予想通り8月初旬の相場は荒れ模様、経済対策の効果は長期間持たない

かなり早い時点からレポートやラジオ等で警鐘を鳴らしておいたが、8月初旬の相場は荒れ模様となっている。8月は円高・株安の確率が高い月だ。そして、今年の8月初旬および下旬の相場は注意を要する。

日本は30兆円近くも経済対策を打って、ETFを6兆円も買い入れるという当局の発表も虚しく、円高・株安・国債金利上昇という相場の推移が続いている。いくら財政赤字が増えても、日銀が輪転機を廻して買い取ってくれるので、日本は大型の補正予算を組んで景気対策に踏み出した。しかし、ゴールドマン・サックスによると、「1990年以降25回の経済対策を調査したところ、このうち18回で政府の承認後1カ月以内に金融市場は当初の上げを消している」という。

先週のレポートで、「いかなる相場操縦も長期的には成功しない」と書いたように、結局、相場を人為的にコントロールすればするだけ、そのツケが回ってくるということだ。通常、相場は値幅か日柄(時間)のどちらかで調整する。大きく見ると、92年夏に宮沢蔵相が始めた株価PKO政策の継続で日本株は失われた25年(日柄調整)相場になっている。そして、いまだにPKOによって相場を維持しようとしている。何度も言うが、「PKO相場の答えはジリ貧(日柄調整)」である。

日経平均(月足)
PKOによる延命相場の答えはジリ貧、92年夏の宮沢蔵相のPKOからずっと日本株は日柄調整相場を続けている

(出所:石原順)

今週、「安倍首相の28兆円経済対策、バブル崩壊後から続く長い轍を踏む運命か」(8月1日 ブルームバーグ)というコラムを読んだが、「PKO相場の答えはジリ貧(日柄調整)」だということを海外の投資家も感じているようだ。以下の文章を読んでいただきたい。

『28兆円の経済対策で日本経済を再生させようという安倍晋三首相の「大胆な」計画には、先人たちがたどった道筋が待ち受ける。1990年のバブル崩壊以来、日本が財政出動で経済対策を打つのはこれで26回目。その効果には疑問符が付く。日本は少なくとも1993年以来、毎年補正予算を組んでいる。だが、この追加的な歳出をもってしても6回にわたるリセッション(景気後退)と慢性的なデフレ、債務の膨張と急速な高齢化に見舞われた。日本経済はこれらをいまだ脱却できずにいる。(中略)過去の例に倣うなら、当初の発表は市場をにぎわすが、追加的な財政出動が日本経済の根本的な問題解決にほとんど役立たないことが実感されるにつれて成長は急速にしぼんでいく。ゴールドマン・サックスによると、1990年以降25回の経済対策を調査したところ、このうち18回で政府の承認後1カ月以内に金融市場は当初の上げを消していた。(中略)バンク・オブ・シンガポールのチーフエコノミスト、リチャード・ジェラム氏は「日本は2010年代の問題に1990年代の処方箋で対処しているように思われる」と述べ、「短期的な需要刺激策で経済に恩恵があるとは実際思わない」と語った』(「安倍首相の28兆円経済対策、バブル崩壊後から続く長い轍を踏む運命か」(8月1日 ブルームバーグ)

大局ジリ貧とPKOとのせめぎあいの日本株、有効なテクニカル指標は?

そうはいっても、日銀は打つ玉を6兆円も持っている。「1,000億円以上の投資信託が毎週設定されるようなもの」と日経新聞で報道されているように、相場下落の局面ではPKOが入ってくるのである。

大局ジリ貧とPKOとのせめぎあいの日本株で、筆者の考える有効なテクニカル売買指標は、25日エンベロープ±5%・10%バンドと9日RSIの逆張りシグナルである。相場に絶対の法則などない。しかし、日経平均をみるうえで、25日エンベロープ±5%・10%バンドと9日RSIの逆張りシグナルはかなりの優位性を与えてくれている。筆者はストップロスを置いて、淡々と逆張りを敢行しているだけである。

日経平均(日足) 逆張り 9日RSIの売買シグナル
上段:25日エンベロープ±5%(赤)・±10%(青)
下段:9日RSI(赤)

(出所:石原順)

さらなる大規模なマネタイゼーション(ヘリコプターマネーを含む)があるかもしれない

日銀の追加の金融緩和策に国債の買い入れの増加などが盛り込まれなかったことで、日本国債を売る動きが広がっている。債券市場では国債買い入れの限界が近づいているとの認識から、「日銀が2%の物価目標を1%にする」、「米国の圧力で政府が円安・金融緩和路線に見切りをつけ、財政出動(公共事業)を増やす従来型の土建国家に戻る」など、新たな緩和手法の導入や金融政策の枠組みの変更に乗り出すのではないかとの思惑を呼んでいるという。

日本10年国債金利(日足) 日本がインフレにならない限りは致命的なことにはならないが、債券市場は金融政策の限界を感じ始めた・・
上段:14日修正平均ADX(赤)・ 26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:52日ボリンジャーバンド±2シグマ(青)

(出所:石原順)

マーク・ファーバーが、The Gloom, Boom & Doom Report(マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート7月号)で鋭い指摘をしている。『紙幣が協調的に増刷される現環境下では、名目的な資産価値は、システム全体を揺るがす大きな危機として現れるまでに、かなり高くなっているだろう。しかも、米国債が資産デフレのシナリオで支持され続けるとは到底思えない。私は米国債を保持しているとはいえ、消費者物価が突如として上昇し、景気が下降する転換点は近いと気づいている。その結果、中央銀行はさらに紙幣を増刷するだろう。なぜなら、連中の見解では「何もしないよりも紙幣を増刷したほうがマシ」だからだ。申し訳ないことに、どなたが送ってくれたか失念してしまったが、現在の投資環境について、うまくまとめた文章がある。マイナス金利と量的緩和は、貯蓄家に大打撃を与えた。そして、政治家にとって喫緊の課題である。構造改革の遅滞を許した。政治が必要な浄化をなおざりにすればするほど、大衆迎合の政治家や過激発言の政治家に追い風が吹く。緩和政策は恒常的となり、その効果は薄れる一方だ。ところが、うんざりするほどの権力による歪曲・乱用・妨害は増す一方である。貯蓄家がバカをみて、投機家が得をしている。悪い企業は生き残り、良い企業は怖くて投資ができない。要は、無能な政府と厄介な官僚社会がもたらす経済問題によって、たくさんの投機的な機会が生まれており、そして今後も生まれるだろうということだ。オスカー・ワイルド(アイルランドの詩人)がいう。官僚社会は拡大する官僚社会の必要性を満たすために拡大していく・・』(The Gloom, Boom & Doom Report(マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート7月号「概して米国人の暮らし向きが今ほど良いときはないというのは本当か?」)

海外投資家の多くは、もう日銀の追加緩和などに興味はなく、日本がヘリコプター・マネーや永久債の発行にいつ踏み切るかということにしか興味がないらしい。マーク・ファーバーはThe Gloom, Boom & Doom Report(マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート4月号「中央銀行はマッチポンプがお好き」)で、「金利の上昇は政府予算にも破壊的な打撃をもたらすかもしれない。債務の利払いが急増するからだ。この状況下で、そして中央銀行が資産価格の下落について懸念していることを考慮すると、世界中でさらなる大規模なマネタイゼーション(ヘリコプターマネーを含む)があるかもしれない。なお、こうした政策を金融業界に影響力を持つ人たちの多くが扇動していると補足しておくべきである。業界は現行システムと一蓮托生であり、資産価格が上がらなくても、下げさえしなければよいのだ」と語っていたが、ヘリコプター・マネーを日本に推奨しているアデア・ターナー(G・ソロスも出資している新経済志向研究所ロンドン上級研究員)は、「日本は5年以内にヘリコプター・マネーの導入を余儀なくされる。日銀が保有する大量の国債を政府への無利子・無期限の預け金に切り替える」と予言している。

8月は円高の月?

現在の円相場は、良い円安のあとの悪い円高が到来している。悪い円高の次は悪い円安になりそうだが、悪い円安の到来はヘリコプター・マネーの導入がきっかけとなろう。先週のレポート「8月は円高の月?豪ドル/円は今年も8月安か?」で取り上げた豪ドル/円・ドル/円(日足)フィルター付きストキャスティクスの逆張り売買が好調に推移している。

豪ドル/円(日足) 200日EMAフィルター付きストキャスティクスの逆張りシグナル
7月19日に売りシグナルが点灯
上段:200日EMA(紫)・52日ボリンジャーバンド±2シグマ(赤)・フィルター付き売買シグナル
下段:ストキャスティクス5.3.3

(出所:石原順)

豪ドル/円星取表
2000年から昨年2015年までの相場で、8月に豪ドル/円が豪ドル安・円高になった確率は81.2%である。

(出所:石原順)

先週のレポートにも書いたが、豪ドル/円の上昇傾向がある月は日本の年度替わりの4月で、12月が4月の次に上昇しやすい。逆に8月の豪ドル/円相場は顕著な下落傾向があると思われる。

豪ドル/円(月足) 2000年~2016年 豪ドル/円は8月が安い?
(赤は4月安・8月高となった失敗の月)

(出所:石原順)

8月というのは「円高の月」との印象が強い。8月は北半球が夏休みシーズンに入り市場の流動性が落ちるため、突発的な材料で相場の変動率が上がりやすい。米著名投資家ラリー・ウィリアムズも8月は円高を予想している。

ラリー・ウィリアムズの週刊マーケット分析(ラリーTV)
ドル/円 (シカゴIMM表示 上昇=円高・下落=円安)
*著作権のため画像の一部を隠しています

(出所:ラリー・ウィリアムズの週刊マーケット分析(ラリーTV)8月1日)

ドル/円(日足) 200日EMAフィルター付きストキャスティクスの逆張りシグナル
7月21日に売りシグナルが点灯
上段:200日EMA(紫)・52日ボリンジャーバンド±2シグマ(赤)・フィルター付き売買シグナル
下段:ストキャスティクス5.3.3

(出所:石原順)

米国株にもそろそろ警戒が必要か?

『直近の強気相場について歴史的観点から考えてみよう。1932年以降、米国の株式市場では13回の大きな強気相場があった。そのなかで、この強気相場の規模と期間は、標準をかなり大きく上回っている。S&P500では5番目にあたる上昇率であり、3番目にあたる長さだ。一方、1929 年以降、大きな弱気相場が14回あった。平均して34.65%の下げが15.6 カ月続いている。次の循環的弱気相場が過去14回の平均規模・期間と同等であるとすれば、S&P500 はさらに31%下げ、今年9月上旬に1392で底入れする」(The Gloom, Boom & Doom Report マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート4月号「中央銀行はマッチポンプがお好き」)』とマーク・ファーバーは指摘しているが、現在の米国株は利上げ後ずれ観測によってバブル相場が延命(エクステンション)している状況だ。

1929年以降のS&P500の大きな強気・弱気相場

(出所:The Gloom, Boom & Doom Report マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート4月号「中央銀行はマッチポンプがお好き」)

マーク・ファーバーは直近のレポートでも「私が知るかぎり、世界の金融界で食物連鎖の最上位にいると思われる人々が、すっかり身をひそめ、かなり真剣に備えを講じている。マクロレベルでみると、冬に備えるリスのような動きだ」と金融市場の底流になる動きを捉えているが、とりわけ、ゴールドマン・サックスの<弱気>が運用者の間で話題となっている。

2016年の株式市場の予測では、米著名投資家のラリー・ウィリアムズの予測がずばぬけて精度が高く、筆者も彼の予測は傾聴に値すると思っている。ラリーは基本的にまだ米国株の強気を維持しているが、8月の半ばから月末の相場の下落には注意が必要で、8月中旬に米国株が反転する可能性があると述べている。先週のレポートにも書いたが、歴史的に株式相場が下がりやすい月というのは「5月」・「9月」・「10月」である。8月相場の下落には注意が必要であろう。

S&P500(日足) 買いトレンド消滅・・8月相場は荒れそう?
上段: 26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±0.6シグマ(緑)

(出所:石原順)

NYダウ(日足) 8月下旬相場は要注意か?
上段: 26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±0.6シグマ(緑)

(出所:石原順)

相場とは一体何かと言うと、それは「確率に賭けるゲーム」であろう。筆者が心がけていることは、勝つ確率の高い局面で投資を行うということである。みなさん、ストップロス注文だけはお忘れなく!

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日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。