米利上げ観測は後退?2月24日のイエレンFRB議長の議会証言を待つ

権力者の意向を代弁すると言われ、米国債市場に最も影響力を持つといわれるブラード・セントルイス連銀総裁は1月31日のブルームバーグのインタビュー記事で、「6月か7月の利上げ予想は妥当。原油価格の下落は米国経済にとってプラスである。失業率は第3四半期に5%を下回る見通し」と語り、市場で話題になっている(解釈が分かれている)「海外情勢を考慮する」という声明については、「特別な意味はない」という見解を示した。

米国の雇用統計は今年1月までの3カ月間の雇用者増は100万人と、米経済が絶好調だった第2期クリントン政権時(1997年9~11月)以来の高水準となった。これで米国債市場は年央の利上げを織り込みに行く格好となっていた。

ところが、昨日発表された1月開催分のFOMC議事録では、「多くの参加者は政策正常化の開始時期と関連したリスクバランスの評価を通じて、フェデラルファンド(FF)金利をより長期にわたり事実上の下限で維持するという考えに傾いたとの認識を示した」「FOMCは、リスクについてほぼ均衡しているとの認識を示す一方、ドル上昇、ギリシャやウクライナなど国外の懸念材料、緩慢な賃金の伸びが利上げ開始の正当性を弱めていると指摘した」(2月19日 ブルームバーグ)と報道されているように、「時期尚早な利上げは景気回復の腰を折りかねないと当局者が懸念を示していた」ことが判明した。

米雇用統計の推移 2000年~2015年 過去3か月の雇用者増は100万人

(出所:石原順)

米10年国債金利(左)と2年国債金利(右)の日足
FOMC議事録を受けて2年国債は金利急低下

(出所:石原順)

FOMCメンバーの主張は、(2013年11月のIMF会議でサマーズ元米財務長官がスピーチを行って以来筆者が何度も取り上げてきた)ローレンス・サマーズの<長期停滞仮説>をベースとした<MITコンセンサス>(バブル温存)が反映されたものである。

ローレンス・サマーズは、1月のダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)で、「今年利上げをしようとする米当局は、困難に直面するだろう。海外の経済の弱さと米国内のインフレの鈍さが理由だ。脅威がはっきりするまではインフレとの闘いを始めるべきではないし、それはまだまだ先のことだ。圧力が差し引きでデフレの方にかかっている限り、行動を考えるべきではない」と発言し、2月9日の英フィナンシャル・タイムズに「インフレの兆候がハッキリするまで米利上げは急がずに」という論文を寄稿した。

サマーズは英フィナンシャル・タイムズへの寄稿で、「実質賃金は停滞している。インフレの兆候はないし、長期停滞下ではインフレは多少加速する方が望ましい。米経済はグローバル経済とかつてないほどリンクしており、米国の利上げとドル高で、新興国企業の社債(ドル建て債務は日本円に換算して300兆円で75%がドル建て)の巻き戻しが起こる可能性がある」ことを指摘していた。

米国企業はドル高で業績が悪化しているが、それ以上に深刻なのはIMFが指摘しているドル建て債務を抱える新興国だ。経済というのは、自分だけが潤うということはできない。取引する相手が貧しくなれば、自分も富を失っていく。

当局者がFF金利をより長期にわたり事実上の下限で維持するという考えに傾いたとの認識を示したことで、にわかに利上げ後ずれ(ビハインド・ザ・カーブ)観測が盛り上がり、年央の米利上げを警戒していた投機筋は、昨日、「バブルが延命する可能性が出てきた」と多くがミーティングを行っている。

FF金利先物
FOMC議事録を受けて9月の利上げ開始見通しが64%から53%に低下

(出所:石原順)

もっとも、セントラルバンカーとしては金利を正常化したいだろうし、米国は日欧にQEをやらせて、出口(金融政策の正常化)政策に動いていることは間違いない。現在、「6月の利上げは困難で後ずれする」「年内は利上げなし」などの様々な憶測が出ているが、ファンド筋は2月24日のイエレンFRB議長の議会証言(金融政策および経済情勢に関する半期に一度の議会証言)を聞いて判断するという意向のようだ。

米国の利上げがあるなら、リスク商品への投資戦略は前半勝負となろう

仮に米国が今年利上げに動いた場合、その利上げは過去の引き締め局面とは比べ物にならない影響を金融市場に与える可能性がある。過去の利上げとは違うのだ。この7年間、FRBはひたすらカネをばらまき景気を刺激してきたが、QE3も終わり、米利上げとなればその副作用(金融市場で大きな変動が発生するリスク)に注意しなければならない。

米国の利上げの有無、実施時期などは見方が分かれているようだが、はっきりしているのは4月、確率的には6月までは利上げがないということである。そうであれば、今年もやはりリスクをとるのにふさわしい時期は年前半ということになる。

2015年 のFOMC・ECB理事会・日銀 金融政策会合開催スケジュール
6月までは米国の利上げはない?

(出所:石原順)

1月22日にドラギECBがQEを決定したことで、ドラギバブルはQEの賞味期限といわれる2カ月くらいは続きそうだ。3月後半あたりまで、株式市場は崩れにくいということである。日本株も本日の相場で日経平均が2007年7月9日高値18261円を上回り、約14年9カ月ぶりの水準に上昇している

日経平均(月足) 約14年9カ月ぶりの水準に上昇

(出所:石原順)

ファンドの間では、日経平均が2007年高値をしっかり上抜いてくると、19,000円が視野に入ってくるという見方も多い。今年は日銀、公的年金、自社株買いだけで10兆円規模の買い需要があることを考えると、まだしばらく上昇相場が続くだろう。

だが、内容はよくない。最近、メガバンクが上げていて、<金利上昇>が銀行株上昇の理由との報道がされているらしいが、これを聞いて腰を抜かしているのは海外の運用者である。

「金利が上がって銀行が儲かるなどという話はあまり聞いたことがない。日本の金利は金融機関が利ざやを大きくとれるほど上がっていないし、長期金利が上がると、銀行が保有する債券の損益が悪化する。金利が上がって株が上がるという循環は、業績相場の初期にみられる現象だが、現状の日本は官製相場というかPKO相場だろう」と、メガバンクがなぜ買われているのか理解しがたいという運用者も多い。

三菱UFJファイナンシャルグループ(日足)
上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±0.6シグマ(緑)

(出所:石原順)

しかし、答えは簡単だ。2月18日の日経新聞の報道では、「株価指数連動型のETFに限れば、推計で銀行は時価総額の6割前後を保有しているともいわれる。日銀の買いを除いても、銀行はETFの主要プレーヤーとして存在感を高めている」という。銀行がTOPIX型のETFを買えば、時価総額の大きい銀行株は上がるだろう。

よく相場を見ていればわかるが、日本株も日本国債金利も米国市場と連動しているだけである。ここから、米利上げの後ずれ観測で米国株が上昇となるなら、日本株も上昇するだろう。連動しなければ日本市場の独自性ともいうべきPKOが入る。米国が実際に利上げ(政策転換)を行うまでは、バブル相場が続く可能性が大きい。いずれにせよ、4月までは押し目買いに分がありそうだ。

「10月末買い4月末売り」戦略の見通し

現在、株式インデックスの「10月末買い・4月末売り」取引は、概ねうまくいっている。円相場の方は、ドル/円はドル高相場で好調だが、ユーロ/円などのクロス円取引が不調である。筆者は確率に基づいたこの投資手法を毎年続けているが、1月に急落したクロス円相場が4月までに回復をみせるかどうかは、米国の利上げ観測が後ずれするのか否かが大きなポイントである。したがって、2月24日のイエレンFRB議長の議会証言が相場の方向性を決めることになるかもしれない。

日経平均(月足)「10月末買い・4月末売り」
(過去15年間で11勝4敗、65年間で48勝17敗)

(出所:石原順)

NYダウ(月足)「10月末買い・4月末売り」
(過去15年で12勝3敗、117年で79勝38敗)

(出所:石原順)

ドル/円(月足)「10月末買い・4月末売り」

(出所:石原順)

NZドル/円(月足)「10月末買い・4月末売り」

(出所:石原順)

ユーロ/円(月足)「10月末買い・4月末売り」

(出所:石原順)

日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。