――渋沢栄一は投資を推奨していたのですか。

渋澤 渋沢栄一は1978(明治11)年に東京証券取引所の前身、東京株式取引所を設立しました。1873(明治3)年に第一国立銀行を設立しているので、銀行と証券取引はセットであると考えたのでしょう。

渋澤健さんの事務所には多くの渋澤栄一の書籍が

 5年後に新1万円札が発行されたとき、肖像の渋沢栄一が何を言うかと想像してみました。銀行などにある現預金980兆円に対し、「タンス預金」は40兆円から50兆円あると見られています。タンス預金は経済活動にまったく寄与しません。お金は大河のように世の中に循環すべきだという考えを持つ渋沢栄一ならば、「わしは暗いところは嫌いじゃ」と言うと思うのです。合本主義は、一人の大株主が会社を支配するのではなく、大勢の株主がいろいろな立場から参加することを望んでいます。今に置き換えれば機関投資家だけでなく、大勢の個人投資家がネット証券や投資信託を通じて参加して欲しいと、渋沢栄一は願っているでしょうね。

――ところが私たちは投資によってお金を循環させているとはあまり考えていません。改めて投資とは何なのでしょうか。

投機と投資の違いとは…

渋澤 投資とは「安いところで買って高いところで売る」と思っていませんか? では投機とは? やはり「安いところで買って高いところで売る」ですよね。では投資と投機はどう違う?

――投資期間ですか。

渋澤 投資は長期で、投機は短期。それはそうなのですが、ではどのタイミングで投機が投資に変わるのでしょう。1週間、1カ月、1年? 私はこう考えています。投機はプライスしか見ていません。投資はプライスと価値の差です。

 プライスが自分の思っている企業の価値よりも低ければ買い、高ければ売り。消費者は、店で売っている服の値段と価値を比較して、適正価格なら買う。バーゲンで安くなっていれば喜んで買う。でも価値に見合わなければ買いません。それが普通の行動なのに、投資と名が付くと、価格が安くなると怖くなって逃げてしまい、高くなると価値があると思って飛びつく。投資は消費行動と同じと理解して行動すればいいのです。決してエキゾチックなことではありません。 

後編に続く>>

※1 公益を追求するという使命や目的を達成するのに最も適した人材と資本を集め、事業を推進させるという考え方。渋沢栄一記念財団HPより。
※2 1916(大正5)年に書かれた講演録。
※3 「自分からこうしたい、ああしたいと奮励さえすれば、大概はその意のごとくになるものである」(「論語と算盤」角川ソフィア文庫)。

渋澤健さんの著書『あらすじ論語と算盤 (宝島社新書)』をチェック!

『あらすじ論語と算盤 (宝島社新書)』を、宝島社の担当編集者がコメント! インタビューと併せて読みたい一冊です。要チェック!