アラムコIPOの意味。対外的にはイランの動向に注意

 図「アラムコのサウジ国内市場でのIPOの概要と時価総額」のとおり、11月21日現在、730億リヤルに相当するIPOの申し込みがあったと報じられています。12月のサウジ国内市場への上場によって、実際にアラムコの株を取引できるのは、サウジ国内の個人と、認可された機関投資家です。

 サウジ国内の個人にとって、アラムコ株を保有することで配当が得られる点は大きなメリットと言えます。配当利回りは3.75%との試算があります(エクソンモービルは4.9%)。

 アラムコのIPOは、「ビジョン2030」遂行のための資金調達以外に、国民への“ばらまき”の意味があります。アラムコのIPOは“国が上場する”という意味で言えば、株式の上場というよりも“サウジ国債の発行”に近いと言えます。

 また、大型上場を経て、金融の近代化が飛躍的に進み、それにより「ビジョン2030」が進み、サウジの欧米化が進んだ場合、対外的には、有望な投資先と認識されサウジ国外からの投資が加速する可能性があります。

 アラムコのIPOの意味を、対外的な側面から考えた場合、考慮せざるを得ないのがイランの反応です。

 イランは今月、大規模な油田が見つかり、自国の原油埋蔵量が増加したと主張しました。

 通常、産油国は有限である自国の原油埋蔵量を取り崩しながら原油の生産を行っています。有限であるため、生産量を増加させればさせるほど、理屈の上では埋蔵量がゼロになるタイミングが早くなります。

 逆に減産をすれば、埋蔵量がゼロになるタイミングを遠ざけることができます。産油国にとって、減産は、埋蔵量を節約する意味を持っていると言えます。

 減産延長を議論したり、アラムコのIPOが話題になったりしているタイミングで、油田が発見されたことを考えれば、イランの主張は、埋蔵量が増加したので原油の生産を小出しにする必要性が低下した、つまり減産を実施する必要性が低下した、という意図を含んでいる可能性があります。

 このように考えれば、イランは減産継続に反対のスタンスである可能性があります。

 イランからすれば、減産を延長することとなれば、2020年4月以降も、(たとえ継続して減産免除国になったとしても)生産量を増やせば、OPECやOPECプラス(石油輸出国機構=OPECと、非加盟国で構成される組織)全体の原油生産量を増やしてしまうため、OPECプラスの一員として、大々的に増産をすることは難しくなります。

 なおかつ、減産延長を市場が好感して原油価格が上昇した場合、アラムコのIPOが非常にうまくいき、なおかつ、長期的には「ビジョン2030」がうまくいき、サウジの国力が増大する、しかも脱石油を実現できれば、他の産油国と一線を画することができる、など、イランにとっては、複数の好ましくない事象が発生する可能性があります。

 イランにとって減産延長は、原油相場の上昇を除けば、サウジに利することが大きく、大きなメリットはないとみられます。

 イランは、OPECに居続ければ、組織を混乱させることで、OPECの組織の弱体化を世に知らしめ、混乱・弱体化のため減産延長を決定できないOPECを演出し、原油相場を下げることができます。

 その意味では、(米国の制裁をかいくぐって)単独で増産をすれば、最大で日量200万バレル程度の増産ができなくはないですが、それよりは、組織を内部から弱体化させた方が、原油相場を効果的に、かつ大規模に下落させ、アラムコのIPO、「ビジョン2030」を停滞させることができると考えられます。

 その意味では、アラムコのIPOの話が進展し、「ビジョン2030」が上手くいく可能性が高まり、サウジとイランの“差”が大きくなる見込みが強まれば強まるほど、イランが減産延長にNoを突き付ける可能性が高まると考えられます。