中央銀行バブルの限界説

先行きの追加緩和を匂わせながらもECBは9月の緩和を見送った。日経新聞で「日銀、緩和拡大はマイナス金利軸に総括検証」と報道されているように、「日銀は20~21日に開く金融政策決定会合でまとめる異次元緩和の総括的な検証で、今後の金融緩和の軸にマイナス金利政策の深掘りを据える方針だ。経済・物価の下振れリスクが依然大きいため、現在は年マイナス0.1%の金利をさらに下げることを検討する。超長期の国債利回りが大幅に低下するなどの副作用を抑えるため、国債購入では長期と短期の金利差を広げるように促すことも協議する」のだという。(2016/9/14日本経済新聞)

黒田日銀総裁はマイナス金利幅の拡大によって円安誘導したいようだが、市場から嫌気されている。マイナス金利は銀行の収益悪化につながるという批判が多いので、日銀は国債購入で長期と短期の金利差を広げるように促し(イールドカーブをたてる)、市場の不満を抑えようという作戦らしい。しかしながら、日銀の現行の政策枠組みでは追加的な効果の減衰は避けられないだろう。現行の日本の異次元緩和策は出口のない状況になっており、最終的にバブルの延命という金融システムをソフトランディングさせていくことが難しくなっている。中央銀行の政策に逆らうのは得策ではないが、中央銀行の打つ弾がなくなるか、追加緩和が出来なくなるようなインフレになると、この先、金融危機が起こるのは必然であろう。

新債券の帝王と呼ばれる 米資産運用会社ダブルライン・キャピタルのジェフリー・ガンドラックは9月13日の東京での講演で、「日本と欧州でのマイナス金利政策の導入など、世界的に金融政策の限界が意識されていることがあると指摘。マイナス金利については、消費ではなく貯蓄を促進する効果があり、銀行を痛めつけて金融システムを破壊する。日本がマイナス金利政策を導入して以降、円は上昇(円高)、日経平均は上がらず、経済も改善しない。つまり、マイナス金利には政策当局が望んだ効果がなかったことが明らかだ」(13日 ロイター)と述べている。

テーパータントラム相場

日・欧の追加緩和策の限界が露呈するなか、先週から日米欧の長期金利が上昇し、米国株も大幅に売られる状況となっている。株も債券も売られる状況で投資家は買うものがなくなり、ポートフォリオに占める現金の比率上がっている。バンク・オブ・アメリカの調査では、「投資家は手持ちの現金を増やしており、その規模はここ15年で最高水準に達している」という。「現在の時間稼ぎのバブル延命策に最後までつきあっていると大変なことになる」という危機感がその背景にある。

日米欧の長期金利が上昇しているのは、日銀のフラット化したイールドカーブをたてる(銀行の利ザヤを拡げる)という政策が、長期・超長期国債の買い入れ額が縮小につながるというテーパリング(事実上の緩和縮小)観測を浮上させているためだ。

日本国債の利回り曲線

(出所:フィナンシャルタイムズ)

9月13日の講演でジェフリー・ガンドラックは、「世界的な金利上昇が起きつつある。日本と欧州におけるマイナス金利政策の失敗を教訓に政策の軸足が金融から財政にシフトしようとしているのを市場の一部がいち早く察知した」「私がこれまで35年運用の世界にいて学んだのは、マーケットに『絶対』はない、ということ。『金利は永遠に低いままで絶対上がらない』などと言われるが、それはつまり、金利上昇が現実に起きつつあると考えるべきなのだ。最近の市場をよく観察すれば、現にドイツ、日本、米国と金利は静かに上昇している」「各国中銀は今後マイナス金利政策を放棄し、財政政策による景気刺激を選択するだろう。いわゆるヘリコプターマネー政策が実施される可能性もあり得る。債券投資家にとって財政政策はネガティブ。債券市場はいち早く財政拡張の足音を察知している」(13日 ロイター)と指摘したという。

米国が年内の利上げに意欲をみせるなか、米国の代わりに日・欧中銀の超緩和策がバブル延命の補完装置となってきた。市場は追加緩和中毒となっており、今後も追加緩和の規模を拡大し続けないと、株のクラッシュや金利の上昇といったテーパータントラム(緩和縮小による市場のかんしゃく)が起こる確率が高まる。

米大統領選挙への不安が浮上

2016年の米国株式市場は、「米大統領選挙ではヒラリー・クリントンが勝利する」という前提で動いてきた。だから、最高値を更新したのである。しかし、ここにきてクリントンの健康問題や政治献金問題がクローズアップされている。これまでは、「仮にトランプが勝つとFRB議長が交代し、軍事産業の株も売られる」と投機筋の間で噂になっていた程度だったが、現在、運用者はトランプ勝利のシナリオを真剣に考えている。ジェフリー・ガンドラックは、「米大統領選については、共和党のドナルド・トランプ候補が勝利する」と予想している。

ラリー・ウィリアムズのサイクル論とマーケット分析

8月25日のレポート『当り屋ラリー・ウィリアムズの警鐘と9月相場の見通し』で、「米国株に強気で、米国株の予想では非常に精度の高い予測を発信しているラリー・ウィリアムズも、日本株も米国株も9月はサイクル分析から下げ相場になる可能性が高いと指摘しており、9月相場には注意が必要であろう」と書いたが、株式市場は下げの循環の時期に入ったようだ。

今年の米国株式市場は、概ねラリー・ウィリアムズの年間予測とサイクルに相似する形で動いてきたが、ラリー・ウィリアムズは9月12日の「ラリー・ウィリアムズの週刊マーケット分析」でS&P500、日経平均、DAXの相場見通しを明確に語っている。

「米国株はここから下げに入り、ダブルボトムパターンである時期(著作権の関係で詳細は延べられない)に底を打つ。そこは絶好の買い場となる」というのがラリーの現在の見立てだが、その底はまだ先の話である。

「ラリー・ウィリアムズの週刊マーケット分析」(ラリーTV)9月12日
S&P500(日足) 年間予測(赤)サイクル(青)
*著作権のため画像の一部を隠しています

(出所:「ラリー・ウィリアムズの週刊マーケット分析」(ラリーTV)9月12日)

「ラリー・ウィリアムズの週刊マーケット分析」(ラリーTV)9月12日
S&P500(日足) 年間予測(赤)サイクル(青)
*著作権のため画像の一部を隠しています

(出所:「ラリー・ウィリアムズの週刊マーケット分析」(ラリーTV)9月12日)

「ラリー・ウィリアムズの週刊マーケット分析」(ラリーTV)9月12日
S&P500(日足) 年間予測(赤)サイクル(青)
*著作権のため画像の一部を隠しています

(出所:「ラリー・ウィリアムズの週刊マーケット分析」(ラリーTV)9月12日)

「ラリー・ウィリアムズの週刊マーケット分析」(ラリーTV)8月22日
日経平均(日足) サイクル(青)
*著作権のため画像の一部を隠しています

(出所:「ラリー・ウィリアムズの週刊マーケット分析」(ラリーTV)8月22日)

株式市場と通貨市場の転換点のシグナル

今年のトレンドレスな相場環境で筆者が継続しているのは、ドル/円・ユーロ/ドル・日経平均・NYダウの転換点売買だ。もちろんシグナルがすべて相場の転換点になるわけではない。損失を限定するためにストップ・ロスを置いて機械的に売買しているが、現在も好調な相場循環を持続している。

転換点売買

<修正平均ADX(パラメータ3)>がピークに達した次のローソク足の方向についていくだけの短期売買手法である。ストップ注文を置いて参入、直ちに利食いをおこなう場合もあるし、利が乗ってきたらトレール注文的な決済をおこなうこともある。いずれにせよ、損切り注文を入れることは必須である。

日経平均先物(日足)
上段:25日エンベロープ±5%(青)・±10%(赤)
下段:3日修正平均ADX(青)

(出所:石原順)

NYダウ先物(日足)
上段:25日エンベロープ±5%(青)・±10%(赤)
下段:3日修正平均ADX(青)

(出所:石原順)

ドル/円(日足)
上段:13日エンベロープ±2%(青)・±3%(赤)
下段:3日修正平均ADX(青)

(出所:石原順)

金融危機で財産を失わないために

今日はリーマンショックから数えて8年目の日である。グローバリゼーションが促した貧富の格差問題は日本だけではなく、ピケティが指摘したように世界レベルの問題だ。この問題は政治のみならず、現在のマーケットに大きな影を落としている。これは時代の流れだから、政治を嘆いてもしょうがないし、日本の少子高齢化問題と同様に、そう簡単には解決しないと諦めた方が良い。そんななか、個人としてできることは、投資で所得を増やし、金融危機で財産を失わないためにマーケットの底流にある動きに注意を払うことであろう。

NYダウ(月足)と米国の景気後退期
リーマンショックから8年・・、ローレンス・サマーズ、アラン・グリーンスパン、ジョージ・ソロス、ジム・ロジャース、レイ・ダリオ、ジェフリー・ガンドラック、ビル・グロース、マーク・ファーバーらが、現在の相場に警鐘を鳴らしている

(出所:石原順)

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日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。