ドル/円・豪ドル/円・ユーロ/円のテクニカル分析

ドル/円相場は10月1日に21日ボリンジャーバンドの+1シグマを割り込み、ここでドル高トレンドが終了した。その後は調整相場に移行したが、10月10日のNYクローズ107円74銭で21日ボリンジャーバンドの-1シグマ(107円77銭)を割り込んだため、ドル売りトレンドが発生した。筆者も小さなドル売りポジションを持ったが、10月21日のNYクローズ106円98銭で相場が-1シグマ(106円95銭)の内側に入ったため、この売りトレンドも終了した。やはり、大きなトレンドが終了したすぐ後に、大きなトレンドが発生する可能性は小さいということだろう。大きなトレンドとは日足と週足のトレンドが一致しないと発生しない。

ドル/円(日足) 

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13日移動平均線±2%乖離(緑)

(出所:石原順)

ドル/円(週足) 

上段:14週ADX(赤)・26週標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21週ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

ドル/円の調整は「10月1日高値から数えて短ければ2週間、長ければ1か月」と申し上げてきたが、2週間という最短調整なら10月15日の105円19銭で当面の底値を付けたと考えることもできる。

本日、ドル/円は107円35銭まで上昇しているが、107円65銭を抜いてくると21日移動平均線(23日現在107円90銭)までの戻りも想定される。一方、106円20銭を割り込むと再び105円20銭辺りをトライする可能性が高くなるため、上下両サイドの警戒を怠れない。要するに今のドル/円相場は概ね108円~105円の大きなレンジ調整局面にあるということだ。14日ADXや26日標準偏差ボラティリティが明確に上昇する次のトレンド発生局面までは調整相場が続く。

ドル/円(日足) フィボナッチのリトレースメント

上段:13日移動平均線±2%乖離(緑)・21日ボリンジャーバンド(紫)
下段:ストキャスティクス5.3.3

(出所:石原順)

商品相場安に足を引っ張られていた豪ドル相場も現在は典型的な調整相場となっている。豪ドル/円の売りシグナルも消滅し、相場は21日ボリンジャーバンドの-1シグマの内側に入ってきた。相場の方向感はなく、しばらく調整相場となりそうだ。

豪ドル/ドル(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

豪ドル/円(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

ユーロ/ドルも典型的な調整相場だが、「ECBの銀行ストレステストで少なくとも11行が不合格になった」(10月22日 スペイン通信)と報道されており、投機筋の一部は再びユーロ売りに動いているという。ユーロ/円は再び売りシグナルが点灯しており、目先はレンジの範疇ながら弱含みの動きとなりそうだ。

ユーロ/ドル(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

ユーロ/円(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

金融当局の口先介入で株式市場が持ち直す

10月15日にNYダウが一時、前日の終値に比べて460ドル安と急落した。終値は173ドル安だったが、5営業日連続の値下がりで、下げ幅は合計850ドルに達した。

株価急落に青くなった米金融当局は、口先介入に出てきた。10月16日に米セントルイス連銀のブラード総裁が「FRBが量的緩和の縮小を停止する可能性もある」と発言した。ミネアポリス地区連銀のコチャラコタ総裁は10月16日に「抑制されたインフレ見通しを踏まえると、2015年のいずれの時期も利上げは不適切」、シカゴ地区連銀のエバンズ総裁は10月13日に「世界的な景気回復の足取りが鈍いなか、FRBは金融引き締めに対し慎重になる必要がある」と発言している。一方、欧州では「ECBが停滞するユーロ圏経済の活性化に向けて社債買い入れを検討している」とのECBのリークとみられる報道が出ている。

米FF金利先物

米連銀総裁の一連の発言で、FF レート先物市場では利上げ開始時期が2016 年 1 月以降に後ズレする事態となっている

(出所:石原順)

米2年国債金利(日足) 投機筋のポジションは買い越し(金利低下見通し)に転換

(出所:石原順)

「当局に逆らうな」とばかり、口先介入に便乗して、今度は一部のファンドがカウンターの「買い仕掛け」に出ているというのが、現在のリバウンド相場の正体である。板の薄い真空状態の中を、売り方の買戻しを巻き込みするすると駆け上がってきたが、「市場参加者の戻り売りが見えてくる来週以降の相場が正念場になる」との声が運用者の間で多い。

S&P500(日足)移動平均リボンとフィボナッチのチトレースメント

(出所:石原順)

S&P500(5日足)移動平均リボンとフィボナッチのチトレースメント

(出所:石原順)

NYダウ(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(緑)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

iShares iBoxx $ High Yield Corporate Bond ETF(日足)
ジャンク債の指標銘柄

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(緑)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

円相場は現在の水準から年間10%程度の下落が必要

日経ヴェリタス(2014年10月19日号)に 世界最大のヘッジファンドであるブリッジウォーター・アソシエーツ創業者のレイ・ダリオのインタビューが掲載されている。

「所得に比較して負債が膨らんだ場合、デレバレッジング(負債の圧縮)が起こる。その場合、金利の水準を上回る経済成長をもたらす必要がある。例えば、私の負債が所得と同水準だとする。所得の増え方が年率1%で、金利が3%だとすると、私は支出を減らさない限り、負担が高まることになる。日本で実施されている金融政策は、『インフレ率プラス経済成長率』の数値を金利の水準よりも上回るようにするために、紙幣を印刷している。つまりデフレ対策のためだ。日本がこのように金融政策をシフトしたことは評価できる。失われた20年を経た日本は、現在の政策がかなり遅い段階に実施されたため、負債の水準は大きく膨れ上がった。その負債は日本国民の貯蓄で支えられている。高齢化により、国民が老後の生活のために貯蓄をとり崩せば、日本の財政赤字を解消するための能力は縮小する。国民の日本国債への需要低下に対応して、日銀による国債購入を増やす必要がある。日本はより迅速に、しかも強力に現在の金融政策を遂行すべきだ。日本の政策担当者は緊縮財政が金融緩和の効果を相殺しないよう注意すべきだ。成長率2%の目標に達するまでは、財政政策も金融政策も緩いものにする必要がある。政府が消費税を引き上げるなら、同時に日銀による量的緩和の規模も引き上げるべきだ。政府がいかに強力に政策を推し進めるか次第だ。もしそれが可能なら3年程度で目標に達することができるかもしれない。それには一段の円安が必要だ。円相場は現在の水準から年間10%程度の下落が必要だ」(日経ヴェリタス2014年10月19日号『経済の仕組み理解し、投資の武器に 世界最大のヘッジファンドが見通す経済』)

ヘッジファンドの都合の良いポジショントークともいえるが、日本政府が行うべきことが明確に指摘されている。しかし、それは金融抑圧政策に他ならない。資産を持っていない人や円資産しか保有していない人にとっては、今後、大変な試練がくることを示唆している。

いずれにせよ、『30分で判る 経済の仕組み Ray Dalio』は、必見のビデオである。

日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。