日米の株式市場は「政治リスク」に揺れる展開

 日米株式市場はともに「政治的な不透明感」に押される展開となっています。米国では13日、トランプ大統領が国際協調を重視するティラーソン国務長官を突然解任し、政治的混乱と外交政策の先行き不安に繋がっています。また、トランプ政権は中国に対し年間最大600億ドル(約6.4兆円)の関税適用を検討中とされ、対米貿易黒字を1,000億ドル(約10.6兆円)削減するよう求めると報道されています。米中が貿易戦争(関税措置の報復合戦)に発展するリスクも警戒され、株価の重石となっています。

 国内では、「森友学園問題」で国会が事実上空転しています。「世界で最も安定している」との評価が高かった政治的統治を巡る不安がくすぶっています。安倍政権が不安定化すると、市場が期待する成長戦略の実現が先送りされる可能性があり、株式市場の悪材料となります。一方、世界の株式における物色トレンドで最近顕著な事象として、ハイテク(IT)関連株の優勢に注目したいと思います。図表1は、ハイテク業界の成長ダイナミズムを象徴するとされるフィラデルフィア半導体指数、S&P500 IT(情報技術)株価指数、ナスダック総合指数の推移をS&P500指数と比較したものです(2017年3月末=100)。株式市場が2月の調整から戻り歩調に転じたなか、半導体、IT指数、ナスダック総合はいずれも史上最高値を更新(3月12日)しました。

図表1:米ハイテク関連指数は史上最高値を更新した

注:2017年3月末時点の各株価指数値を100とした推移を比較したもの。
出所: Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2018年3月14日)

米ハイテク業界の業績は今年も拡大する見通し

 上述した米ハイテク関連株の堅調は、ファンダメンタルズ(業績見通し)の改善が追い風となっています。図表2は、2015年初を起点とし、米IT株価指数、ナスダック総合指数、S&P500指数(産業界平均)ベースの予想EPS(12カ月先予想1株当り利益/市場予想平均)の推移を比較したものです。ハイテク関連株の利益成長ペースが優勢であるのが一目瞭然です。米産業界平均の増益ペースを上回るハイテク業界の高成長期待が関連株価指数の優勢につながっている状況がわかります。

 2018年も、ビッグデータ、AI、IoT、クラウド、ロボティクスなどの「第4次産業革命」需要が、米国を中心として世界のハイテク関連企業の業績拡大を支えていくと考えられます。昨秋以降の株価堅調の反動もあり、2月以降の世界株式は波乱含みとなりましたが、国内の産業構造も「AIoT」(AI+IoT=人工知能を搭載した産業のインターネット化)で大きく変化しようとしています。

  投資銀行で世界最大手のゴールマンサックスは今週、AI(人工知能)関連のハードウエア市場が、2017年の120億ドル(約1.3兆円)から2025年までに1,000億ドル(約10.6兆円)まで拡大するとの予想を示し、エヌベディアなど関連半導体銘柄について強気姿勢を表明しました。なお、S&P500指数の時価総額におけるIT(情報技術)株の時価総額ウエイト(比率)は増加を続けており、直近は25%を超えるまでにプレゼンス(占有率)を高めています。米国の経済や産業構造の変化を映したトレンドとして注目したいと思います。

図表2:米国ハイテク業界の業績見通しは拡大している

注:2015年初の各株価指数ベースの12ヵ月先予想EPSを100とした推移を比較したもの
出所: Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2015年初~2018年3月9日)

ハイテク関連株の優勢と政治不安の綱引き

 上述した米ハイテク(IT)関連株の優勢は、世界市場の業種物色にも大きな影響を与えています。図表3は、MSCI業種別株価指数やS&P500業種別株価指数の期間騰落率で、世界、米国、欧州、日本それぞれのセクター(業種)物色の強弱を相対比較したものです。特に、最近1カ月の株価底入れ局面でハイテク(IT)関連株の相対的な勢いが強くなっていることに注目したいと思います。

図表3:世界の業種別物色でハイテク関連が優勢に

注:(注)MSCI株価指数、S&P500業種別株価指数の期間騰落率を表示。世界市場の1カ月前比騰落率の降順で一覧した。
出所: Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2018年3月14日)

 目先の株式市場では、「政治リスク」で株価の上値が抑えられる可能性があります。特に、金融市場では最近、アベノミクスとイグジット(出口)の造語である「ABEXIT(アベグジット=安倍政権終焉による経済金融政策の変化)」との言葉が囁かれ、憂慮され始めました。安倍政権が万が一にも退陣に追い込まれる場合、アベノミクスの中心的政策とされる大規模金融緩和が頓挫し、黒田日銀総裁の退任リスクに発展する可能性も否定できず、市場の警戒要因に発展しやすくなります。

 とは言うものの、株式市場の長期的リターンは短期的リスク(リターンのブレ)を伴うものであることは再認識したいと思います。中長期の投資姿勢に立脚するなら、ファンダメンタルズ面で支えがあるハイテク(IT)関連株価の押し目は再び「投資機会」となる可能性があり、引き続き注目したいと思います。


▼著者おすすめのバックナンバー

2018年3月9日:波乱相場でも輝く?ビューティー関連の堅調には理由がある
2018年3月2日:米国金利の動きから占う!1年後の日米株価は?
2018年2月23日:中国経済の強さはどこに?注目のニューエコノミーとは


▼今日のマーケット・キーワード]:『仮想通貨』を理解するシリーズ6