トランプリスクの顕在化で波乱相場再び

 内外市場は今週も波乱含みの展開となりました。トランプ大統領が先週表明した鉄鋼製品とアルミ製品に対する輸入関税を巡る悲観を嫌気して米国株式は一時急落。特に、保護貿易政策に反対していた国家経済会議委員長のゲーリー・コーンが辞任を表明したことで、ホワイトハウス内部の亀裂観測も悪材料となりました。

 コーン委員長は、投資銀行最大手のゴールドマンサックス社長を務めた経歴から、「不安定なホワイトハウス内で経済や金融市場を理解する良識派」とみられていただけに、その辞任の報は市場に不安を広めました。

 とは言っても、輸入制限を含む貿易政策の変更や実施は議会の承認が不可欠。ライアン下院議長を筆頭に共和党議会は即時に反対を表明しました。経済界も「報復関税合戦」などの副作用に懸念を示すなどし、一時高まったリスクオフ(回避)は落ち着きを取り戻しました。図表1が示すように、2月5日の米国市場で一時50%超まで上昇した「恐怖指数」(VIX指数=先行きの株価変動率予想)は17.7%まで低下(3月7日)し、米国株が下値を切り下げる動きとなっていません。むしろ、近年の米国経済をけん引するIT業界の勢いを示すように、FANG+(プラス)指数やフィラデルフィア半導体株価指数は今週史上最高値を更新しました。2月に後退したリスク許容度が回復しつつある現象として注目しています。

 国内市場は当面、今晩(9日)の米雇用統計発表や20~21日のFOMC(米連邦公開市場委員会)の結果を踏まえたドル円の方向感を見極める展開を見込んでいます。

図表1:2月の株価波乱を象徴した米国の「恐怖指数」は低下した

注:「恐怖指数」=VIX Index (CBOE S&P500 Volatility Index)<米国株式市場の先行き変動率予想を示す>
出所: Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2018年3月7日)

 

波乱相場のなかでも輝く「ビューティーセブン」

 内外株式は2月から波乱を余儀なくされましたが、国内市場ではビューティー(化粧品・美容品)関連銘柄の相対的堅調が目立っています。昨年9月15日付けの本稿でご紹介したように「ビューティーセブン(7)」とは、化粧品・美容品業界で株式時価総額が比較的大きい7社(花王資生堂コーセーポーラ・オルビスライオンノエビアファンケル)で構成される銘柄パッケージ。図表2は、同7銘柄の平均パフォーマンスとTOPIX(東証株価指数)の推移を比較したグラフです(2013年初を起点にして7銘柄の等配分投資を想定したシミュレーション)。

図表2:ビューティーセブンの相対的堅調に注目

注:上記は、市場実績をもとに7銘柄の平均パフォーマンスを示した参考情報であり、将来の投資成果を保証するものではありません。
出所: Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2013年初~2018年3月2日)

 

 ビューティーセブンの平均パフォーマンスが市場平均より優勢であることが一目瞭然です。個別銘柄ごとに、「年初来騰落率」、「1年前比騰落率」、「3年総収益率(年率)」、「5年総収益率(年率)」を比較してみると、7銘柄の平均パフォーマンスがTOPIXより優勢であった事実もわかります(図表3)。たとえば、日経平均やTOPIXの年初来騰落率が6%前後のマイナスである一方、ビューティーセブンの年初来平均騰落率は+5.5%とプラスを維持しています。

 ビューティー銘柄が優勢である背景としては、インバウンド(訪日外国人観光客)需要の拡大を契機に、中国などアジアから日本製化粧品・美容品需要が拡大している事業環境が挙げられます。また、化粧品・美容品に対する需要(ニーズ)は、景気循環から比較的影響を受けにくい「ディフェンシブ性(安定成長的な特徴)」があることで、金利や景気を巡る不安が台頭するなかでも物色しやすい業種であることが相対的な堅調の背景となっています。

 

図表3:「ビューティーセブン」のパフォーマンス一覧

注:上記は参考情報であり、特定銘柄への投資を推奨するものではありません。
出所: Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2018年3月8日)

 

ビューティー関連の株価が堅調な理由は?

 ビューティー関連株堅調の背景として、日本製化粧品の輸出額が5年連続で最高額を記録していることに注目したいと思います。業界関係データによると、2016年に化粧品輸出総額は2,676億円(前年比+29%)と統計開始以来、初めて輸入総額(2,292億円)を上回り、「純輸出額」(輸出額-輸入額)が黒字化しました。そして2017年も、輸出額は3,715億(前年比+39%)とさらに最高額を更新。

 中国を中心とするアジアからのインバウンド(訪日外国人)観光客が購入した日本製化粧品は、その高品質を実感したアジアの消費者が、現地百貨店や越境EC(電子商取引)を通じ「帰国後消費」(アジアからは輸入=日本からは輸出)を増やす動きとなっています。

 中国や東南アジアでは、経済成長で女性の可処分所得が増加傾向で、地域の化粧品・美容品需要を拡大させています。日本製の化粧品は、品質面の安心感が高いだけでなく、「同じアジア人女性の肌に合う」と高い人気を得ています。こうしたなか、資生堂やコーセーは、近年の輸出増加に応じ、国内の生産拠点を拡充させています。

図表4:日本の化粧品業界の輸出額が急成長している

出所: 日本化粧品工業連合会、日本輸入化粧品協会などのデータより楽天証券経済研究所作成

 

 人気化粧品を抱えるポーラ・オルビスは、グローバル展開を進めており、訪問販売員の呼称を「ポーラ・レディ」から世界に通用する呼び方に改め「ビューティー・ディレクター(Beauty Director)」に変更しました。

 ポーラが2017年1月に発売したリンクルショットメディカルセラム(日本で初承認のシワ改善美容液)は、高額(20gで1万5,000円))にも関わらず国内で高い人気を維持しています。同社の業績は、高級スキンケア商品の拡販で好調を続け、2月14日に発表した2017年12月期連結決算では純利益が約271億円と前年比+66%の増益を計上。4期(年)連続で過去最高益を更新しています。ポーラは、2018年秋にも大型商品を投入する計画で、海外部門の収益も改善させる方針を打ち出しています。

 米金利動向やトランプ政治など市場を取り巻く環境には依然不確実性が残っています。ただ、「美しくなりたい、もっと輝きたい」との本能は、国境・時代・年齢を超えた「人間による普遍的ニーズ」です。

 こうしたニーズに応える化粧品・美容品ビジネスは「安定成長セクター」に分類できるでしょう。特に、成長余地が大きいアジアでの「ビューティー関連支出」は、海外の購買力拡大を取り込みたい日本の化粧品・美容品企業の主戦場とも言え、今後も市場の関心と物色を得ていくと考えられます。

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