ドル建てがメイン。通貨の強弱により異なる通貨建ての金価格の値動きに差が生じる

 通貨の単位がドルの資産を“ドル建て(どるだて)”の資産、単位が円の資産を“円建て”(えんだて)の資産と呼びます。よって、NY金は“ドル建て金”、国内小売は“円建て金”となります。

 ドル建て金と円建て金の関係は以下のとおりです。

・値動きの主従関係は、ドル建てが主、円建てが従。ドル建て金が円建て金の値動きを主導、円建て金はドル建て金に追随する傾向がある。
ドル/円相場の変動は、ドル建て金と円建て金の主従関係に影響を与える。
ドル安・円高は、ドル建て金の強含みと円建て金の弱含みの要因。ドル安・円高時において、ドル建て金が上昇した場合、ドル建て金の上昇率は円建て金よりも大きくなる。
・ドル安・円高の度合によっては、ドル建て金が上昇しても円建て金が上昇しない、あるいは下落するケースもある
ドル高・円安は、ドル建て金の弱含みと円建て金の強含みの要因。ドル高・円安時において、ドル建て金が下落した場合、ドル建て金の下落率は円建て金よりも大きくなる。
・ドル高・円安の度合によっては、ドル建て金が下落しても円建て金が下落しない、あるいは上昇するケースもある

 以下の図のとおり、2000年台前半から2013年ごろまで、NY金先物価格(ドル建て金価格)と国内小売参考価格(円建て金価格)の動きに目立った差が生じました。この時期のドル/円の動きに注目すると、ドル安・円高方向に推移していることが分かります。

図:NY金先物価格と国内小売参考価格(税抜)、およびドル円の推移

※NY金先物価格と国内小売参考価格(税抜)は1978年10月を100として指数化
出所:CME(シカゴ・カーマンタイル取引所)および国内地金商などのデータをもとに筆者作成

 もともと2000年台前半から2013年頃にかけて、NY金先物価格(ドル建て金価格)は、中央銀行の買い、リスクの高まり、利下げ(ドル安)などの上昇要因が、入れ替わりながら作用して上昇しました。そしてこれに追随し、国内金小売参考価格(円建て金価格)も上昇しました。

 同じ金価格上昇でも、ドル建てと円建てで大きな差が生じたのは、グラフ下部のドル/円の推移がその一因になっていると考えられます。ドル/円がドル安・円高方向に推移していたため、先述のドル建て金と円建て金の関係のとおり、ドル建て金が上昇するも、円高によって円建て金がドル建て金ほど上昇しない、という事象が発生していたのです。

 特に、2009年から2013年頃までのドル建て金価格の上昇には、米国の金融緩和が深く関わっていたため(リーマン・ショックで激震!4年間の「金狂宴」の背景は?をご参照ください)、ドル安が直接的なドル建て金価格の上昇要因となっていました。

 ドル安によってドル建て金の上昇に拍車がかかる一方、ドル/円は円高方向に進み、円建て金は上値を抑えられやすくなった、その結果、ドル建て金と円建て金の上昇に、より大きな差が生じた、と言えます。

 この上昇の度合いの違いが、現在の金相場を表現する際、“40年ぶり”“6年半ぶり”と、異なる表現となった直接的な要因だと考えられます。仮にこの間、円建て金価格がドル建て金価格と同じような上昇となっていれば、今頃はドル建て金も円建て金も、“6年半ぶりの高値”と表現されていた可能性があります。