株も国債も発行している張本人が最大の買い手

日本株の上昇が止まらない。政府と中央銀行が市場に直接手を入れるという「ケインズもびっくり」の相場が展開されている。現在の日本株の上昇をけん引しているのは、ご存じのとおり公的資金と自社株買いである。国家の意を受けた中央銀行が国債を買い、国家の意を受けた公的・準公的資金が株を買い、企業が自社の株を買うという動きから、現在の相場を<胴元相場>と呼ぶ運用者は多い。

日本企業の自社株買いは<ROE10%台への包囲網>に向けた動きである。今年の自社株買い需要は4~5兆円あるとも言われており、そうした動きが数年間は続くと言われている。これだけ自社株買いが出ていると、エクイティ・ファンナンスの意義に対する疑問が出てくるが、2月だけで日本円に換算して12兆円、年間100兆円規模の自社株買いが行われている米国株式市場に比べれば、日本企業の自社株買いの規模など可愛らしいものだ。

日経平均(日足)25日エンベロープ 国内買い需要で下値は堅い・・
(移動平均乖離)±5%(赤)・±10%(青)

(出所:石原順)

本来、株価も物価も景気がいいから上がるものである。結果としてそうなるのだ。しかし、日本ではそうした<過程>は無視されて、<結果>を動かす相場が展開されている。物価目標にしても、本来はディマンド・プル型インフレを目指すべきだが、コストプッシュ型インフレ(スタグフレーション)でも、「2%を達成すればなんでもよい」という感じが否めない。

株も国債も胴元が買うのはよいとして、胴元が株の最高値を買い上がったり、国債の歴史的な高値水準を買っているため、現在日本株を買っている海外投機筋も「日本市場に買い手がいるのはあと1年くらいではないか?」と観ているらしい

一方、為替市場は世界中で通貨安戦争となっており、また為替は相手があるので(2国間の国債の交換取引)露骨な操作を行うと政治問題や通商問題となってしまう。ドル/円は、統一地方選に向けた「為替固定・株高歓迎」の意を汲んだかのような相場展開となっている。選挙前事情と米国の急激なドル高を牽制しそうな雰囲気を察してか、ドル/円の上値では準公的機関の売りが出ていると噂されている。

ドル/円(日足)13日エンベロープ
(移動平均乖離)±1%(青)・±2%(赤)・±3%(紫)

(出所:石原順)

今年、賃上げを発表している企業は自動車と電気がほとんどであり、円安=株高という図式は整合的であるが、胴元買いの事情から、現在、円安と日本株高が連動しなかったり、米株高と日本株高が連動しない相場展開となっている。

注目のFOMCは「辛抱強く」の文言はずしとフォワードガイダンスの放棄

今回のFOMCも基本的には、「利上げは今後のデータ次第」ということ以外、何も言っていない。イエレンFRB議長は会見で「忍耐強くの文言を声明から削除したからといって、われわれが忍耐強くならないというわけではない」と述べている。以前のレポートに書いたが、FOMCは事実上、フォワードガイダンスを放棄している。

「FRBが今後行うことを詳しく説明するのを期待するのは禁物だ。なぜかと言えば、FRBはそれが分からないからだ。われわれは1年後に何をしているかを知らない。将来の正確性を追求し過ぎるのは間違っている」というスタンレー・フィッシャーFRB副議長の方針に沿った運営になっているのである。

昨日のFOMCでは「辛抱強く」の文言が予想通り削除されたが、一方で、米国経済やインフレ率、政策金利見通しを軒並み引き下げるなど、ハト派(バブル容認)的な内容となった。レイ・ダリオやジェフリー・ガンドラックといった大手ファンドの代表が「FRBは利上げに慎重になるべきだ」と発言しているが、イエレンFRB議長が同じスタンスを示したことで、米国株市場関係者は「ビハインド・ザ・カーブだ」と、金融(カネ余り)相場の延命に大喜びだ。

NYダウ(日足) イエレンが出てくると株が上がる
上段:18日エンベロープ(移動平均乖離)±3%(赤)
下段:ストキャスティクス(5.3.3)

(出所:石原順)

FOMCで公表された17人の政策金利予測のドット・チャートをみると、2015年末時点で政策金利1%以上が適切な水準だとした人数は4人となり、2014年12月時点の9人から大幅に減少した。

FOMCメンバー17人による政策金利予測 2015年末時点の政策金利見通しの中央値が0.625%に大幅に引き下げられた

(出所:FRB)

フェデラルファンド(FF)金利先物
10月の利上げ確率が58%としている。9月の確率は61%から38%に低下

(出所:石原順)

大局的なドル高相場にまだ変化はない?

先週のレポートで、グローバルマクロファンドの<強すぎるドルへの懸念>を紹介したが、今回のFOMCでイエレンFRB議長は「今年の成長率見通しは若干下方修正された。ドルに関しては、輸出の伸びが鈍化していることを確認しており、ドル高がその一因である可能性がある。一方で、ドル高は米経済の力強さを一部反映している。ドル高はまた、輸入物価抑制の一因だ。これは現時点で、少なくとも一時的にインフレ率を押し下げている。われわれは海外での動向を勘案している」(18日 ロイター)と述べた。

ドル高は輸出には不利だが、輸入物価が下落するのは米国民にとって良いことであろう。しかし、上記の発言を読むと、ドル安で輸入物価が上がり物価が上昇する(コストプッシュ・インフレ)のは良いことだとも受け取れるような発言をしている。そもそも物価目標とドル高を関連付けて論じても意味はない。どうでもいいような発言だが、この発言と利上げ後ずれ予測を<ドル高牽制>と受け取った市場はドル売りで反応し、ストップロスを巻き込んだ大変動相場に発展した。

ユーロ/ドル(日足) 大局はユーロ売り、21日移動平均線を超えられるか?
上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

筆者は大局的なドル高相場にまだ変化はないとみているが、ユーロを中心としたドル買われ過ぎの状況にあったことでポジションの巻き戻しが出たようだ。ドル買いトレンド相場はいったん終了し、ここから相場は調整相場に移行するだろう。

ドル/円は昨日のNY市場で、押し目買いの第一段階の目安である13日移動平均線の1%下(-1%乖離)まで下がった。この水準で昨日ドルを買ったが、この-1%乖離から-2%乖離の水準は、ドルの押し目買いで対応する予定である。

ドル/円(日足) 13日エンベロープ
上段:13日移動平均線±1%乖離(黄)13時間移動平均線±2%乖離(赤)
下段:21日標準偏差

(出所:楽天FX マーケットスピードFX)

ドル/円(1時間足) 13時間エンベロープと平均回帰を狙った押し目買いポイント
13時間移動平均線±0.3%乖離(黄)13時間移動平均線±0.6%乖離(赤)

(出所:楽天FX マーケットスピードFX)

ドル/円(日足) 一目均衡表と三角保合

(出所:楽天FX マーケットスピードFX)

日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。