“株高・金高”の最も大きな理由は“実態と指標の乖離が拡大することへの不安”

 以下のグラフは、NYダウ平均株価と銅の価格の推移を示したものです。

 図:NYダウと銅価格の推移

出所:NYSE(ニューヨーク証券取引所)およびLME(ロンドン金属取引所)のデータより筆者作成

 株価は半年から1年先の景気動向に対する思惑(期待や懸念)を織り込みながら動くと言われます。このため株価は、先々の景気動向を示唆する“指標”という意味があると筆者は考えています。

“景気は良いほうがいい”、“懸念が発生することは避けたい”と多くの人が望むため、株価が上昇することが株式市場の参加者の総意と言え、常時、“指標”は上昇することが望まれる状態にあると言えます。

 株価が下落した場合に利益が出る投資手法もありますが、あくまで非常事態を収益に転換するサブ的な手法、あるいは短期的な売買益目的である色合いが強いため、株価の下落が市場の総意になることはないと言えます。

 一方、金や原油、農産物などのコモディティ(商品)においては、生産者によるカルテルや消費者の生産者に対する不当な搾取が起きているケースを除けば、基本的には消費者と生産者は対等の立場にあります。

 生産物を欲する消費者は対価を支払って生産者から商品を受取り、生産者は受け取った対価の一部を余剰として蓄えながら、新たに生産活動をして消費者に生産物を売るわけです。

 高く売りたい生産者と、安く買いたい消費者がお互いを尊重することが前提であれば、双方が決める価格は、一方的に高い状態が長期間続く、一方的に安い状態が長期間続くことは考えにくいと言えます。

 例えば、通年で生産・消費が行われ、インフラや電子部品などに幅広く用いられる、人類の生活に欠かせない銅は、世界経済の動向と深く関わっています。この銅価格は、上昇することが絶えず望まれる“指標”に比べれば、コモディティ(商品)という特性上、フェア(公正)であり、世界景気の動向の“実態”に近い存在と言えると思います。

 ここでは、さまざまな国の株価指数の指標となるNYダウ、世界経済に深く関わる銅、それぞれの価格を、“指標”と“実態”とします。

 先程、“指標”と“実態”の乖離が拡大していることについて触れました。この乖離の拡大は何を意味するのでしょうか。

“指標”と“実態”の乖離が拡大している状態は、景気回復を示す経済統計などの明確な根拠が見当たらない中、株価だけが上昇し続けている状態、つまり“実態を伴わない株価上昇が続いている状態”と言えます。

“実態を伴わずに上昇を続ける株価は、いずれ何かの拍子に反転するかもしれない”“実態を伴っていないため、株価が上昇すればするほどかえって不安が増幅する”という不安・懸念が、金高の要因になり、その結果、株高・金高が起きる事態になっていると、筆者は考えています。