原油の下落とジャンク債不安

ウォール・ストリート・ジャーナル、ロイター、ブルームバーグなどのニュースで盛んにジャンク債市場のテールリスクが喧伝されている。ウォール・ストリート・ジャーナルの12月8日の報道によると、「ジャンク債の年初来の投資収益率はマイナス2.7%と、通年の収益率が2008年以来の低さを記録しそうな勢いだ。ジャンク債は、超低金利を背景とする投資家の利回り追及行動の恩恵を特に受けてきた。投資家は無リスクの米国債では十分な利益を得られなかったため、金融危機後に低格付けのジャンク債やレバレッジドローンといった高利回り・高リスクの投資商品に目を向けるようになった。米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げを控え、何年間も積極的に資金を借り入れてきた低格付け企業の脆弱性が表面化した途端に、投資家はこうした資産から資金を引き揚げる恐れがある。米国のジャンク債発行残高は12月4日時点で1兆3000億ドルと、2007年の7090億ドルから急増している。中でもエネルギー部門、商品(コモディティー)部門、重工業部門の企業は今年、エネルギー価格の下落やデフォルト率の上昇に伴い、大きな打撃を受けている」という。

ジャンク債は日本では一般的にハイイールド(高利回り)債と呼ばれている。異常低金利で機関投資家や投信が利回りを求めて買い進んできたジャンク債市場だが、HYGのティッカーで知られる iShares iBoxx $ High Yield Corporate Bond ETFが重要なチャートポイントを12月8日に割り込んだ。

iシェアーズiBoxx米ドル建てハイイールド社債ETF(日足)
バブル相場の指標銘柄(リスク許容度の指標)=「炭鉱のカナリア」か?

(出所:石原順)

QE3の終了以降、商品価格の下落に拍車がかかっているが、原油価格が下がるとシェール企業のジャンク債のデフォルトリスクが懸念される。シェール企業のジャンク債はCBO(Collateralized Bond Obligation:複数の社債を裏付け資産として発行される資産担保証券)の中に混ぜて売られているので、ジャンク債の保有者は正確なリスクを知らない人が多いようだ。シェール企業のジャンク債はサブプライム住宅ローンほどの規模ではないが、この先のテールリスクには注意が必要だろう。

原油先物(日足)
上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

日経平均は郵政上場に絡む裁定買いの反動相場

日経平均が大きく下げている。原油安によるリスクオフ相場と言えばそれまでだが、これほど大きく下げたのは、郵政上場前からの<裁定買い>を利用したPKO相場の反動であるという指摘が多い。それでもファンド勢は、「日本国債の金利が上昇するか円高にならない限りは、日本株に対する強気の姿勢は維持する」のだという。日本株のボラティリティが他国より大きくなっているのは、日経平均レバレッジ・インデックス連動型上場投信の大商いに絡んで日経平均の先物が大きく変動するからだ。

1570 NEXT FUNDS日経平均レバレッジ・インデックス連動型上場投信(日足)
上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±0.6シグマ(緑)

(出所:石原順)

「日銀のインフレ促進能力に自信を失った」というクルーグマンの変節

日本ではあまり報道されていないが、アベノミクスや日銀の大胆な金融緩和の理論的支柱であった経済学者のポール・クルーグマンが、「日銀のインフレ促進能力に自信を失った」ことがファンドの間で話題となっている。

クルーグマンが「日本論の再考」(Rethinking Japan)というNYタイムズのコラムで述べていることを簡単に言うと、「日本の量的緩和は失敗に終わった。うまくいかなかった理由は日本の人口動態(少子高齢化)のせいだ。これから必要なのは財政出動(30兆円ほどの公共事業)だ」ということになる。

「日本は、過去25年の間に緩やかな成長を遂げてきた。しかし、その原因は人口動態にあった。労働力人口1人当たりのGDPは、2000年以降米国よりも伸びている」と述べるクルーグマンは、日本がなぜインフレターゲットをやっているのかというと、「インフレにするのは景気を良くするためでもなければ、賃金を上げるためでもなく、財政再建を軌道に乗せるために必要であるからだ」と述べている。筆者がこのレポートでずっと述べてきたように、アベノミクスの本質は財政再建のための<金融抑圧政策>なのである。

ドル/円と日経平均のボリンジャーバンドの収縮

ドル/円と日経平均の21日ボリンジャーバンドが収縮している。保合離れの局面は‘ダマシ’にも注意が必要だが、いずれトレンドが発生しそうな状況である。まだ強い売りシグナルは点灯していないが、大きなトレンドが発生するか否かはここから2週間の相場が重要となろう。

ドル/円(日足)
上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド

(出所:石原順)

日経平均(日足)
上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド

(出所:石原順)

1月はドル/円のトレンドが反転しやすい月

ここからのドル/円相場の注意点は、1月相場はドル/円のトレンドが反転しやすいことだ。2000年以降はこの傾向が薄れつつあるが、2年連続で年初に急落しているので警戒は怠れないだろう。年末・年始のボラティリティの高い相場に対処するために、証拠金を厚めにする(レバレッジを上げない)など、ポジション管理を徹底したい。

ドル/円(月足)と1月相場の転換

(出所:石原順)

オバマ政権の終わりとドルインデックスの20か月移動平均線

米国の多国籍企業がドル高で苦しむなか、気になるのは米大統領選の行方である。現在のファンド勢の関心は、「米国の通貨政策が転換してもおかしくない」ことである。オバマ政権は一期目も二期目もクリントン政権のコピーだった。これは2013年6月のレポートで指摘したが、2期目のオバマ政権は、「高金利で米国(ドル)への資金流入を誘い、ドル高傾向を促すことで資金流入による株高と債券高を狙う」という2期目のクリントン政権の政策をコピーした。

クリントン政権とオバマ政権のドルインデックス相場(月足)
1期目はドル安政策・2期目はドル高政策
(1期目=黄色のゾーン・2期目=緑色のゾーン)

1期目(1993年~1997年)のクリントン政権はドル安政策を明言していた。1995年に円が79円75銭まで急騰したのは、クリントン大統領が「米国は円高をのぞむ」という為替市場の常識を覆す発言をしたからだ。ところが、2期目になると「強いドルは米国の国益」と180度為替政策を変えてきた。米国の通貨政策の転換はおそろしく単純だ。米国は景気が良くなるとドル高政策を採用し、景気が悪くなるとドル安政策を採用する。

米国の製造業の業績が低迷するなか、来年の大統領選挙を睨んで恐らくドル高けん制発言が出てくるだろう。その標的はモノを言いやすい対米従属の日本となる可能性が高い。

ファンド勢と来年相場の見通しについてミーティングを行っているが、来年2016年に向けての注意点は円安の賞味期限であろう。円のボトム(円安のピーク)の8年サイクルの前回のボトムは2007年6月高値124円13銭である。次の円のボトム(円安のピーク)は、サイクルでみると2014年後半~2016年前半に到来する。来年の前半はそろそろ円高に注意が必要な時期に入ってくる。

ドル/円(月足) 円のボトム8年サイクル
円安のピークは8年サイクルでみると2016年前半(黄色のゾーン)までに到来する

(出所:石原順)

そこで注目されるのは、これまでドル/円相場の転換点となってきたドル/円(月足) 20カ月移動平均線の攻防である。20カ月移動平均を割れるとドル/円が深押しする可能性が出てくるので注意したい。ドル/円の長期展望は円安を示唆しているが、いまの円安は所詮、「良い円安」であり、円安の進行は限られている。

将来的には悪い円安、即ち、大円安が到来することになるだろうが、相場の円安大転換の前には、往々にして高値波乱や反動の円高がつきものなのである。だから、来年の相場は円高への警戒が必要な局面を迎える。

ドル/円(月足) 20カ月移動平均線と相場の転換
来年のドル/円相場はどこかで20カ月移動平均線の攻防がありそう?

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日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。