2023年がもうすぐ過ぎ去ろうとしています。先週のレポート「2023年の中国経済を振り返る。一年で最も重要な経済会議は何を語ったか」で2023年の中国経済を振り返り、2024年についても若干触れました。本年最後のレポートとなる今回は、来る年の中国経済を具体的に先読みし、私が注目すべきと考える8つのポイントを紹介していきます。来年の中国経済を読み解く上での判断材料にしていただければと思います。

(1)GDP(国内総生産)実質成長率が何%に設定されるか?

 中国経済を巡る最大の注目ポイントは、やはり経済成長率の目標設定と統計結果でしょう。2022年は、新型コロナウイルスを徹底的に封じ込める「ゼロコロナ」政策が阻害要因となり、中国政府は目標を「5.5%前後」に設定したものの、結果は3.0%でした。

 これを受けて、2023年はやや控えめに「5.0%前後」と目標を0.5ポイント下方修正。今年1~9月期のGDP実質成長率は5.2%増ということで、通年での目標も達成可能な状況にあると言えます。来年の目標値はどうなるか?私の予測では、今年の同程度、すなわち「5.0%前後」に設定される見込みです。

 逆に、2024年の目標が2023年を下回る(例えば、4.5%)場合は、中国政府として景気動向に悲観的であり、上回る(例えば、5.5%)場合は、後述するマクロコントロールを駆使するなどして景気を押し上げる自信があるというスタンスが垣間見れるでしょう。

(2)「大規模な景気刺激策」は実行されるか?

 12月11~12日に開催された中央経済工作会議では、2024年度も、積極的な財政政策と穏健な金融政策を実施し、かつその精度と有効性を向上させるとうたいました。ただ、マーケットがしばしば期待するような「大規模な景気刺激策」を打つことには慎重になる見込みです。

 先日実施された1兆元(約20兆円)の国債発行といった財政政策は必要に応じて打たれるでしょう。来年度4兆元程度の発行が見込まれる地方特別債については、地方債務問題との兼ね合いもあり、そこだけに依存したインフラ投資刺激策は危険と言えます。資本流出への懸念から、大々的な金融緩和にも慎重になる見込みで、2024年の中国経済を占うとき、マクロコントロールが作用する余地というのは限定的というのが私の見方です。

(3)CPI(消費者物価指数)の目標数値はどう設定されるか?デフレ解消は?

 今年、中国政府はCPIの上昇率目標を3.0%前後に設定しましたが、ふたを開けてみると、CPI上昇率は低迷、11月は0.5ポイントの下落となり、インフレターゲットどころか、デフレスパイラルに陥っているのが現状です。私から見て、中国政府が掲げる目標と実態の乖離(かいり)具合からすると、このCPIが最も顕著であり、中国経済に漂う不透明感を助長しているような気がしてなりません。

 その意味で、2024年、中国政府はCPI上昇率目標をどの程度に設定してくるかは見ものです。仮に今年と同様3.0程度に設定し、実際はデフレ基調となれば、ある意味「世間の笑い者」と化してしまうでしょう。

 あるいは、目標を大幅に下方修正し、例えば、1.0%程度にした場合、中国政府としては、デフレ傾向を一定程度認め、その前提で経済運営に取り組むという姿勢の顕在化と見て取ることができるでしょう。

(4)異例の遅れ、「三中全会」はいつ開催されるか?

 中国共産党中央委員会が、5年に1度の党大会を開催した翌年秋に開催する通称「三中全会」という会議があります。簡単に言えば、中国共産党1期5年の中で、経済政策に焦点を当てて審議する最も重要な会議です。現在は第20期ですが、第14期が1993年11月、第15期が1998年10月、第16期が2003年10月、第17期が2008年10月、第18期が2013年11月、第19期が2018年2月ということで、基本は党大会が開催された翌年の秋、第19期だけ2月に開催されていますが、それでも翌年という時期に開催されています。

 それが第20期の今回、党大会の翌年に当たるのが2023年ですが、一向に開催されないまま、開催スケジュールも発表されないまま時間だけが過ぎようとしています。三中全会に必ずどの年の何月に開催されなければならないというルールはありませんが、それでも従来の慣例と明らかに異なる状況が発生すれば、「何かあったのかな?」と疑念を抱くのが世の常です。中国への政治不信にもつながります。その意味で、放置されたままの三中全会が2024年のどこかのタイミングで開催されるのか、遅れた背景をどう説明するかに要注目です。

(5)不動産危機は何処へ着陸するか?

 本連載でも中国の不動産問題については幾度となく扱ってきました。中国の不動産危機というとき、大きく分けて2種類あります。1つは不動産企業が直面する、巨額の債務問題を含めた経営危機。代表的なのが、恒大集団や碧桂園でしょう。もう一つが不動産市場が直面する低迷危機。1~11月の不動産開発投資は今年に入って最大の下げ幅で9.4%減、中国政府が毎月発表している主要70都市の11月の新築住宅価格指数によれば、59都市で前月から下落(10月は56都市、9月は54都市で前月比下落)しています。

 特に下半期に入ってから、中国政府は不動産税(日本の固定資産税に相当)の導入と立法化を先送りにしたり、北京や上海といった大都市を中心に、市民が住宅を購入する際の頭金や金利を下げるなどして、不動産市場を下支えするべく動いています。これらのテコ入れ策が功を奏すか否か、その過程で、不動産企業のデフォルト、清算危機が回避されるか否か、結果的に、不動産の復活が景気回復の起爆剤になるか、に注目したいと思います。

(6)中国経済の「日本化」を巡る論争は何処へ向かうか?

 10月、私は今年2回目となる中国現地視察を行いました。北京と上海を訪れ、現地の政府・市場関係者らと議論を重ねましたが、その際、相手方から(こちらから聞いてもいないのに)「加藤さん、中国経済は日本化していないし、今後もしない」と迫られる場面が多々ありました。私の経験上、こういうケースの背景には、中国政府が主導する形で、政府系シンクタンクの研究者などに対して、「中国経済が日本化しないことを立証するための理論武装をし、あらゆる場面でそれを宣伝するように」という指示が下っている場合が多い。

 裏を返せば、中国政府として、前述したデフレ、不動産バブルの崩壊、そして少子高齢化など、日本経済がかつてたどってきた道にはまるのではないかという危機感をかつてないほどに抱いているということです。そして、2023年はそれがピークに上り、中国、日本の市場や世論でもそれがある種の論争として展開されました。

 2024年はどうなるのか?大いに注目すべきでしょう。

(7)台湾総統選、米中対立…地政学リスクの中国経済への影響は?

「地政学リスク」という概念が書店やメディアに並ぶようになって一定の時間がたちました。国境を股にかけて事業を行っている日本企業の中で、地政学リスクを念頭に置かない企業はもはや皆無と言っても過言ではないでしょう。台湾海峡で戦争が起きる、米中がデカップリング(切り離し)を進める、ウクライナ戦争で中国がロシア寄りのスタンスを取る、中国が東シナ海や南シナ海で拡張的な行動を強める…これらの動向が経済活動に及ぼす影響はますます深まっていると見るべきでしょう。

 2024年は1月に台湾総統選が、11月に米国大統領選が控えています。それらの結果次第では、中国が台湾への軍事圧力を強めたり、米中対立が激化したりして、日本を取り巻くマクロ環境が緊張し、ボラティリティが上昇するでしょう。2024年は地政学にとって重要な1年であり、経済との相互作用を注視していく必要があります。

(8)習近平国家主席の言動がどう作用するか?

 中国の最高指導者は習近平(シー・ジンピン)氏です。党、国、軍の3役でトップに君臨して10年がたちました。そんな習氏自らが放つ言葉が内包する影響力は絶大です。彼の一挙手一投足次第で、中国経済の見え方はいくらでも変わってしまいます。

 例えば、中国が「ゼロコロナ」政策を堅持している期間、習氏は、少しくらい経済活動を犠牲にしてでも、コロナの感染拡大を徹底的に抑え込まなければならないという類の発言を地方視察中にしたことがあります。マーケットでは、「やっぱり中国は経済を犠牲にするんだ」という見方が広がりました。また、習氏はしばしば国有企業の中国経済における重要性を公言しますが、そのたびに、民間企業は萎縮してしまう傾向にあります。

 このように、習近平といういま世界で最も影響力のある政治家の一人が、中国経済に関してどのような発言をするのかという一点は、下手をすれば、財政出動や金融緩和がもたらす効果など一発で吹っ飛ばしてしまうほどの威力を持つのです。

 例えば、習氏が「中国経済は一貫して市場原理で運営されるべきだ」、「米中関係の安定が中国の経済成長にとって決定的に重要だ」、「中国政府は外資を徹底して守る」、「中国は金融市場をグローバルスタンダードで開放していく」、「民間企業が羽ばたくことで、中国経済は持続的に成長する」といった発言をすれば、中国内外における中国経済の見え方は変わってくるでしょう。