「三中全会」は7月15~18日開催で決定

 5年に一度行われる中国共産党大会で選出される中央委員会が開催する3回目の全体会議である「三中全会」が、7月15~18日、北京で開催されることが発表されました。本連載でも度々扱ってきましたが、ここで改めて、ポイントを3点で整理します。

  1. 三中全会は歴史的に、中国共産党による経済政策や国家建設の方向性に影響を与える重要な会議である
  2. 今期(2022年秋の第20回党大会を受けた第20期)の三中全会は、往年とは異なり、開催時期が遅れていた
  3. 開催時期をめぐる異例の遅延は、中国経済、兼ねては習近平(シー・ジンピン)政権に対する不信感につながっていた

 そのような中、4月30日の中央政治局会議で三中全会が7月に開催されることが決まりました。そして、それから2カ月後、中央政治局が6月27日に行った会議で、正式な日程が決定、発表されたという経緯です。

 習近平総書記を含め、共産党指導部や高級官僚らが4日間にわたって北京に身を置き、審議に臨むというのは相当な人力と労力を割くことになりますし、今から市場や世論の注目が高まっています。

議題の中心は「改革の全面的深化」と「中国式現代化」の見込み

 日程を正式決定、発表した6月27日の中央政治局会議は『さらなる改革の全面的深化と中国式現代化の推進に関する中国共産党中央委員会の決定』草稿に関する共産党内外の一定範囲内での意見聴取の状況について報告を受け、この日の会議における議論の意見に基づき修正し、その草稿を三中全会に上程することを決定しました。

 中国共産党用語で分かりにくいかもしれませんが、要するに、この日の政治局会議は、三中全会の日程を正式に決定しただけでなく、7月15~18日においてどんなテーマを審議するのかについても話し合い、すでに準備してあった草稿をより踏み込んで議論し、これから約2週間を使って修正した上で、三中全会で最終審議にかけるということです。

 そして、その場で審議にかけられ、採択され、公表されるのが、『さらなる改革の全面的深化と中国式現代化の推進に関する中国共産党中央委員会の決定』と題された公式文書にほかなりません。そして、このタイトルにおけるキーワードが「改革の全面的深化」と「中国式現代化の推進」の2つであることは火を見るよりも明らかでしょう。

 今回の会議では、「改革の全面的深化」にとっての総目標を以下のように定義しています。

・中国の特色ある社会主義制度を引き続き改善、発展させ、国家ガバナンス体系と能力の現代化を推進すること

・その上で、2035年には、高水準な社会主義市場経済体制を全面的につくり上げ、中国の特色ある社会主義制度をさらに改善し、国家ガバナンス体系と能力の現代化と社会主義の現代化を基本的に実現させ、今世紀中頃には、社会主義現代化強国を全面的に建設するために確かな基礎を打ち立てること

 それでは、習近平政権が掲げてきた「中国式現代化」とは何を指すのでしょうか。

 共産党の公式な声明や文書によれば、中国式現代化とは、中国共産党が領導する社会主義の現代化だとされます。現代化、あるいは近代化という概念や実践をめぐって、各国の間に共通点もあるが、相違点もあり、中国の国家建設にとって言えば、「自国の国情に基づいた中国の特色」のほうが重要であるとうたっています。より世俗的な言い方をすれば、中国は、1億人近い党員を抱える中国共産党が引っ張る社会主義制度の下、「我が道を行く」ということです。

 また、中国自身の国情に基づいたという観点から、中国式現代化には、以下5つの特徴を内包するとも指摘しています。

  1. 人口規模が巨大な現代化
  2. 国民全体が共同富裕する現代化
  3. 物質文明と精神文明が相互に協調する現代化
  4. ヒトと自然が和諧、共生する現代化
  5. 平和的発展の道を行く現代化

 そして、共産党による領導を堅持することこそが、改革の全面的深化と中国式現代化の推進にとって根本的な保証となると、6月27日の会議は主張しています。このように整理してみると、今回の三中全会を経て、中国が中長期的にどこへ、どのように向かおうとしているのかがある程度見えてきます。私が重要だと考えるポイントを挙げます。

  1. 中国共産党によるリーダーシップを大前提とした国家運営がなされ続けること
  2. 社会主義制度の下で全ての政策が運営され続けること
  3. 西側諸国で実行されている自由や民主主義、人権や法治ではなく、中国独自の制度とイデオロギーで我が道を突き進むということ
  4. 近未来では2035年、中長期的には今世紀中頃、特に中華人民共和国建国百周年に当たる2049年を節目に政権運営がなされ、各種政策が打ち出されていくこと
  5. 「大国」ではなく「強国」になるのを目指しているということ

「三中全会」前後の景気動向への影響にも注目

 上記では、中長期的な視点から考えてみましたが、短期的に言えば、三中全会が足元の中国経済や景気動向にどのような影響を及ぼすのかに注目が集まるでしょう。

 言うまでもありませんが、三中全会は、毎年3月に開催される全国人民代表大会(全人代)の政府活動報告、国務院が毎月開催する常務会議、毎年12月に開催される中央経済工作会議などに比べると、よりマクロ的というか、長期的視点に立った、国家の在り方や方向性に焦点を当てた審議がされる傾向が強いです。例えば財政政策や不動産政策を具体的にどうするかといった議論に比べて、大きな話が展開されるということです。

 その意味で、三中全会における議論の内容や採択された文書によって、具体的かつ詳細な経済政策が打ち出されるわけではなく、この会議自体が2024年度の経済成長率や足元の景気動向に直接的な影響を及ぼす可能性は低いです。

 一方、大きな話は大きな話として非常に重要であることもまた事実でしょう。例として、私たちが中国経済をめぐる政策、中国市場の潜在力や成長性、あるいは中国政府が発表する統計などになかなか信頼を置けない理由は何でしょうか。それは往々にして、政治や政権といった「上部構造」から来るものです。

・習近平氏が経済や市場、民間企業や外資を軽視しているように見受けられる

・中国政府は市場原理を重んじず、規制強化ばかりしている

・中国は米国をはじめとした西側諸国と対立ばかりしている

・自由や民主主義といった普遍的価値観を重んじない

・資本主義ではなく、社会主義を採用している

・ロシアや北朝鮮と仲がいい

 こういった「マクロ的」な理由から中国の経済や市場は信用できず、故に中国事業から手を引こうとする、中国株には投資しない、中国企業と提携、取引している企業は危ない、といった認識や見方に至っている状況が多々あるように思います。

 要するに、中国経済を見る上で、マクロは大事なのです。そこを分析することで、中国がこれからどこへ向かい、どのような方法論で、どのような時間軸で動こうとしているのかがある程度見えてきます。経済成長や景気動向、企業の在り方や動き方への影響も絶大です。

 6月27日の政治局会議では、「法治という軌道の上で改革を深化させる」「改革と法治を相互に統一させる」「重大な改革は法に依らなければならない」「改革の成果を法律制度に昇華させる」「経済と社会、政府と市場、効率と公平、活力と秩序、発展と安全といった重大な関係をしっかり処理する」「改革の系統性、全体性、協同性を強化する」といった問題提起がなされています。

 もちろん、それら自体から、中国がどこへ向かおうとしているのかを具体的に結論付けるのは難しいです。ただ、習近平氏率いる中国共産党が、どんなことを考え、どういう角度から国を造り、豊かにし、強くしようとしているのかの一端を垣間見ることは可能です。

 中国は文字の国です。行間には本音が潜んでいます。

 そういうマクロや全体像、長期的視点も意識しながら、中国経済や景気動向を眺めてみると、また違った視点や見解が生まれ、より客観的で本質的な中国理解につながると思います。