マーケットフレンドリーなイエレン

本日発表されたFOMCは予定通りの結果であった。イエレンは昨年のこの時期に株高の追い風を受けて「年内利上げ」を言い出したが、それによって株価の上値は重くなり昨年の8月に株価は急落した。「イエレンの性格を考えると、昨年の失敗がトラウマになっているだろう。だから、今回のFOMCはマーケットフレンドリーな結果になる。イエレンはドル高(株安)を嫌がっており、6月利上げを強く示唆するようなことはない」というのが、投機筋の読み筋だった。

NYダウ先物(日足)
上段:21日ボリンジャーバンド±0.6シグマ(青)
中段:26日標準偏差ボラティリティ(緑)
下段:14日修正平均ADX(青)

(出所:MT4 『DVD 相場で道をひらく7つの戦略 ~短期売買実践編~』石原順)

2月の上海G20以降は原油安・ドル高の流れが是正され、人民元の不安定な動きも収まって、リスク選考の流れが出来上がった。4月はジャンク債の償還が多く、原油高が必要だった。米国株の上昇は<原油高・ドル安>が必要条件となっており、大統領選を控えた米国は穏やかなドル安を望んでいる。世界的な景気の長期停滞の中、借金漬けの新興国にとってドル高は深刻な問題であり、ドル高による米国への資金還流により新興国は窮地に陥る可能性がある。要するに、日本以外はドル安賛成なのだ。

原油先物(日足)
上段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(青)
中段:26日標準偏差ボラティリティ(緑)
下段:14日修正平均ADX(青)

(出所:MT4 『DVD 相場で道をひらく7つの戦略 ~短期売買実践編~』石原順)

ラリー・ウィリアムズ 原油市場のフォーキャスト2016
米著名投資家ラリー・ウィリアムズは原油価格が4月に再び上昇すると述べていた

(出所:ラリー・ウィリアムズ『フォーキャスト2016』 著作権のためチャートは隠してあります)

失望サプライズの黒田日銀

4月15日にはルー米財務長官が、円高について「市場は無秩序にはなっていない」と述べ、円安誘導を行ってきた日本を間接的に批判する発言を行った。こうした米国の円安誘導牽制を受けると、5月26~27日のG7サミットの前に日本が露骨な円安誘導を行うのは難しくなる。

ところが、4月22日金曜日に「日銀から金融機関に貸し出すお金に対してもマイナス金利を適用する」というブルームバーグ記者の観測報道が出て、日経平均とドル/円は急騰した。同時にETFの買い入れの大幅拡大観測のレポートも数多く出てきて、会合前に緩和期待のハードルがかなり上がっていた。問題は日銀が噂通りの緩和をするかどうかであったが、日銀は何もしなかった。安倍政権はかなり腹を立てているだろう。今回、日銀が市場の期待通りの緩和をやれば、中央銀行の<マッチポンプ相場>とはいえ、7月の参議院選挙に向けて日本株の上昇トレンドを延命できた可能性があるからだ。

今回動かなかった日銀(財務省)としては、安倍首相にはしごをはずされてしまった意趣返しもあるのだろう。消費増税のために行った<バズーカ2>を、増税延期という形で返されたからだ。今回の現状維持は、「安倍首相が消費増税を確約しない限り、無駄打ちとなる緩和はおこなわない」というメッセージもあるのではないか、という見方も多い。

そもそも財務省が一番嫌うのは国債金利の上昇や格下げである。国債の金利が上昇するのは嫌だが、円高になろうが、株安になろうが財務省的にはどうでもいい話である。日銀の内部でも、賃金が上がらない中での円安によるコストプッシュ・インフレという悪いインフレに対する批判があるという。ディマンドプル・インフレという良いインフレでないと意味がない。日銀はインフレ目標を掲げながらも(国債を買うための方便)、実は悪性のインフレと金利の上昇を一番恐れているのである。

5月は円高・株安のバイアスが強い

先週のレポート『このリスク・オン相場の賞味期限はいつまでか?』で、「現在の米国株の上昇は、例年のシーズナリー・サイクルや大統領選挙年のシーズナリー・サイクルが強い影響を与えていると思われる。筆者の周辺のファンドは「4月末までが米国株買いの賞味期限だろう。その後も上げは続くかもしれないが、ファンドの中間決算が多い5月は、上旬相場で利食いが出てもおかしくない」と観ている。米国企業の決算の中身は決して良いものではなく、下の<ロバート・シラー式循環調整済PER>や<S&P500のPSR中央値>を見ても米国株式市場は相当割高な水準にある」と書いた。

米国株はそれでもドル安・原油高で利上げ後ずれバブルが延命する可能性はある。しかし、日経ヴェリタスの前田編集委員から頂いた日本株の過去の経験則を見てみると、5月は円高・株安のバイアスが強い。6月は株高・円安で多少持ち直すが、7月から10月まで円高・株安傾向が続くというのが過去の平均騰落率である。

相場の転換点はチャートが教えてくれる!?

筆者の<順張り売買の手法>は以下の図の通りである。

勝てる場面の見分け方「Bollinger Bands 1σTrigger with STD」

(出所:石原順)

強いトレンドが発生しているサインは、標準偏差ボラティリティと修正平均ADXの2本のラインが(低い位置から)一緒に上昇しているところだ。上のチャートでは、上段の緑色のゾーンである。

売買注文のタイミングは、ボリンジャーバンドで判断する。日足チャートのローソク足がボリンジャーバンドの1σのラインを外側に飛び出したところがエントリー(新規注文)ポイントだ。日足のローソク足が1σの内側に戻ったら、エグジット、すなわちポジションを手仕舞い(返済注文)する。

以上が石原式トレンドフォロー(順張り)売買のシンプルなルールである。標準偏差ボラティリティと修正平均ADXでトレンドを判定し(トレンドの判定)、ボリンジャーバンドの1σでロスカットを設定する。(損失限定)そして、相場が1σの外にある限り利食いはしない。相場が1σの外にある限り、利益は伸びていく。(利益の極大化)

トレンドを判定し、リスクを抑え、利益を極大化するのが、「Bollinger Bands 1σTrigger with STD」のシステム設計思想である。修正平均ADXやボリンジャーバンドのパラメータを変えるのは問題ないが、経験から言えば標準偏差ボラティリティのパラメータは26がベストだと思われる。

上に書いた筆者のトレンドの定義から言えば、現時点のドル/円の日足相場はトレンドがない。相場を休んでもよいが、筆者のような職業トレーダーは収益機会を常に追求しなければならない。そこで、トレンドのない期間に行っているのが、相場の転換点を当てる短期売買と逆張りである。

ドル/円(日足) 現時点のドル/円の日足相場はトレンドがない
上段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(青)
中段:26日標準偏差ボラティリティ(緑)
下段:14日修正平均ADX(青)

(出所:MT4 『DVD 相場で道をひらく7つの戦略 ~短期売買実践編~』石原順)

以下のチャートはドル/円と日経平均先物の1時間足のチャートである。

パラメータが3の修正平均ADX(70以上・30以下の領域での反転)とエンベロープを観察しながら、日足でも1時間足でも相場の転換点売買をおこなっている。相場の転換ポイントは矢印のポイントである。これは、<修正平均ADX(パラメータ3)>がピークに達した次のローソク足の方向についていくだけの短期売買手法である。ストップ注文を置いて参入、直ちに利食いをおこなう場合もあるし、利が乗ってきたらトレール注文的な決済をおこなうこともある。いずれにせよ、この売買は損切り注文が必須で、筆者は短期のデイトレードにしか使用していない。

J. ウェルズ・ワイルダー・ジュニアが開発したADX(平均方向性指数)には様々なバージョンがあるが、筆者の使っているのは、ワイルダーのオリジナル、即ち、修正平均で計算されたADXである。そもそもADXは相場の順張りに使う指標であるが、筆者はADXを逆張り指標としても用いている。相場に絶対の法則はないので失敗も多いが、ストップロスさえおけば収益を上げることは可能である。

ドル/円(1時間足)
上段:13時間エンベロープ±0.3%(青)・±0.6%(赤)
下段:3時間修正平均ADX
ドル/円1時間足相場では<3時間修正平均ADX>が70以上や30以下になった時が相場転換の領域となりやすい。相場の転換ポイントは矢印のポイントである。これは、<3日修正平均ADX>がピークに達した次のローソク足の方向についていくだけの短期売買手法である。

(出所:MT4 『DVD 相場で道をひらく7つの戦略 ~短期売買実践編~』石原順)

日経平均先物(1時間足)
上段:13時間エンベロープ±1%(青)・±2%(赤)
下段:3時間修正平均ADX
日経平均1時間足相場では<3時間修正平均ADX>が70以上や30以下になった時が相場転換の領域となりやすい。相場の転換ポイントは矢印のポイントである。これは、<3日修正平均ADX>がピークに達した次のローソク足の方向についていくだけの短期売買手法である。

(出所:MT4 『DVD 相場で道をひらく7つの戦略 ~短期売買実践編~』石原順)

200日EMAフィルター付きストキャスティクスの逆張り

筆者の周辺のファンドでは、相場が200日EMA(指数平滑移動平均線)を下回っている局面では、戻り売りはするが押し目買いを休止しているところが多い。それが、危機から身を守る手段であり、急落や暴落に巻き込まれないためのアラート(警報)だからだ。過去200日間の市場参加者の平均コストを下回っている相場は、相場急落のリスクを孕んでいる。

逆張りは相場の転換点を当てるゲームである。トレンドに逆らってカウンターで売買をおこなうので、損切注文は必須の売買手法だ。相場で発生する大きな損は、相場で間違った後の処置をしなかったために発生する。相場は一に損切り、二に損切り・・、ポジションに忠誠を尽くしてはいけない。

相場は考えれば考えるほど難しくなる。世の中に楽な金儲けがないように、相場で儲けることは大変なことだ。結局、相場で一番大切なのは防御で、具体的にはストップロス注文を置くことである。あとに残された課題は利をいかに伸ばすかだ。それには、トレール注文が有効となろう。

ドル/円(日足) 200日EMAフィルター付きストキャスティクスの逆張りシグナル
上段:200日EMA(紫)・52日ボリンジャーバンド±2シグマ(赤)・フィルター付き売買シグナル
下段:ストキャスティクス5.3.3

(出所:石原順)

ドル/円(日足)
上段:13日エンベロープ±2%(青)・±3%(赤)200日EMA(茶)
下段:ストキャスティクス5.3.3

(出所:MT4 『DVD 相場で道をひらく7つの戦略 ~短期売買実践編~』石原順)

相場に絶対の法則はない。繰り返すが、最も重要なのは資産管理である。ラリー・ウィリアムズが言うように、「有能なトレーダーにとって重要なのはチャートにおける支持・抵抗水準ではなく、その日の高値や安値でもない。受け入れる苦痛の程度なのである。自分がどれだけの苦痛を受け入れるか前もって決めておくことが大切!学び、習い、考え、備え、そして、行動せよ」(ラリー・ウィリアムズ)ということだ。

このレポートで取り上げた売買手法の詳細はDVD『相場で道をひらく7つの戦略-短期売買実践編』(石原順)で取り上げております。興味のある方はご参照ください。

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日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。