8月初旬波乱相場→8月中旬いいとこ取り相場→8月下旬から9月相場は波乱含み

筆者は今後の相場展開について、「8月初旬波乱相場→8月中旬いいとこ取り相場→8月下旬から9月相場は波乱含み」というイメージを持っている。目先は「いいとこ取り相場」が続きそうだ。

しかし、9月相場には注意が必要だろう。ファンド勢は9月21日の「日銀の緩和総括」を警戒している。日銀もECBも追加緩和は限界に近いところまでやっており、WSJなど海外メディアの報道では、「日銀は次回の会合で金融政策の検証をするが、物価目標と量的緩和を切り離し、今後ゆるやかに量的緩和やマイナス金利を縮小していくのではないか」という観測報道が多い。

9月21日の日銀会合で日本の緩和拡大路線に見直しが入る可能性も

ここにきてBIS(国際決済銀行)は量的緩和やマイナス金利の副作用を警戒する報告書を発表している。また、「マイナス金利政策は、これまでのところ成功」と日本に非伝統的な金融政策を促してきたIMFが、8月2日の年次報告書では「日本は非伝統的な金融政策が長引けば、金融の安定性が損なわれるおそれがある」と、量的緩和やマイナス金利の副作用を指摘している。

「金融庁は日銀のマイナス金利政策が、3メガ銀行グループの2017年3月期決算で少なくとも3000億円程度の減益要因になるとの調査結果をまとめた。同庁は収益悪化が銀行の貸し付け余力の低下につながるとみて、日銀に懸念を伝えた。調査結果は日銀が9月に予定するマイナス金利政策の<総括的な検証>の材料になる見通しだ」(8月13日 日経新聞 「マイナス金利で減益3000億円 日銀に懸念伝達 金融庁、3メガ銀調査と」)と、日本の金融庁も日銀のマイナス金利政策に懸念を示している。

8月18日現在の日本国債の利回り曲線(イールドカーブ)は、もうマイナス金利政策は縮小されるという見通しを映している。

日本国債の利回り曲線

(出所:フィナンシャルタイムズ)

日本国債の利回り(3カ月~30年)

(出所:フィナンシャルタイムズ)

日本市場からの資本流出の報道が多いのも気になる。「シカゴ拠点の調査会社ヘッジファンド・リサーチによると、日本市場で運用するヘッジファンドの上半期収益率はマイナス6.1%。運用額も減少しており3月末時点で15年6月末比14%減の262億ドル(約2兆7700億円)と、昨夏以降は資金流出が拡大している」(ブルームバーグ)し、運用成績の良い豪州マゼランファンドのヘイミッシュ・ダグラスは「日本のインフレ率とGDPの改善に賭けるような投資は、リスクが高過ぎるとわれわれは考える」(ブルームバーグ)と日本株に投資していない。また、「JPモルガン・アセット・マネジメントはジャパン・マーケット・ニュートラル・ファンドを9月1日付で清算する」(ブルームバーグ)という。

日本株は現在、「年間6兆円のETF買い」のアナウンスメント効果で底堅いが、「日銀のETF買いが株価を押し上げる効果が見られたのは2010年12月から検証してみても49.0~53.3%程度」と報道されている。

テーパータントラムが起こる可能性を危惧

今の市場は追加緩和中毒に陥っているが、ファンド運用者の間では、「そろそろテーパータントラムが起こる可能性」が危惧されている。

「財政赤字の増大とインフラ支出の増加(そして、おそらくヘリコプターマネー)で、もちろん、先進国の政府債は急増し続けるだろう。実際、ここ数年はそうなっている。とはいえ、しばらくは問題化しないだろう。なぜなら、中央銀行がさまざまな公的機関が発行するすべての債券を買い上げられるからだ。大規模な公債の貨幣化である(いわゆる「財政ファイナンス」)。しかし、ある時点で、この金融の歪曲は「意図せぬインフレ」の出現をもたらすだろう。例えば、中央銀行家の期待を超える物価の高騰だ。物価高騰がより明白かつ有害になると「転機」が訪れると考えてよい(なお、我が家では、いかなるデフレにもなっていない。生活費が年々上昇しているからだ)」(The Gloom, Boom & Doom Report マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート2016年8月号「他国の視点と思考で他国を本当に理解しようとする国などない」)

「ひとつ明確にしておきたいことがある。中央銀行で紙幣を増刷している連中とその仲間たち、資産保有者(私を含む)、そして紙幣増刷の恩恵を受けているあらゆる官僚と政治家が支配する現在の世界は、完全な失敗で終わるということだ。私たち投資家にとって唯一の問題は、不動産、株式、債券、収集品、貴金属、現金のうちどれを保有するのがマシかである。また、知識ある人間として自問すべき、何よりも重要な問題がある。いかに民主主義(初めは良かれと思ってなされた)が急激に崩壊し、腐敗の泥沼、権力の乱用、権力者を一般人よりもひいきする法律の恣意的適用、完全に機能不全となり「いたずらに」ビジネスを妨害している官僚主義、そして非選出の無責任な(よくいってもモラルが疑われる)学者による不健全な金融政策に陥ってしまったのか。この問題で眠れぬ夜をすごしているわけではない。だが「どうしてこんなことになってしまったのか?」と日々首を振りながら困惑し、不思議に思っている自分がいる」(The Gloom, Boom & Doom Report マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート2016年8月号「他国の視点と思考で他国を本当に理解しようとする国などない」)

陰鬱博士マーク・ファーバーは、「まだ中央銀行バブルは延命する可能性がある」とみているようだが、問題は名うての運用者の多くが、今の相場に警鐘を鳴らしていることだろう。

カリスマ運用者たちの警鐘

8月6日の「カリスマたちが鳴らす株高への警鐘」という日経新聞の記事でも紹介されているが、米国株が最高値相場を更新しているにもかかわらず、名うての運用者の多くが現在の相場に警鐘を鳴らしている。

「この環境下では債券や株式への投資は好ましくない。土地や金のような資産が好まれる」(債券の帝王ビル・グロス)、「全てを売れ。良さそうなことは何もない。投資家は何も間違っていないと催眠にかかっているようだ」(新債券の帝王ジェフリー・ガンドラック)と、かなり悲観的な見通しが多い。

「米著名投資家のジョージ・ソロス氏も今年に入り金(ゴールド)関連への投資を拡大したばかり。「彼らは中央銀行や政府高官、業界最高のコンサルタントなど市場参加者の多くが手の届かない情報に接することができ、警告は傾聴に値する」(米証券会社コンバージェックスのニコラス・コラス氏)と、著名投資家の動向は市場でも注目の的だ」(日経新聞 8月6日「カリスマたちが鳴らす株高への警鐘」)という。

G・ソロスは第2四半期末にS&P500株価指数に連動するETFの約400万株相当を売る権利(プット)、および小型株ラッセル2000指数に連動するETFの180万株とジャンク債連動ETFの82万株をそれぞれ対象とするプットも保有している。「富豪ジョージ・ソロス氏の一族の資産を管理するファミリーオフィスは4-6月(第2四半期)末に、株式相場が崩れれば利益を上げるオプションを大量に保有していた。ソロス氏が今年<大規模な弱気ポジション>をとっているとの報道にも合致する動きだ。しかも、四半期報告書を見れば一目瞭然のやり方でヘッジしているのは注目に値する。報告義務のないポートフォリオの片隅では一体どんな弱気ポジションになっているのかと考えてしまう」(8月17日 ブルームバーグ ソロス氏は08年危機再来を透視か、プット大幅積み増し)と、その弱気ポジションが注目されている。

米国株に強気で、米国株の予想では非常に精度の高い予測を発信しているラリー・ウィリアムズも、「8月末から9月初めにかけて大きな転換ポイントが確認できると思います」と述べており、9月相場の動きに注目したい。

「ラリー・ウィリアムズの週刊マーケット分析」(ラリーTV)8月15日
S&P500(日足) ラリーの買いシグナル(赤丸)はうまくワークしているが、この先の相場の転換には注意したい

(出所:「ラリー・ウィリアムズの週刊マーケット分析」(ラリーTV)8月15日)

日本株はPKOの規模からしたら、もっと上げても不思議ではないが、上げ相場の障害になりそうなのが「円高」である。今週のラリーTVでラリー・ウィリアムズは、先週金曜日の安値(102.円26銭)にストップを置いて円買いを推奨していたが、今週は99円63銭まで円高が進行している。いましばらく、ドル/円の大局は戻り売りでよいだろう。

「ラリー・ウィリアムズの週刊マーケット分析」(ラリーTV)8月15日
ドル/円(日足) シカゴIMM表示(上昇=円高・下落=円安)

*著作権のため画像の一部を隠しています
(出所:「ラリー・ウィリアムズの週刊マーケット分析」(ラリーTV)8月15日)

筆者は7月21日に200日EMAフィルター付きのストキャスティクスの逆張りで売りシグナルが点灯して以来、ドル/円は102円50銭にストップ(強制利食いポイント)を下げて売りっぱなし(ほったらかし)である。豪ドル/円はストップがヒットして、ポジションの半分をいったん強制利食いしたが、今週に入って利食いした分をまた売り直している。

ドル/円(日足) 200日EMAフィルター付きストキャスティクスの逆張りシグナル
7月21日に売りシグナルが点灯
上段:200日EMA(紫)・52日ボリンジャーバンド±2シグマ(赤)・フィルター付き売買シグナル
下段:ストキャスティクス5.3.3

(出所:石原順)

豪ドル/円(日足) 200日EMAフィルター付きストキャスティクスの逆張りシグナル
7月19日に売りシグナルが点灯
上段:200日EMA(緑)・52日ボリンジャーバンド±2シグマ(赤)・フィルター付き売買シグナル
下段:ストキャスティクス5.3.3

(出所:石原順)

大局的な円高基調相場に変化なし

8月中旬の相場は、「米国の利上げは12月までない」という楽観的な見通しから、ドル安・株高相場が展開されている。

ユーロ/ドル(日足)
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(青)

(出所:石原順)

豪ドル/ドル(日足)
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(青)

(出所:石原順)

ドル/円(日足)
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド1シグマ(青)

(出所:石原順)

一方、NY連銀のダドリー総裁が「9月の利上げはあり得る。金利先物市場は利上げを織り込んでいない。そういった状況を考慮すると10年債利回りはかなり低い」と述べているように、今後の経済指標次第では利上げ観測が再浮上する可能性もある。しかし、利上げ観測からのドル高の進行は株安要因でもあり、いつものようにリスクオフから円高が進行してしまう可能性の方が高い。いずれにせよ、2016年の米国はドル安政策に傾いており、大局的な円高に変化はないだろう。

「有能なトレーダーにとって重要なのはチャートにおける支持・抵抗水準ではなく、その日の高値や安値でもない。受け入れる苦痛の程度なのである。自分がどれだけの苦痛を受け入れるか前もって決めておくことが大切!学び、習い、考え、備え、そして、行動せよ」(ラリー・ウィリアムズ)

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日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。