カナダドルや豪ドルはこれまで経験したことがないようなボラティリティを記録

ゼロ金利やマイナス金利と比較すればすべての商品が割安に映る。しかし、そういった基準で投資を行えば、歴史的に割高な商品を買うことになり、結局は中央銀行バブルの崩壊相場に巻き込まれかねない。

今年の年初に株式の運用者の多くが、「もう、買うものがない」という意見を述べていた。そのなかで、何を買おうかと議論になったが、運用者の興味を引いたのはマーク・ファーバーの視点である。マーク・ファーバーのレポートの代理店から掲載許可を得たので、マーク・ファーバーのThe Gloom, Boom & Doom Report(グルーム・ブーム・ドゥームとは、停滞、上景気、破滅を意味している。GBDレポートは全世界のユニークな投資機会に着目した経済・ファイナンシャルレポートである)から、少し引用させていただく。

「思い出してほしいのは、S&P500が2009年3月に付けた666と2011年10月に付けた1,074で底入れしたことだ。しかも大多数の株式がすでに2014年もしくは15年に付けた高値から20~40%下げている(すでにダウ運輸株平均は2014年11月高値から19%下げており、ラッセル2000指数は2015年6月高値から13%下げた)。そう考えると、新興国株の上昇はあり得そうにない。S&P500を上回る成績を出すかもしれないが、それはS&P500ほどは下げないということだ。したがって、株式でリスクを取るのは最小限にとどめるだろう。ただし、例外がひとつある。私は新興国株と割安株の成績が2011年以降、S&P500を大きく下回っていると述べた。しかし、私の目をとらえて離さないものがある。金鉱株だ。その成績は割安株や新興国株をさらに下回っているのだ(図12)。事実、新興国株に対する金鉱株の成績は、1997 年から2001 年にかけてと同じくらいのひどさで下回っている。いうまでもなく、2001年まで惨憺たる成績となったあと、素晴らしく卓越した成績を出している。ここで、はっきりさせておこう。私が好むのは現物金・銀・プラチナへの投資である。そして金鉱株の将来的成績については、2001年以降に起きたよりは控えめな期待をしている。とはいえ、金鉱株は価格が急激に2倍、3倍になり得るごくわずかな業種のひとつ(おそらく唯一の業種)だとみている。一方、S&P500が現在の水準から上昇する可能性はごくわずかしかないだろう。ちなみに、私は最近、バリック(ABX)を購入した。貴金属価格がさらに下落し、底練りが長期間続いた場合、鉱山会社の大半が倒産するのは完全に理解している」(出所:『マーク・ファーバー博士の月間マーケットレポート』The Gloom, Boom & Doom Report1月号『最も不安な国こそ最も変化を恐れる』パンローリング発行)

S&P500株価指数(週足)下げ幅の61.8%戻しを達成も、1,970~2,134ポイントは強烈な抵抗圏(ピンク色のゾーン)

(出所:石原順)

金鉱株×新興国ETF 1997年~2015年

(出所:『マーク・ファーバー博士の月間マーケットレポート』The Gloom, Boom & Doom Report1月号『最も不安な国こそ最も変化を恐れる』パンローリング発行)

「米国債の保有で唯一最大のリスクは、日・欧経済が奇跡的に急回復し、ドルが突如として価値を落とすことである。しかし、このあり得そうもないシナリオとなった場合、超低利回りの欧州と日本の国債が、米国債よりもはるかに不安定になるだろう。なお、このドル安のシナリオでは、コモディティ価格(貴金属を含む)、そして豪ドルやカナダドルといったコモディティ関連通貨も回復しそうだ。図13から分かるように、カナダドル(そして豪ドルも)は、過去5年にわたり、それまでなかったようなボラティリティを経験している。これは“金融安定化”の番人から連続バブル製造機に成り下がった中央銀行家たちの仕業である。石油などコモディティ価格の反発は、カナダドルにとって、そしてロシア資産にとって好都合であろう(ロシア資産は輸出解禁からも恩恵があるだろう)」(出所:『マーク・ファーバー博士の月間マーケットレポート』The Gloom, Boom & Doom Report2月号『投資目標を達成する最善の方法は目を覚ますこと』パンローリング発行)

カナダドルと米ドルの24か月変化率 1971年~2015年

(出所:『マーク・ファーバー博士の月間マーケットレポート』The Gloom, Boom & Doom Report2月号『投資目標を達成する最善の方法は目を覚ますこと』パンローリング発行)

原油の安定と財政出動観測で資源株が大幅高

先週のレポートで「ここにきてのマーケットの大きな変化は原油市場の落ち着きだろう。ダブルボトムパターンを作り、なんと原油先物の日足で久しぶりに買いシグナルが点灯した」と書いたが、その後も原油市場は堅調な推移となっている。筆者はゴールドが上げたのは米国のQEが理由だと考えており、ゴールドなどのコモディティ相場については世界的なデフレ圧力を考えると、マーク・ファーバーと違って強気になれない。しかし、原油はもう少し戻してもおかしくないと考えている。市場参加者からは「45ドルあたりまでは戻してもおかしくない」との声も多い。米国の金融政策いかんではあるが、いずれにせよ、現状のマーケットでは<ドル安・新興国株高・コモディティ高>というアンワインド相場の流れが出てきたようだ。

原油先物(日足) 買いトレンド相場継続中
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

G20での財政出動要請と原油市場の落ち着きを受けて、鉱業・資源関連の株価も急反発している。筆者がリーマンショックの後に手掛けた景気敏感株が底入れの兆しをみせており、3月相場は1~2月のような売り圧力は軽減されるとみている。

世界経済は好転の兆しがみえてこないが、G20で財政出動を促したこともあり、公共事業の効果から景気の持ち直し局面が到来するだろう。公共事業による景気回復の効果をみるには、鉄の需要がいちばんわかりやすい。筆者は現在、経済指標よりもバルティック・ドライ・インデックス(石炭、鉄鉱石、穀物等のメジャーバルク、砂糖、木材等の運賃市況)や、BHPビリトン (BHP Billiton)、リオ・ティント (Rio Tinto)、ヴァ―レ(Vale)といった鉄鉱石・資源関連の株価に注目している。

BHPビリトン(NYSE日足) BHP Billitonは世界最大の鉱業会社
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±0.6シグマ(緑)

(出所:石原順)

リオ・ティント(NYSE日足)  Rio Tinto は多国籍の鉱業・資源グループ
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±0.6シグマ(緑)

(出所:石原順)

ヴァーレ(NYSE日足) ヴァーレはブラジルの総合資源開発企業
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±0.6シグマ(緑)

(出所:石原順)

豪ドルやカナダドルの回復相場

先週のレポートで取り上げた豪ドルやカナダは堅調な相場を続けている。今週に入り、原油のリバウンド相場と併せて、トレンドの出ている豪ドル/ドルやドル/カナダドルの売買を行っているファンドが増えてきた。

豪ドル/ドル(日足) 200日EMA(指数平滑移動平均線)を上抜く
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

豪ドル/ドル(週足) 売られ過ぎか・・?
上段:14週修正平均ADX(赤)・26週標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21週ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

ドル/カナダドル(日足) 原油高・カナダドル高でトレンド相場継続中
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

豪ドル/ドルやドル/カナダドルのドルストレートと違って、対円相場での豪ドルやカナダドルはトレンド(方向性)のない調整相場となっている。これは、ドル/円の中期トレンドが円高を示唆しているからだ。下のチャートはドル/円(週足)の60週ボリンジャーバンドであるが、現在、ドル/円(週足)は60週ボリンジャーバンドの-2シグマの外での推移となっている。この動きが続く限り、ドル/円には円高バイアスがかかり続けるだろう。

豪ドル/円(日足) 調整相場
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

カナダドル/円(日足) 調整相場
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

ドル/円(週足)とMACDの売買シグナル 相場は-2シグマの外
60週ボリンジャーバンド±2シグマ(赤)・±3シグマ(青)

(出所:石原順)

今日から各国金融政策会合目白押しとなるが、なんといっても世界の中央銀行であるFRBの動向が注目される。筆者は思惑や予断を排してチャートに素直についていくだけだ。なぜなら、市場は正義や常識が実現される場ではないからだ。

「私がウォール街で働き始めたのは46年前のことである。そこでは非常に面白い経験をさせてもらった。巨大な強気相場と弱気相場、そしてコモディティ・株式・債券・不動産などの資産価格が崩壊する様を目の前でみた。しかも、金融インフレ期(その末路はすべて悲惨だった)を含む経済史について、また偉大なる古典派経済学者たちの業績について、熱心に研究した。しかし、心構えのできていなかった状況がひとつあった。世界経済と金融システムが、知性と専門性の欠如した、無知で、無責任で、そして誠意のなさそうな人々に散々引っ掻き回された状況である。それがいまの中央銀行の連中がしていることだ(ただし、ドイツ連銀のイェンス・バイトマンやインド準備銀行のラグラム・ラジャンのように、例外もいる)。さらに残念なことに、こうした連中を実業界、金融業界、そして(驚くまでもなく)メディア業界の多くの重鎮が支持してしまっている。金融業界で働く非常に聡明な人々が皆、自由市場と資本主義体制を支持しながら“データ依存”の中央銀行を批判していないのは、幻滅を禁じ得ない。中央銀行の連中は、計画者兼介入者となって所得と富の分配、通貨の流通、そして金利を決める役割を、むりやり演じようとしているのだ」(マーク・ファーバー)(出所:『マーク・ファーバー博士の月間マーケットレポート』The Gloom, Boom & Doom Report1月号『最も不安な国こそ最も変化を恐れる』パンローリング発行)

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日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。