QE終了前の恐怖相場は想定通りだが、市場は流動性の不足から空中戦に…

9月後半にある大手金融機関の株式部門の幹部から電話がかかってきて、「世界的に個人投資家が動いていない。米国のQEが終わるのが怖いといって様子見気分が強く、買いが入ってこない」との話を聞かされた。

筆者も10月のQE終了に備えてポジション整理を優先させてきたが、9月におこなった多くのファンド勢とのミーティングでは、ファンド勢の10月相場に対する警戒が半端なものではなかったため、「これは怖いな…」という感触を持った。

「バブル相場が9月中は続くということを申し上げてきたが、10月相場は要注意だ。今は世界的な低金利で、何もしない(運用しない)ことのコストは安い。逆に10月にリスク商品の買いポジションを持っているリスクは大きい」と、レポート、ブログ、セミナーなどで述べてきたように、筆者としては現在の下げ相場にあまり違和感はない。

NYダウ(週足)と米国の金融政策 QE3の終了で恐怖相場に

(出所:石原順)

現在の問題は、10月相場は不安心理から「買い」が引いてしまっているので、「流動性不足」になっていることである。ここ数日間の株式や為替マーケットを見ている人は気づいているだろうが、値動きが本当に荒い。板(売り買い注文)の薄い中で、空中戦が展開されているのである。このような流動性不足の状況を狙って、儲かっていないファンドが強引に株の売りや円買いを仕掛けているのが現在の相場である。このような空中戦では売り方も買い方も損をする確率が高くなるので、市場はさらに痛むことになる。

ドル/円は105円18銭まで急落、週足も調整相場に

調整相場に入ってからのドル/円は、相場が難しくなっていた。修正相場のフォーメーションはジグザグ、フラット、トライアングル、複合型など多岐にわたる。そういった環境のなかで、筆者はドル/円相場の見通しを聞かれて米国株次第と述べてきた。その米国株が急落しているので、ドル/円も急落しているというのが今の相場である。

昨日NYダウが460ドル安まで下落する過程で、ドル/円も105円18銭まで下げた。中期トレンドを決するドル/円の週足も、現時点では強いドル買いシグナルが消滅しており、調整相場に移行する可能性が高くなっている。

ドル/円(週足) 週足も調整相場に移行

上段:14週ADX(赤)・26週標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21週ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

週足も調整相場に移行したことで、今後の相場は<日足の次のトレンド待ち>という状況にある。日足はまだ強いドル売りシグナルこそ点灯していないものの、10月13日からドル売りトレンド相場となっている。ポジションは大きくないが、ドル売りパターンに従って、筆者も現在ドル売り(円買い)ポジションを抱えている。

このドル売りトレンドが大きな相場に発展するのかどうかはわからないが、標準偏差ボラティリティの形状や相場が21日ボリンジャーバンドの-1シグマの外で推移していることから考えると、その可能性も考慮しておく必要があるだろう。ここから数日のドル/円相場の動きは非常に重要だ。

ドル/円(日足) 10月13日からドル売りトレンド相場

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)・13日移動平均線±2%乖離(青)

(出所:石原順)

先週のレポートに『<米国のQEの終了>や<11月決算ファンドの解約45日ルール>を考えると、ドル/円の調整期間は、強いドル高トレンドが終了した10月1日から短ければ2週間、長ければ1カ月程度となるだろう。ドル/円の押し目のメドは投機筋が注目している13日移動平均線-2%乖離がひとつの目処となるのではないだろうか?』と書いたが、昨日の10月15日はちょうど2週間目である。日足の下ヒゲの出現や筆者の見ているストキャスティクスのシグナルは久しぶりに<逆張りのドル買いシグナル>が点灯しており、ここが相場の転換点となってもおかしくはない。

ドル/円(日足)移動平均リボン(1~3か月の市場参加者のコスト)の下限である104円50銭を割り込むと「投げ」相場になる可能性はあるが…

上段:移動平均リボン(赤の帯)・13日移動平均線±2%乖離(緑)・21日ボリンジャーバンド(紫)・フィボナッチのリトレースメント
下段:ストキャスティクス5.3.3

(出所:石原順)

短期の逆張り戦略に限った話だが、昨日のドル/円相場1時間足が13時間移動平均線-0.6%乖離水準から大きく逸脱したのをみて、105円50銭以下で買い向かったファンドも少なくなかったようだ。

「13時間移動平均線-0.6%乖離水準までは戻すだろう」と、筆者も超短期トレードでこの戦略に乗った一人である。ちょうど相場の急落による電話が殺到している最中で、何人かにカウンタートレードを勧めてたまたまうまくいったが、あくまで直観による超短期売買をおこなっただけだ。10月相場は無理をする必要はないだろう。リスクを取る相場の始まりは基本的に10月末である。

ドル/円(1時間足) 1時間足が13時間移動平均線-0.6%乖離水準から大きく逸脱

上段:14時間ADX・26時間標準偏差ボラティリティ(青)
下段:13時間移動平均線±0.6%乖離(赤)

(出所:石原順)

ドル/円(月足) 10月末買い・4月末売り(赤は失敗の年)

(出所:石原順)

利上げ前倒し観測は急激に後退

筆者は「金融抑圧政策」、「長期停滞論」といった米国当局の政策やMITコンセンサス(バブル必要論)のなかで、米国の金利が利上げ前倒し観測で急激に上がっていくような事態はありえないと言い続けてきたが、ここにきて米2年国債金利も米10年国債金利も急激に低下している。

米2年国債金利(日足) 利上げ前倒し観測は急激に後退…

(出所:石原順)

米10年債金利(日足) 金融抑圧と長期停滞(潜在成長率の低下)から長期金利は上がらない?イエレンが作った労働市場情勢指数(LMCI)と呼ばれる新たな労働関連指標は、FRBが金融抑圧政策を続けるための方便(大義名分)であることは明らかである。これで、米金利は怒涛の下げ相場となった。

(出所:石原順)

こうした環境の中で、ドルが上がっていくとすれば、資産選択の結果としての米国買い(株買い・債券買い)か、欧・日の金融政策次第となる。

バーナンキ前FRB議長は10月8日に「米国の株式相場も住宅市況も歴史的な水準から乖離していない。2008年の金融危機後、FRBの超低金利政策は7年目に入ったが、バブルなどの副作用は生じていないとの考えを示した」(10月8日 ロイター)と報道されている。

そして、バブルを起こさないために作った金融安定委員会(Financial Stability Committee:FSC)のタルーロFRB理事は「世界経済の成長を懸念している。上振れリスクよりも下振れリスクのほうが大きい。われわれが政策を決定する際に、明らかに考慮しなければならない問題だ」(10月11日 ロイター)と発言している。

また、スタンレー・フィッシャーFRB副議長は10月11日にIMFが主催したイベントで、「仮に海外の成長が予想よりも弱い場合、米経済の状況によっては緩和縮小をより緩やかなペースで行うこともあり得る」(10月11日 ロイター)と述べた。やはりMIT学派はバブル必要論のようである。

現在の相場の急落は中・長期的には買い場となる可能性が高い?

今後もしばらくバブル環境が維持される状況に変わりがないのであれば、現在の相場の急落は中・長期的には買い場となる可能性が高い。とりあえず、米国株の落ち着きを待って出動するのがいいだろう。炭鉱のカナリアと呼ばれ、NYダウやS&P500に先行して下げていたiShares iBoxx $ High Yield Corporate Bond ETF、SPDR S&P Homebuilders ETF、SOX指数などの動きをファンド勢は注意深く見ているという。

NYダウ(日足)  10月2日のレポートに「売りトレンドが発生する可能性がある」と書いたが、大きな売りトレンド相場に発展

上段:13日標準偏差ボラティリティ(緑)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±2シグマ(赤)・13日エンベロープ3%(緑)

(出所:石原順)

iShares iBoxx $ High Yield Corporate Bond ETF(日足) ジャンク債の指標

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(緑)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

SPDR  S&P Homebuilders ETF(日足) 住宅の指標

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(緑)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

SOX指数(日足) 半導体の指標

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(緑)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。