波乱の1月相場

1月12日にゴールドマン・サックスは「2015年の原油相場の年間見通しを73ドルから47ドルに下方修正し、4-6月期には40ドル割れの可能性もある」というレポートを出した。ゴールドマンのレポートで急激な原油安の負の側面が再びクローズアップされ、NYダウの下げが加速している。

NYダウ(日足) 12月から乱高下相場が続いている

(出所:石原順)

昨年12月25日のレポートで、1月相場はトレンドが反転しやすいことを指摘した。「2000年以降はこの傾向が薄れつつあるが、年末まで大幅に上がり年初に急落した昨年の例もあるので警戒は怠れないだろう。ボラティリティの高い相場に対処するために、証拠金を厚めにする(レバレッジを上げない)など、ポジション管理を徹底したい」と書いたが、1月に入ってからの相場は円相場も株式相場も値幅の大きな乱高下相場が展開されている。

ドル/円(月足)と1月相場 円高転換(赤)・円安転換(青)

(出所:石原順)

ドル/円とNYダウの相場の輪郭(逆張りポイント)

10月末からドル/円の買い出動をした筆者は、12月4日のレポートで「ドル/円の120円超の相場では、中期的なポジションのとりあえず半分は利食っておこうと思っている」と述べたように12月初旬の120円超の円安局面でポジションの半分の利食いに動いた。その後は小さなポジションしかとらずに様子見に徹していたが、昨日は久しぶりに米国株とドル/円の逆張りの買いを行った。

昨日発表された12月の米小売売上高は、市場予想の前月比マイナス0.1%に対して前月比マイナス0.9%減と11ヵ月ぶりの大幅な落ち込みとなり、株もドル/円もすごいスピードで下落していた。ブローカーや他の運用者からは、「こんなこわいところを買うのか?」と言われたが、筆者は落ちるナイフを掴みにいったのである。

昨日の相場でドル/円は13日移動平均線-2%乖離水準まで下がり、NYダウは18日移動平均線-3%乖離水準まで下がった。これらの水準は筆者の日足ベースの<逆張りポイント>であり、儲かるか儲からないかはわからないが、とりあえずストップ注文を置いて買い出動するタイミングなのである。

上記のエンベロープ(移動平均線乖離)を利用した<逆張り手法>を筆者は使っているが、多くのファンドが「今年の相場は上値を買い上がるような相場ではない」と観ており、こういった逆張りポイントを丁寧に拾っていくのが今年の戦略だ。

ドル/円(日足)  逆張りポイントである13日移動平均線-2%乖離水準まで下落

上段:13日エンベロープ±2%(青)
下段:14日RSI(青)・ストキャスティクス5.3.3(赤)

(出所:石原順)

NYダウ円(日足) 逆張りポイントである18日移動平均線-3乖離水準まで下落

上段:18日エンベロープ±3%(赤)
下段:ストキャスティクス5.3.3(赤)

(出所:石原順)

日経平均(日足) 25日エンベロープに注目している

25日エンベロープ5%(赤)・10%(緑)
21日ボリンジャーバンド±2シグマ(紫)

(出所:石原順)

米小売り売上高の悪化は、ガソリン価格の下落で得られた可処分所得が消費ではなく貯蓄に回っているということだ。英エコノミスト誌の報道ではオバマ政権の6年間で米国のGDPは8%増えたが、逆に家計は4%も減少したという。あの消費意欲が旺盛で楽観的な米国人でも無い袖は振れないのである。米国の消費が伸びるとしたら、サブプライム自動車ローンに代表される<異常低金利での借金>が原動力となろう。

米雇用統計も時間当たり賃金が伸びていないことが悲観されているという。オバマケアの影響で企業は保険代を負担したくないため、正社員1人の代わりにパートタイマー3人を雇っている。雇用は回復するが賃金は伸びないのは当然だろう。

日本も家計貯蓄率がマイナス1.3%となっており、可処分所得がない状況にある。日本国民はすでに限界まで消費しているのである。家計貯蓄率は1973年の23%をピークに下がりっぱなしだ。少子高齢化のなか、今後も家計所得の伸びは期待できないなかで、税金や保険などの社会保障費だけがどんどん上がっていく。消費は伸びないと考えるのが普通で、ならばGDPも伸びようがない。

こういったグローバルデフレの環境で、リスク商品の相場が上がっていくとしたら、昨年までの金融相場(バブル)が延命するという要因しかない。そういう意味では今年も中央銀行相場だ。1月から2月期の相場は、1月22日にドラギのECBがドイツの反対を押し切ってQEに踏み切れるかどうかにかかっている。1月22日のECB理事会の内容によっては、投機筋が2月相場で再び「揺さぶり」をかけてくる可能性がある。

2015年 FOMC・ECB・日銀 の金融政策会合開催スケジュール

(出所:石原順)

NYダウと米国の金融政策 QE終了後、数か月は注意が必要か?

(出所:石原順)

1月19日の日経新聞夕刊の『米市場、原油安に“逆張り”の動き』という報道によると、「逆張りの動きが徐々に広がっている。低格付け社債(ハイ・イールド債)の指数に連動するSPDRバークレイズ・ハイ・イールド債ETFの基準価格も、昨年12月中旬の安値から約4%高の水準にまで持ち直している。 エネルギー関連企業の発行も多いハイ・イールド債市場では、デフォルト(債務不履行)が起きると金融市場でドミノ倒し的な影響が広がると警戒する声も出ていた。ところが足元は逆張りマネーの流入がやや優勢だ』という。高い貸株料を払ってファンドがETFを売り仕掛けしており、SPDRバークレイズ・ハイ・イールド債ETFは仕手戦の様相を呈しているが、現在買い戻されているのはECB理事会への警戒があるという。

iシェアーズiBoxx米ドル建てハイ・イールド社債ETF(日足)

上段:18日エンベロープ±3%(赤)
下段:出来高

(出所:石原順)

原油先物(日足) 原油先物相場は21日ボリンジャーバンド-1シグマの内側に・・下げ止まるかに注目

上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

トマ・ピケティの『21世紀の資本』の日本語版が昨年12月に出版されたが、経済学書としては日本でも異例のベストセラーとなっているという。「富める者はますます富み、そうでない者との格差はジリジリと広がっていく」というのはいつの時代もそうだが、資本主義が民主主義を脅かしている現在、経済格差の極端化、雇用不安の拡大、地域経済の低迷など中間層の没落が本格化している。

貧富の差という意味で、投機筋が今年警戒しているのは中国市場である。中国が発表している経済指標で信頼性が高いのは「電力使用量」であるが、2014年度は明らかに「電力使用量」の伸びが止まった。昨年後半の中国株は大幅に上がったが、ファンド運用者の多くが「2015年の中国市場には注意が必要」だと発言している。

上海総合指数(月足)

(出所:石原順)

いずれにせよ、「r(資本収益率)は常にg(経済成長率)を上回る」というピケティの資本論の結論は、「資本を持たずに働いているだけではダメだ」ということである。とりあえず、投資をするしかない。

日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。