Brexit(英国の EU 離脱)はある意味で必然だったのかもしれない

第一次・第二次世界大戦を経て、欧州の自滅を防ぐためにここまで欧州統合が進んできた。ユーロの導入やEUの拡大は、強すぎるドイツ(過去のヒトラーのような脅威)を封じ込めるためにフランスが音頭をとってきたが、ここにきて拡大ユーロの限界や拡大EUの限界が露呈してきたようだ。

EUは官僚的な組織で、事実上ドイツの一人勝ちのなか、何でもドイツの言うことを聞かなければならない体制が出来上がっている。風下に置かれているドイツ以外の欧州諸国はそれが面白くない。ユーロを導入した国々は欧州危機で不景気になっており、また、侵略で欧州を脅かすような敵国の脅威もなくなっていることから、EU統合の理念を維持するのが難しくなっている。ある調査機関の調べでは、EUに対する支持率はドイツが50%、英国が44%、フランスは38%となっている。

このような状況のなかで、Brexit(英国の EU 離脱)はある意味で必然だったのかもしれない。英国の国民投票は目先の損得より、「ドイツの言うことをききたくない。EUの強固な官僚制に従いたくない」という感情で投票した人が多かったのである。

元々、英国は二枚舌外交の国であり、欧州大陸を分裂させて英国が利を得る戦略をとってきた。英国は東欧諸国をEUに加入させEU拡大路線を推進する役に回っていたが、手を入れて引っ掻き回した挙句の果てに、今度は英国が離脱する事態となっている。

EUは本質から言えば独・仏の国家統合であり、アングロサクソン連合に属し、欧州大陸とは距離を置く英国がEUから離脱するのは、短期・中期的にはともかく、長期的には英国にとっていいことかもしれない。

EU離脱後、英国はよい方向に進む?

陰鬱博士と呼ばれる逆張り投資家のマーク・ファーバーは、「Brexitは英国にとっていいことであり、金融市場(シティ)を破壊したりしない。大国より小国の方がうまくいくし、EU脱退による不都合は(ノルウェーやスイスのような)2国間協定でカバーできる。英国がEU脱退を決めれば、株式市場と英ポンドは上昇するだろう」と、逆張り的発想を語っている。

EUからの離脱で、英国は短期的な政治的・経済的混乱は避けられない。英国は利下げする可能性があるし、ポンドはそれによってさらに売られるかもしれない。しかし、そうなれば通貨安によって英国経済は復活するだろう。

米著名投資家のラリー・ウィリアムズは、「EU離脱後、英国はよい方向に進むだろう。より多くの経済パートナーとの自由貿易が経済発展につながると考えた場合、英国と欧州との距離は遠くなり、英国と米国の関係は強固になって米国に接近(アングロサクソン連合)してくるだろう。そして英国と中国、インドとの距離は接近する。英国の決断は長期にはプラスで、EUにとってはマイナスだと思う」、「政治アナリストたちによると、イギリスの決断はトランプ支持を意味すると伝えている。確かに、トランプはEU離脱を支持していた。これは、グローバリズムを否定する思想が世界で強まっているからだろう。持てる者と持たざる者の戦いだが、経済の問題だけではなく、自国第一主義の主張の高まりでもある。私の予測では、これは英国の終わりではない。英ポンドは、ここから少し下落して、その後、盛り返してくるだろう」(出所:ラリー・ウィリアムズの週刊マーケット分析(ラリーTV)6月20日号)と、語っている。

もちろん、EUからの離脱で英国はスコットランドの独立や北アイルランド問題の再燃が懸念されている。しかし、もっと怖いのはEU分裂の恐怖やEU分裂のドミノ倒し観測である。現在はEUを統合する大義名分というのが見出しにくい状況にあるが、オランダ、イタリア、スペイン、ポルトガル、フランス、そしてドイツでも英国に続こうという機運が一部で出てきている。

ラリーは「英国の決断は長期にはプラスで、EUにとってはマイナスだと思う」と語ったが、フランス、スペイン、イタリアの株価はBrexitで大きく下げた。筆者はすでに急落したポンド/ドル相場より、長い保合相場が続いているユーロ/ドルの保合離れ相場に注目している。

ポンド/ドル(週足)
上段:14週修正平均ADX(赤)・26週標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21週ボリンジャーバンド±1シグマ

(出所:石原順)

ユーロ/ドル(週足)
上段:14週修正平均ADX(赤)・26週標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21週ボリンジャーバンド±1シグマ

(出所:石原順)

警戒すべきはBrexit(英国の EU 離脱)より中央銀行バブルの崩壊

株価が少し戻したので、またぞろ万年強気&右肩上がり的な相場解説が増えている。これだけ下げた相場なのでリバウンドはあるだろうが、事はそう簡単ではない。現在の相場は負債の急増と異常低金利により強引に支えられているからだ。その胴元である中央銀行の金融救済策は、皆がうすうす感じているように限界を露呈している。

日経平均(日足) 25日エンベロープ-10%水準に接近、とりあえず、いいところまで下げた?
25日エンベロープ±5%(青)・±10%(赤)

(出所:石原順)

あるファンドマネージャーは「EUというのはグローバルな拡大を目指しているわけではなく、その反対であるブロック化の流れである。英国にとっては、EUというブロックから出ていこうが留まろうがあまり問題ではない。経済的な問題というより、政治的な問題だ」、「多くの投機筋が大儲けを狙っているのは、Brexit(英国の EU 離脱)などではない。中央銀行バブルの崩壊だ」と述べている。

世界の信用市場が負うすべての債務(1950年~2015年)

(出所:マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート<The Gloom, Boom & Doom Report> )

円キャリートレードの巻き戻しで、円高・日本株安に

投機筋の多くがYOUGOVという世論調査の会社に騙されたようである。投票日になってYOUGOVの世論調査は途転して、いきなり残留優勢との結果を発表した。開票日の報道は最後まで離脱派優勢のままだった。ドル/円は早朝の残留決定的という楽観報道で107円近くまで上昇していたが、それがその後の暴落の幅を大きくした。「そんな馬鹿な!」と慌てふためいた市場参加者の売りによって市場からビッドがなくなり、ポンド/円にいたっては、なんと27円も暴落したのである。

Brexit(英国の EU 離脱)問題では、英国よりも日本市場のほうが大きな影響を受けている。なぜ、Brexit(英国の EU 離脱)でこれほど大幅な円高・日本株安になるのか、日本人としては腑に落ちないが、海外の運用者から見れば、「円キャリートレードの巻き戻しが起きている。日本は相場操縦の限界を露呈しているし、過去数年間のPKOのツケを払う循環が現在到来しているのだ」ということになるらしい。

ポンド/ドル(日足)
日足相場では<3日修正平均ADX>が70以上や30以下になった時が相場転換の領域となりやすい。相場の転換ポイントは矢印のポイントである。<3日修正平均ADX>がピークに達した次のローソク足の方向についていくだけの短期売買手法で、ストップロス注文(トレール注文=トレーリングストップ注文)を置いて参入し、失敗すれば直ちに撤退、トレール注文で利益の極大化を狙う売買手法である。
上段:13日エンベロープ±1%(青)・±2%(赤)
下段:3日修正平均ADX

(出所:MT4 売買手法&インジケータ:『DVD 相場で道をひらく7つの戦略 ~短期売買実践編~』石原順)

ポンド/円(日足)
上段:13日エンベロープ±2%(青)・±3%(赤)
下段:3日修正平均ADX

(出所:MT4 売買手法&インジケータ:『DVD 相場で道をひらく7つの戦略 ~短期売買実践編~』石原順)

ドル/円(日足)
上段:13日エンベロープ±1%(青)・±2%(赤)
下段:3日修正平均ADX

(出所:MT4 売買手法&インジケータ:『DVD 相場で道をひらく7つの戦略 ~短期売買実践編~』石原順)

日経平均先物(日足)
上段:25日エンベロープ±5%(青)・±10%(赤)
下段:3日修正平均ADX

(出所:MT4 売買手法&インジケータ:『DVD 相場で道をひらく7つの戦略 ~短期売買実践編~』石原順)

いかなる相場操縦も長期的には成功しない?PKO相場の答えはジリ貧日柄調整

通常、相場は値幅か日柄(時間)のどちらかで調整する。大きく見ると、92年夏に宮沢蔵相が始めた株価PKO政策の継続で日本株は失われた25年(日柄調整)相場になっている。そして、いまだにPKOによって相場を維持しようとしている。PKO相場の答えはジリ貧(日柄調整)である。過去3年間はアベノミクスというPKO相場が功を奏して日本株も上がったが、円安=金融政策の限界と米国の円安ドル高牽制で円安を維持することが難しくなっている。

日経平均(月足)
PKOによる延命相場の答えはジリ貧、92年夏の宮沢蔵相のPKOからずっと日本株は日柄調整相場を続けている

(出所:石原順)

ドル/円はラリー・ウィリアムズのターゲットの100円に到達

先週、ドル/円の暴落を予測していたのは、米著名投資家ラリー・ウィリアムズだけである。ラリーは6月20日の「ラリー・ウィリアムズの週刊マーケット分析」で、「ドル/円は円高が進行するだろう。そのターゲットは100円である」と述べていた。

ラリー・ウィリアムズの週刊マーケット分析(ラリーTV)6月20日号
ターゲットはドル/円の100円です

(出所:ラリー・ウィリアムズの週刊マーケット分析(ラリーTV)6月20日号)

ドル高(ポンド安・ユーロ安)→株安→円高という循環になるか?

ドル/円は今年の2月に月足が20か月移動平均線を割り込んでから、大局は円高時代に入っている。パニック的状況のなかとはいえ、ドル/円が100円を割り込んでしまったので、下値リスクは95円まで拡大している。一方、上値の方は107円が重くなったと現状では考えている。

英国のEU離脱でEU分裂の恐怖が高まっており、ユーロは離脱ドミノ倒しのリスクで底がみえない(不透明)になっている。一方、英国は利下げ観測が浮上しており、ポンド安のトレンドとなりそうだ。仮にそうなれば、ドル高(ユーロ安・ポンド安)となるが、ドル高になると株は上がりにくい。株が上がらないと、株安リスクオフ相場で円高になる。

「ドル高(ポンド安・ユーロ安)→株安→円高というシナリオが濃厚だが、そうなるか否かの正念場は7月相場ではなく、リバウンドが終わった後の8月~10月相場だろう」という話がシカゴ筋の間で囁かれている。

ドル/円(月足) 20か月移動平均線と相場の転換

(出所:石原順)

ドル/円(日足) 200日エンベロープ±10%(青)±15%(赤)
ドル/円は95円~107円のレンジで水準模索か?

(出所:石原順)

ドル/円(日足)
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ

(出所:石原順)

このレポートで取り上げた売買手法の詳細はDVD『相場で道をひらく7つの戦略-短期売買実践編』(石原順)で取り上げております。興味のある方はご参照ください。

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日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。