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著者の加藤 嘉一が解説しています。以下のリンクよりご視聴ください。
「遅れていた「三中全会」の開催が決定。中国経済は迷走から脱却できるのか」
遅れていた「三中全会」と中国経済に投げられた疑問
中国情勢が一つの「動き」を見せています。
2023年最後の一本として配信したレポート「2024年の中国経済はどうなる?注目すべき8つのポイント」の4点目として、「異例の遅れ、『三中全会』はいつ開催されるか?」という点を提起しました。三中全会というのは、5年に1度開かれる共産党大会の間に通常7回開かれる中央委員会全体会議の3番目の会議という意味です。歴史的に見て、重要な経済政策が発表されたり、中国経済に大きなインパクトを与える決定がなされたりします。
例えば、1978年に開かれた第11期三中全会では、中国が国策を改革開放へとかじを切らせるきっかけをつくりました。また、1993年に開かれた第14期三中全会では、社会主義市場経済体制の確立を打ち出しました。改革開放と市場経済が提起、実行されなければ、今の中国は全く別の国のままでしたでしょうから、三中全会が果たしてきた歴史的役割がうかがえるでしょう。
そんな三中全会ですが、上記のレポートで指摘したように、第20期における開催が遅れてきました。それも、単なる遅れではなく、「異例の遅れ」です。というのも、三中全会というのは歴史的に、党大会が行われた翌年の秋に開催されるのが慣例だからです。過去30年の開催時期を振り返ってみると、第14期が1993年11月、第15期が1998年10月、第16期が2003年10月、第17期が2008年10月、第18期が2013年11月です。前回の第19期は2018年2月ということで、通常よりも半年以上早かったですが、それでも党大会の翌年という慣例通りに開催されています。
そんな三中全会が開催されないまま2023年は過ぎ去り、国内外の市場関係者は中国経済への不信を強めていきました。「何かやましいことがあるから開催できないのではないか?」「景気回復が予想以上に遅れているのではないか?」「経済政策を巡って党・政府内でいろいろもめているのではないか?」「共産党指導部内で不協和音が生じているのではないか?」といった疑問が投げかけられるようになりました。
だからこそ、異例の遅れを見せてきた三中全会が、2024年に開催されるのか、どのタイミングなのかに注目が集まっていたのです。
「三中全会」開催決定が意味すること
中国の最高意思決定機関である中央政治局(委員は常務委員7名を含む24人)が4月30日に会議を開き、今年7月に第20期三中全会を開催する決定を下しました。これによって、遅れていた三中全会ですが、無事開催時期が決まり、中国経済の行方を懸念してきた市場関係者も、若干胸をなで下ろしたというところでしょう。
中央政治局を含め、共産党、政府当局は一切の発表や説明をしていませんが、三中全会の開催が慣例を破る形で先延ばしにされてきた背景について、私が推察するに、端的に「いろいろあった」からということなのでしょう。3年続いた、新型コロナウイルスの感染拡大を徹底的に封じ込める「ゼロコロナ」政策が解除される中でスタートした昨年は、経済を見れば景気回復が遅れ、政治を見れば、秦剛(チン・ガン)、李尚福(リー・シャンフー)両氏がそれぞれ外相、国防相を解任され、軍事を見れば、腐敗などで多くの幹部が立て続けに捕まり、取り調べを受け、そのような中で、習近平(シー・ジンピン)総書記率いる統治機構にあらゆる不安要素が立ち込めたのは想像に難くありません。
5年に1度しか行われない、三中全会ほどの重要な会議の議題や日程を審議、決定するためには、党・政府内におけるあらゆる調整が必要となりますが、昨年を通じて「いろいろなことが立て続けに起こる」中、調整や審議に必要以上の時間を要したということなのでしょう。意図的に慣例に反する形で2023年度中に開かなかったのではなく、開けなかった、というのが私の推察です。
開催時期が決定、公表された今、次の焦点は、約2カ月後の三中全会で何が審議されるかでしょう。4月30日の会議では、「全面的な改革深化と中国式現代化の問題を重点的に研究する」とだけ書かれています。今後の中国情勢、経済を占う上で、重大なメッセージが世に問われる会議になることだけは間違いないでしょう。
景気回復を目指す中国政府と迷走が続く中国経済
この連載でも検証したように、1-3月期のGDP(国内総生産)実質成長率は5.3%増と市場予想を上回りました。一方、不動産不況は続いており、デフレ、若年層の失業率問題などもまだまだ景気回復にとっての不安要素として顕在化しています。4月30日の政治局会議は経済情勢を議論しましたが、「経済は持続的に回復している」としながらも、「依然として多くの課題に直面している。有効な需要が不足しており、企業経営の圧力は大きく、重点分野のリスクは多く、国内大循環は円滑に進行しておらず、外部環境の複雑性、深刻性、不確実性は明らかに上昇している」という現状認識を披露しています。
中国国家統計局が4月30日に発表した4月のPMI(購買担当者景気指数)は、製造業が50.4、サービス業が51.2で、3月の50.8、53.0と比べると拡大ペースが鈍化しています。政治局会議は、1兆元(約20兆円)の超長期国債を一刻も早く発行し、有効活用するなどして、積極的な財政政策を含めたマクロ政策で景気を下支えすべく躍起になっているように見受けられますが、過去半年くらいの間私が繰り返し指摘してきたように、中国経済は依然として「迷走状態」が続いていくものと思われます。
ただ何はともあれ、先延ばしにされてきた三中全会の日程が発表されたのは中国経済にとっては朗報です。7月の三中全会が開催されるタイミングで、4-6月期の成長率を含めた主要統計が出ているかは定かではありませんが、中国経済がこれからどう推移していくのか。迷走や低迷が続くのか、景気回復の遅れに終止符が打たれるのか、不動産セクターの回復はあるのか、デフレスパイラルからの脱却はあるのか。引き続き注目していきたいと思います。