いかなる相場操縦も長期的には成功しない

『ウィキペディア英語版では相場操縦について次のように説明している。「相場操縦とは、市場の自由かつ公平な運営を妨げ、株式・コモディティ・通貨の価格または市場に関して人為的な・誤った・紛らわしい状況を作り出す計画的な試みである。大半の国で禁止されている」私が経済・金融史で学んだことから、そして個人的に経済・金融の発展を観察してきた経験から、いくらか自信を持っていえることがある。それは「いかなる相場操縦も長期的には成功しない」というものだ。どのような操縦であれ(賃金・価格・家賃統制、価格安定を目的としたカルテル、為替操作、中央計画による完全統制経済など)、遅かれ早かれ操縦者のもくろみは市場メカニズムによって完全に打ち砕かれてきた』(マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート<The Gloom, Boom & Doom Report>3月号『相場操縦の達人となる傲岸不遜な中央銀行』)とマーク・ファーバーが述べているように、アベノミクスによる円安誘導相場は、市場メカニズムによって打ち砕かれる局面を迎えているようだ。

現在のドル/円相場は、ファンダメンタルズもシーズナル・サイクルも反映していない。<市場の非流動性リスク>が円高を促しているのである。ニューヨーク大学のヌリエル・ルービニ教授が指摘する「驚きが発生した時に、株式や特に債券の再評価は急激で劇的になりうる。同じ混雑した取引に捕まった全てのひとは、われ先に出口へと向かう必要がでる。これまでと反対方向への群れる行動が発生する」という、行動ファイナンス理論だ。マクロ流動性と市場の非流動性との組み合わせによる人為的相場の崩壊局面と言ってもよいだろう。日本にとっては災難の円高・株安だが、投機筋によっては相場操縦崩れの相場は短期間で収益を上げることのできる絶好の収益機会である。

これだけは押さえておきたいドル/円相場のテクニカル指標

ドル/円相場の大局を決めるのは20か月移動平均線である。月足のNY終値が20か月移動平均線を上抜けば円売り、下回れば円買いで、以下はチャートと売買シグナルである。現在、20か月移動平均線は118円39銭付近を走っているが、20か月移動平均線を上抜くまでは大局円高相場である。

ドル/円(月足)20か月移動平均線と売買シグナル

(出所:石原順)

ドル/円相場が今年の2月に20か月移動平均線を下回ったことで、円安トレンド相場は2015年6月の125円81銭で8年サイクルの円安のピークを付けたと思われる。

円/ドル相場(月足)と円の8年サイクル

(出所:石原順)

大局円高相場の中、足元のドル/円相場は、日足でも週足でも円高トレンドが発生しており、<ビッグ・トレンド相場>の局面となっている。

ドル/円(日足) 円買いシグナル点灯中
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

ドル/円(週足) 円買いシグナル点灯中
上段:14週修正平均ADX(赤)・26週標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21週ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

著名投資家ラリー・ウィリアムズのトレンド判定指標である<ラリー・ウィリアムズ・エキスパート>をみても、ドル/円は日足も週足も売りシグナルが点灯中である。

ドル/円(日足)ラリー・ウィリアムズ・エキスパート 円買いシグナル点灯中

(出所:石原順)

ドル/円(週足)ラリー・ウィリアムズ・エキスパート  円買いシグナル点灯中

(出所:石原順)

逆張り指標をみてみよう。筆者のみている9日のRSIの売られ過ぎによる買いシグナルはまだ点灯していない。

ドル/円(日足)と9日RSIの売買シグナル

(出所:石原順)

ストキャスティクスを使った<フィルター付きの逆張り指標>は、大局円高相場の中でドル/円の戻り売りがうまくワークしている。

ドル/円(日足)ストキャスティクス5.3.3のフィルター付き売買シグナル

(出所:石原順)

ドル/円は節目の110円を割り込んだことで、105円までの下落余地が生まれているが、運用者の間では200日移動平均線-10%乖離水準である107円40銭レベルを試すとの声が多い。

ドル/円(日足)200日エンベロープ±10%(青)・±15%(赤)

(出所:石原順)

現在、ドル/円相場の週足は60週ボリンジャーバンドの-2シグマの外での取引が継続しており、非常に強い円高トレンド相場となっている。ドル/円相場の週足が-2シグマの外にあるうちは、強い円高バイアスがかかり続けるだろう。

ドル/円(週足)60週ボリンジャーバンド±2シグマ(赤)・±3シグマ(青)

(出所:石原順)

筆者は自分の相場予測はするが、ポジションを取るのは順張りであれ、逆張りであれ、テクニカル指標を使っている。相場はタイミングを当てるゲームで、相場予測が当たることと、相場で儲けることには何の関係もないからである。

「適切な基本哲学を持っていれば、事態が変わることは結局利益になる。最悪でも、長い目で見れば生き残れるだろう。しかし、適切な基本哲学を持っていなければ、そのうち変化に殺されるので成功しない。私は、自分が予測なんてできないと分かっていた。だからトレンドについていくことにしたし、だからこそ大成功し続けているのだ。私たちはただトレンドについていく。そのトレンドが初めのうちどれほどバカげて見えても、またどれほど続いても、あるいは終わりがどれほど筋が通らないように見えても、私たちはトレンドについていく」(ジョン・ヘンリー)

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日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。