またしてもビハインド・ザ・カーブ(利上げ後ずれ)か?

米国の利上げが焦点となるなか、5月の雇用統計は非農業部門の雇用者数が+3万8000人にとどまり、2010年9月以来の低い伸びとなった。また、3月と4月分も合計で5万9000人下方修正されている。

5月の失業率は4.7%と良かったが、労働参加率が低下しているので材料とならなかった。また、時間あたりの賃金も前月比で0.2%の増加となったが、FRBが2%インフレ目標を達成するには賃金が3%増加する必要があると言われており、賃金が上昇しているというには不十分な数字だった。

そもそも何億人も労働者がいる米国で数万人の変化など誤差の範囲内だが、市場は非農業部門雇用者数に反応してドル全面安相場となっている。

米雇用統計の推移(2000年~2016年)

(出所:石原順)

米雇用統計までの相場は、米国の要人の利上げ正当化発言で年央(6月~7月)の米利上げを織り込む動きが続いていた。米国の利上げ観測で、シカゴIMMで史上最高水準まで積み上がった円買いポジションが巻き戻され、これがドル/円の111円台までの上昇に大きく寄与した。しかし、5月31日現在の円買いポジションは激減しており、ポジションの巻き戻しによる円安圧力は大きく減退している。

シカゴ IMM 投機筋の円のポジション(CFTC発表 5月31日時点のデータ)
円買いポジションは激減、ポジション整理は終了

(出所:石原順)

FRBはS&P500が2,134を上回れば利上げするし、1,800を下回れば利下げする?

CMEグループが発表しているFEDWatchは、金利先物市場が織り込む7月利上げの確率は6月8日現在26.7%しかなく、7月の利上げの確率も低下している。ファンド運用者の間では、「米国の利上げは年一回で、早くて9月以降、12月になるのではないか?」と見方が多く、利上げ後ずれによって中央銀行バブルが延命し、米雇用統計以降に株を買っているファンドもある。しかし、米利上げに関する市場やFRBの見方はコロコロ変わっており、注意が必要だろう。

6月6日の講演でイエレンもハト派に変わってしまったが、それでも7月利上げの可能性は排除していない。FEDウォッチャーであるThe Wall Street Journalのジョン・ヒルセンラスは「6月の利上げはなさそうだが、7月利上げの可能性はまだある」と述べている。

FEDWatch  6月8日現在、金利先物市場が織り込む7月利上げの確率は26.7%しかない

(出所:CME)

筆者は米国の利上げに関しては、要人発言よりS&P500の株価の位置を重視している。経済データ次第といいながら、FRBは株価をみて政策を行っていると考えているからだ。

したがって、「FRBはS&P500が2,134を上回れば利上げするし、1,800を下回れば利下げする」という結論になる。S&P500が2,134を超えて大きく上昇すれば、それはバブル相場であり、既に局地バブルとなっている商業用不動産のバブルが暴走する可能性があるだろう。

S&P500株価指数(日足)FRBの政策(利上げ)は株価次第?
1,970~2,134ポイントは強烈な抵抗圏

(出所:石原順)

グリーンストリート商業用不動産価格指数

(出所:The Gloom, Boom & Doom Report 「マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート」パンローリング)

ドル安・原油高・米国株高だが、日本株はドル安円高でさえない

米国の利上げ観測の後ずれで息を吹き返しているのが原油やコモディティ相場である。資源・エネルギー株の多い米国株もドル安や原油高を好感している。一方、ドル安=円高を嫌気して、日本株はさえない動きとなっている。裁定残が一向に増えないのを見ると、海外投資家は日本株に興味を失っているようだ。

米国株は好調と言いながら、市場にカネが入ってきたのは先週からである。それまで、米国株式市場からは7間連続資金が流出していたし、ファンドや機関投資家は18週間連続売り越していた。決して、内容がいいとは言えない市場だが、6月23日の英国のEU離脱を巡る国民投票が予断を許さない状況となっており、積極的なポジションを取る投資主体が少ないのであろう。

原油先物(日足) 転換点売買好調
上段:13日エンベロープ±1%(青)・±2%(赤)
下段:3日修正平均ADX

相場の転換ポイントは矢印のポイントである。<3日修正平均ADX>がピークに達した次のローソク足の方向についていくだけの短期売買手法で、ストップロス注文(トレール注文=トレーリングストップ注文)を置いて参入し、失敗すれば直ちに撤退、トレール注文で利益の極大化を狙う売買手法である。

(出所:MT4 売買手法&インジケータ:『DVD 相場で道をひらく7つの戦略 ~短期売買実践編~』石原順)

NYダウ先物(日足) 標準偏差のみのトレンド相場
上段:21週ボリンジャーバンド±1シグマ(青)
中段:26週標準偏差ボラティリティ(緑)
下段:14週修正平均ADX(青)

(出所:MT4 売買手法&インジケータ:『DVD 相場で道をひらく7つの戦略 ~短期売買実践編~』石原順)

NYダウ先物(日足) 転換点売買好調
上段:18日エンベロープ±1%(青)・±3%(赤)
下段:3日修正平均ADX

(出所:MT4 売買手法&インジケータ:『DVD 相場で道をひらく7つの戦略 ~短期売買実践編~』石原順)

日経平均先物(日足) 調整相場
上段:21週ボリンジャーバンド±1シグマ(青)
中段:26週標準偏差ボラティリティ(緑)
下段:14週修正平均ADX(青)

(出所:MT4 売買手法&インジケータ:『DVD 相場で道をひらく7つの戦略 ~短期売買実践編~』石原順)

日経平均先物(日足) 転換点売買好調
上段:25日エンベロープ±5%(青)・±10%(赤)
下段:3日修正平均ADX

(出所:MT4 売買手法&インジケータ:『DVD 相場で道をひらく7つの戦略 ~短期売買実践編~』石原順)

ドル/円(日足) 14日修正平均ADXのみのトレンド相場
上段:21週ボリンジャーバンド±1シグマ(青)
中段:26週標準偏差ボラティリティ(緑)
下段:14週修正平均ADX(青)

(出所:MT4 売買手法&インジケータ:『DVD 相場で道をひらく7つの戦略 ~短期売買実践編~』石原順)

ドル/円(日足) 3回連続利益が伸びていない
上段:13日エンベロープ±1%(青)・±2%(赤)
下段:3日修正平均ADX

(出所:MT4 売買手法&インジケータ:『DVD 相場で道をひらく7つの戦略 ~短期売買実践編~』石原順)

6月23日の英国のEU離脱を巡る国民投票は予断を許さない状況と言われているわりには、ポンド/ドルはしっかりしている。どちらかにポジションを傾ける動きがあるわけではなく、短期筋の投げと踏み(損切り)の応酬相場となっている。いずれにせよ、<EU離脱>は織り込まれていない状況だ。注意が必要だろう。

ポンド/ドル(日足) 転換点売買好調
上段:13日エンベロープ±1%(青)・±2%(赤)
下段:3日修正平均ADX

(出所:MT4 売買手法&インジケータ:『DVD 相場で道をひらく7つの戦略 ~短期売買実践編~』石原順)

このレポートで取り上げた売買手法の詳細はDVD『相場で道をひらく7つの戦略-短期売買実践編』(石原順)で取り上げております。興味のある方はご参照ください。

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日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。