性のある技術であり、株式市場でも大きな関心事です。そこで今回は、5Gの技術、応用分野、関連企業について、幅広く解説します。

 もともと株式市場で5Gは関心を持たれてきましたが、今年になって特に注目され始めました。今年2月の「モバイル・ワールド・コングレス」(世界最大のモバイル機器見本市)で、アメリカなどの通信会社数社が2019年からの5Gのサービス開始を表明しました。従来は、2020年からと言われてきた5Gのサービス開始が1年前倒しになったのです。日本のNTTドコモも最近になって地域限定で2019年からのサービス開始を示唆する発言をしています。このような中で、株式市場でも5Gに対する関心がこれまで以上に高まってきました。

 5Gに対する投資は大きなものになると思われます。ある調査によれば、2025年までに5G関連のハードウェア投資は約35兆円になる見込みです。日本では、4Gと兼用できる設備があるため、NTTドコモなどの通信会社は5Gの設備投資額は4Gを下回るとしていますが、将来は5G向けに大きな投資が必要になる可能性があります。5Gは関連企業にとって大きなビジネスチャンスになると思われます。

表1 日本における携帯電話ネットワークの変遷

出所:日経NETWORK2018年3月号より楽天証券作成
注:bpsはビット/秒

 

2.5Gとは何か

 5Gのスペックは以下の通りです。

  1. スペック上の受信速度(ダウンロード)が10Gbps以上になる(最大20Gbps)。今の受信最大速度は988Mbps(NTTドコモ。2018年5月から。国内の一部エリアのみ)。今の受信実効速度はNTTドコモのアンドロイドスマホで140~237Mbps(2018年2月)。
  2. 送信速度(アップロード)も高速化。今の送信最高速度は75Mbps、送信実効速度は17~27Mbps(2018年2月)。
  3. 同時多接続(数百から1,000以上の端末を同時に接続できる)。
  4. 低遅延(遅延はほとんどない)。

 まず、5Gの初期スペック(日本ではまだ決まっていない)を受信10Gbps、送信5Gbpsとして、実効速度を受信5Gbps、送信2.5Gbpsとすると、上記の現在の受信、送信実効速度に対して、受信速度は21~36倍に、送信速度は93~147倍になります。受信速度が大幅に速くなり今よりも大容量高速通信が可能になるため、4K動画のような高精細動画の受信がストレスなく可能になります。

 また、送信速度(アップロード)が大幅に高速化することが5Gの大きな特徴です。4Gは複数の電波を束ねるキャリアアグリゲーションによって、ダウンロードをある程度高速化することが可能であるため、現在は一部地域だけですが約1Gbpsのダウンロードが可能になっています。しかし、アップロードの高速化は4Gでは出来ないため、今でもアップロードの速度は低いままです。5Gではこのアップロードを大幅に高速化します。従って、高精細動画を多用するSNSユーザーにとって大変使い易いものになるほか、高精細画像を使った遠隔医療、遠隔制御などにも応用範囲が広がります。

「同時多接続」も、5Gの優れた特徴です。満員電車の中ではスマホは繋がりにくくなりますが、このようなことは5Gでは少なくなります。また、大量の小型端末やセンサーとの間で情報のやり取りをする「IoT(Internet of Things)」に適しており、5GでIoTの市場が大きく拡大する可能性があります。

「低遅延」も応用分野が広い性質です。4Gでは、例えば遠隔地の様子を画像で確認しながら機械を制御する際に、若干ですがタイムラグ(遅延)があり、これが遠隔操作の障害になっていました。5Gではこの遅延が大幅に短くなるため、リアルタイムで映像を見ながらの遠隔地の診療、ロボット手術、各種の機械制御、ロボット、建設機械などの操縦などの用途に使えます。

 問題はサービス価格です。総務省は5Gの電波割当の条件として、価格競争を通信業者に求める方針と言われています。5Gは日本では初期スペックがまだ完全には決まっておらず、設備投資も始まっていないため、価格も未定です。ただし、これは全くの私見ですが、4Gのサービス価格に対して月額1,000~2,000円程度の高さなら、利便性の高さから、SNSや動画配信サービスのヘビーユーザー中心に5Gに加入するユーザーが多くなる可能性があります。

 5Gのサービス開始時のスペック、電波の周波数(候補は4Gで使われてきた3.6GHz以下、3.6~6GHz帯、28GHz帯)、サービス内容などはまだ未定であり、今後順次明らかになると思われます。また、5Gのネットワークには「ネットワークスライシング」技術が導入されます。これは、5Gの特色である大容量高速通信、低遅延、同時多接続を同時に一律に提供するのではなく、用途や優先順位に応じて出し分ける仕組みです。これによって5Gでは多様なサービスが生み出されると思われます。

 なお、2018年6月14日(木)に3GPP Plenary会合(3GPPは移動通信システムの規格策定を行う標準化団体。3GPP Plenary会合は3GPPにおける仕様を規定する全体会合)において5G NR(「5G New Radio」の略称。5Gの要求条件を満たすために、3GPPで新たに規定される無線方式)標準仕様の策定が完了しました。5Gの主要機能の全仕様が初めて規定されました。これによって5G商用化が加速することが期待されます。