中央銀行という仕手筋の仕手崩れ相場

円安で企業業績に下駄を履かせ、PKO(価格維持操作)と自社株買いだけで上げてきた日本株相場は、大雑把にいうと中央銀行が値付けをしてきた相場と言ってもよいだろう。ここにきて、当局(日銀)に打つ玉がないという陰りが見えてきたことから、一気に日銀という仕手筋の仕手崩れ相場となっている。仕手崩れの下げ相場は大きな値幅が出てスピードも速いため、売りを得意とする投機筋にとっては一番おいしい相場である。

下のチャートを見ていただきたい。標準偏差で相場を観察すると、通常、大きなトレンド相場の後、すぐには大きなトレンドは発生しないものである。しかし、14日修正平均ADXの動きを見ると、日経平均の昨年12月からの売りトレンド相場はまだ終わっていないのだろう。NYダウの動きは、売りトレンドの後の典型的な調整相場となっており、日経平均の動きはやや異色と言えよう。海外の投資家からは、「日経平均はPKOと周回遅れの高速取引推進(高速アルゴリズム売買勢のおもちゃにされている)のツケが回ってきた」との声が聞かれる。

日経平均(日足)
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±0.6シグマ(緑)・25日エンベロープ±10%(青)

(出所:石原順)

NYダウ(日足)
上段:14日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±0.6シグマ(緑)・18日エンベロープ±3%(青)

(出所:石原順)

<買いトレンドが出ている中での押し目買い>、<売りトレンドが出ている中での戻り売り>はワークするが、現在の局面では安易な逆張りは厳に慎むべきであろう。トレンド相場時の落ちたナイフを掴むようなカウンターの逆張りは中止するか、ストップロスを置くなどの防御が必要だろう。

日経平均(JP225 日足) 2015年12月2日~2016年2月10日 株安トレンド相場(黄色の部分=標準偏差上昇時)は逆張り停止
上段:3日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
中段:25日エンベロープ±5%(赤)
下段:9日RSI

(出所:Meta Trader4)

日経平均(JP225 日足) 2015年10月13日~2015年12月10日
上段:3日修正平均ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
中段:25日エンベロープ±5%(赤)
下段:9日RSI

(出所:Meta Trader4)

怒涛の円高相場とADX1時間売買

筆者は3時間修正平均ADX(ワイルダーのADX=平均方向性指数)がピークアウトした時の相場の方向性(チャートの矢印)に賭けて、このところずっと1時間足で短期売買を行っている。相場に絶対の法則はないのでいつでもうまくいくわけではないが、今の丁半ばくちのような相場環境でもストップロスさえおけば収益を上げることは可能である。この1時間足売買は、日足チャートでトレンドを確認することと、浅いストップロス注文が必須である。利食いは相場を見ながら適当にやっている。いいかげんだと思われるかもしれないが、あまり厳密にやらないほうがうまくいくのである。

ドル/円(日足)2月8日~9日の急落相場時のチャート
上段:21日ボリンジャーバンド
中段:26日標準偏差ボラティリティ
下段:14日修正平均ADX(青)

(出所:Meta Trader4)

ドル/円(1時間足) 2月8日~9日の急落相場時のチャート
上段:13時間エンベロープ±0.3%(青)・±0.6%(赤)
下段:3時間修正平均ADX(青)

(出所:Meta Trader4)

豪ドル/円(日足)2月8日~9日の急落相場時のチャート
上段:21日ボリンジャーバンド
中段:26日標準偏差ボラティリティ
下段:14日修正平均ADX(青)

(出所:Meta Trader4)

豪ドル/円(1時間足) 2月8日~9日の急落時のチャート
上段:13時間エンベロープ±0.3%(青)・±0.6%(赤)
下段:3時間修正平均ADX(青)

(出所:Meta Trader4)

ユーロ/円(日足)2月8日~9日の急落時のチャート
上段:21日ボリンジャーバンド
中段:26日標準偏差ボラティリティ
下段:14日修正平均ADX(青)

(出所:Meta Trader4)

ユーロ/円(1時間足) 2月8日~9日の急落時のチャート
上段:13時間エンベロープ±0.3%(青)・±0.6%(赤)
下段:3時間修正平均ADX(青)

(出所:Meta Trader4)

ポンド/円(日足)2月8日~9日の急落時のチャート
上段:21日ボリンジャーバンド
中段:26日標準偏差ボラティリティ
下段:14日修正平均ADX(青)

(出所:Meta Trader4)

ポンド/円(1時間足) 2月8日~9日の急落時のチャート
上段:13時間エンベロープ±0.3%(青)・±0.6%(赤)
下段:3時間修正平均ADX(青)

(出所:Meta Trader4)

金融システム不安と米大統領選挙年のNYダウのパターン分析

筆者は昨年の8月から流動性パニックの発生を度々指摘してきた。ヌリエル・ルービニNY大学教授が、「驚きが発生した時に、株式や特に債券の再評価は急激で劇的になりうる。同じ混雑した取引に捕まった全てのひとは、われ先にと出口へと向かうだろう。これまでと反対方向への群れる行動が発生する。だが、多くの投資は流動性に欠けるファンドへの投資であり、乱高下を円滑にしてきた伝統的なマーケット・メーカーはどこにも見当たらなくなる。したがって、売り手は投げ売りをせざるを得なくなる」という局面である。

日本の株価PKOが効かないのは、現在の相場は既にミンスキー・モーメント(信用循環または景気循環において、投資家が投機によって生じた債務スパイラルによりキャッシュフロー問題を抱えるポイント)に突入しているからである。

こうした状況で、自己資本の補強を目的に発行した債券への利払いに懸念が生じたドイツ銀行株が急落した。ドイツ銀行の噂は以前から流れていたものである。リーマンショック後の金融機関はどこも多かれ少なかれ<飛ばし>を行っているのは、ある意味で常識である。デリバティブを知っている人は大騒ぎしないが、ドイツ銀行の(ネットではない)想定元本ベースの1兆4000億ユーロという残高が驚きをもって報道されているようだ。

一方、米国では天然ガス掘削会社チェサピークエナジーの株が急落するなど、金融市場の動揺に拍車をかけている。昨年、10月にシェールオイル産業に対する評価が見直され、金融機関は融資金利の引き上げを行った。シュールオイル業界の倒産はまだわずかで、ジャンク債バブル崩壊が金融システム不安をもたらすのではないかと懸念されている。

いずれにせよ、中央銀行バブルが崩壊すれば、リーマンショックをしのぐ危機に発展する可能性がある。中央銀行バブルを延命せせることができるかどうか、今夜のイエレンFRB議長の講演が注目されている。

米国の景気後退色が強くなり、FRBが再び緩和に追い込まれる場合、QE4を発動するよりもマイナス金利を採用するのではないかとみられている。2月1日にスタンレー・フィッシャーが「マイナス金利策は、思っていたより良いものだ」と発言したからだ。

米大統領選挙年のNYダウは、1月~3月(下落)、3月~5月(上昇)、5月~8月(下落)、8月~9月(上昇)、9月~10月(下落)、11月~12月(上昇)というパターンが抽出できる。筆者はNYダウの上昇は3月辺りから始まるのではないかとみている。

『DVD 相場で道をひらく7つの戦略 ──標準偏差ボラティリティトレード』(石原順) が楽天ブックスで好評発売中です。

日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。