米国の金利上昇とドル高相場

先週末発表された米雇用統計は失業率が5.0%(予想:4.9%)、非農業部門就業者数が15.6万人増(予想:17.4万人増)とそれぞれ市場予想を下回る結果となったが、「強すぎず・弱すぎず」という数字は、ゴルディロックスというぬるま湯相場にとっては都合のよいものであったようだ。

大統領候補の2回目の討論会は「ugliest debate ever」(かつてない醜い討論会)と評されるレベルの低い批判合戦となった。討論会直前に過去のトランプ氏の「女性蔑視」発言が公表され、クリントンが絶対有利の展開かと思われたが、まだ勝利を確信させるまでには至っていない。ここで勝利宣言できないところが、クリントンの人気のなさを物語っている。とは言え、2回の討論会で消去法的とはいえクリントンが優位に立ったことは明らかであり、株式市場は横ばいながら堅調さを維持している。

ゴールドマン、モルガンなどの米大手証券が「米国10年国債が2%を目指す」という金利上昇レポートを出したことや、ファンド勢の米国債売りで米国10年国債金利は昨日1.8%台まで上昇してきた。CMEのFEDWATCHの12月の利上げ確率は69.5%となっており、市場は12月の利上げを織り込みにいっている。

米国10年国債金利(日足)
ゴールドマンやモルガンは金利上昇シナリオだが、一方でHSBCは米金利の上昇に懐疑的な見方をとっている

(出所:石原順)

ドル高トレンド相場

米国の金利上昇で為替市場は久々のドル高トレンド相場となっている。下の「トレンドの発生と消滅」をみていただければ明確なように、現在、ポンドもユーロも円も対ドルで<教科書通り>のドル高トレンドが発生している。

トレンドの発生と消滅

(出所:石原順)

ドルインデックス先物(日足) 買いシグナル点灯中
ドルインデックスの上昇は100が大きな抵抗か?
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段;21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

ポンド/ドル(日足) 売りシグナル点灯中
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段;21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

ユーロ/ドル(日足) 売りシグナル点灯中
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段;21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

ドル/円(日足) 上値抵抗線をブレイク、買いシグナル点灯中
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段;21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

原油価格の上昇も株価を下支え

原油市場の動きに変化がでている。原油価格下落による国家財政の悪化で、サウジアラビアは公務員給与削減など追い込まれている。サウジアラビアはシェールオイル潰しをやっている間に、自分の尻に火がついてしまった。

20年間にわたりサウジのエネルギー相をつとめていたヌアイミが、サウジアラビア副皇太子の側近であるファリハと交代した今年5月からは、サウジアラビアの原油戦略に変化が生じ、これまでの減産拒否路線を転換したと言われている。

原油価格の上昇でリスクオンになるのは今年1~2月の相場急落がオイルマネーの売りであったこと、原油価格の下落が新興国の景気を悪化させ、それが世界経済の足かせになっているという発想からであろう。筆者は50ドルで利食いしてしまったが、いずれにせよ株式市場は原油価格の上昇をリスクオンとしてとらえているようだ。

NY原油先物(日足) 転換点売買のシグナル(買い=赤・売り=青)

転換点売買
<修正平均ADX(パラメータ3)>がピークに達した次のローソク足の方向についていくだけの短期売買手法である。ストップ注文を置いて参入、直ちに利食いをおこなう場合もあるし、利が乗ってきたらトレール注文的な決済、あるいは過去X日間の高値・安値のブレイクで決済をおこなうこともある。いずれにせよ、損切り注文を入れることは必須である。
上段:13日エンベロープ±3%(青)・±10%(赤)
下段:3日修正平均ADX(青)

(出所:石原順)

世界経済が総じて停滞しているなかでの米国の利上げ

FRBは12月14日に利上げするだろう。しかし、世界経済は長期停滞中である。10月4日、IMFのチーフエコノミスト、モーリス・オブストフェルド氏は声明で「世界経済は総じて停滞している」、「低成長が長引けば低所得者層を置き去りにし、すべての問題をグローバル化のせいにする政治的な動きが強まる」、「あまりに長く成長が低迷し、多くの国においてごくわずしか恩恵が及んでいない」、「政治的な反動が世界経済の成長をさらに下押しする可能性が高い」とし、反グローバル化の動きに懸念を示した。

筆者はクローバリーゼーションの巻き戻しが起こっていると言い続けているが、ブレグジットや米大統領選、欧州の移民問題をみても明らかなように、どの国も内向きの自国優先主義に転換している。即ち、米国も自国優先のドル安政策を志向している中で、現在の米金利上昇=ドル高という相場の持続性も考えなければならない状況にある。筆者は、年内の相場にはどちらかというと慎重であり、ストップロス注文をかならずおいて、相場と対峙している。

現在、世界最大のヘッジファンドを率いるレイ・ダリオは「FRBは短期的な景気サイクルにばかり目をとられている。しかし、長期債務サイクルに目を向けるべきであろう。世界経済の現状は、格差やポピュリズムの台頭といった点で、1930~40年代と似ている。日本や欧州の金融政策は経済刺激の限界に近く、米国や中国はまだ余裕がある。しかし、世界経済が減速しそうなのは間違いない。現在、リスクは圧倒的にダウンサイドにあり、混乱の引き金を引きかねない利上げをすべきではない」と、警鐘を鳴らしている。

NYダウ週足とフィルター付き逆張り売買のシグナル
NYダウは26週移動平均線(赤)が重要なライン

(出所:石原順)

不透明な相場環境だが転換点売買は好調

パラメータが3の修正平均ADX(70以上・30以下の領域での反転)とエンベロープを観察しながら、筆者は日足で相場の転換点売買を継続している。

転換点売買は、<修正平均ADX(パラメータ3)>がピークに達した次のローソク足の方向についていくだけの短期売買手法である。

ストップ注文を置いて相場にエントリーし、直ちに利食いをおこなう場合もあるし、利が乗ってきたらトレール注文的な決済、あるいは過去X日間の高値・安値のブレイクで決済をおこなうこともある。いずれにせよ、損切り注文を入れることは必須である。

J. ウェルズ・ワイルダー・ジュニアが開発したADX(平均方向性指数)の計算式は様々なバージョンがあるが、筆者の使っているのは、ワイルダーのオリジナル、即ち、修正平均で計算されたADXである。そもそもADXは相場の順張りに使う指標であるが、筆者はADXを逆張り指標としても用いている。当然ながら相場に絶対の法則はない。したがって、失敗も多いが、今年の相場では良好なパフォーマンスが継続している。

日経平均先物(日足) 転換点売買のシグナル(買い=赤・売り=青)
上段:25日エンベロープ±5%(青)・±10%(赤)
下段:3日修正平均ADX(青)

(出所:石原順)

NYダウ先物(日足) 転換点売買のシグナル(買い=赤・売り=青)
上段:18日エンベロープ±1%(青)・±3%(赤)
下段:3日修正平均ADX(青)

(出所:石原順)

ドル/円(日足) 転換点売買のシグナル(買い=赤・売り=青)
上段:13日エンベロープ±2%(青)・±3%(赤)
下段:3日修正平均ADX(青)

(出所:石原順)

NZドル/円(日足) 転換点売買のシグナル(買い=赤・売り=青)
上段:13日エンベロープ±2%(青)・±3%(赤)
下段:3日修正平均ADX(青)

(出所:石原順)

ユーロ/ドル(日足) 転換点売買のシグナル(買い=赤・売り=青)
上段:13日エンベロープ±1%(青)・±2%(赤)
下段:3日修正平均ADX(青)

(出所:石原順)

ポンド/ドル(日足) 転換点売買のシグナル(買い=赤・売り=青)
上段:13日エンベロープ±2%(青)・±3%(赤)
下段:3日修正平均ADX(青)

(出所:石原順)

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日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。