インド・中国の個人と中央銀行は、金市場の長期上昇を支える“クジラ”になり得るか?

 以下の図は、筆者が考える、金相場の変動要因です。“感染症”もまた有事ムードを強める要素と言えますが、それは多数の中の一つであり、全てではありません。

 以下より、“中国・インドの個人の宝飾品購入”と“中央銀行の金保有高増加”について述べます。

図:金相場の変動要因(イメージ)

出所:筆者作成

 以下は、世界全体の金の需要の内訳です。

図:世界全体の金の需要の内訳(2019年)

出所:WGC(World Gold Council)のデータより筆者作成

 統計上、金の需要は、宝飾品向け、中央銀行の退蔵、投資向け、工業向け、に分かれています。この中で、インドと中国の宝飾品向けと中央銀行の退蔵は、金相場や諸情勢が急激に変化する状況にあっても、比較的安定した需要がある分野です。

図:インド・中国の宝飾向け(左)および中央銀行の退蔵(右) 

単位:トン
出所:WGC(World Gold Council)のデータより筆者作成

 インドと中国の宝飾向け需要について、特にインドは近年、おおむね横ばいで安定しています。インドには、婚礼の際に、父親が嫁ぐ娘に金の宝飾品を持たせる文化があります。嫁いだ先での生活に困らないように、そして父親の威厳を示すために、伝統的に金を持たせる風習があると言われています。この習慣は、金相場・諸情勢には影響を受けにくい習慣です。

 また中央銀行は近年、金の保有高を増やしています。特に、中国やロシア、トルコなどの新興国の保有高の増加が顕著です。米国の通貨ドルへの対抗意識や自国通貨への不安などが背景にあり、伝統的な金を保有する動きが目立っています。

 インド・中国の宝飾需要と中央銀行の金保有の共通点は、“すぐに売らない”という点です。売却をして利益を上げる投資の意味ではなく、保有することを目的としているため、これらの保有者による保有は長期にわたる傾向があります。

 金の需要の40%を超えるこれらの需要は、金相場を長期的にしっかりと、下支えをする要因になっているとみられます。

 市場への影響力が大きく、中長期的な価格のトレンドを作る投資家が“クジラ”と例えられることがありますが、ある意味、インド・中国の宝飾向け需要に中央銀行の保有を加えた需要は、金相場における“クジラ”となる可能性があると筆者は考えています。長期的な価格の下支え要因として、注目です。