イエレンはバブルの守護神?

イエレンの議会証言はフォワードガイダンスの変更について述べながらも、「その変更が直ちに利上げを意味するものではない(ガイダンスの修正は、その後2回の会合で利上げを示すと捉えるべきではない)」という、見事な玉虫色の内容だった。結果的に、「利上げは今後のデータ次第」ということ以外、何も言っていない。

「6月早期利上げ観測派と9月・12月利上げ(あるいは年内利上げなし)派のいずれもが混乱している」というが、イエレンの議会証言は「言語明瞭・意味不明」であった。「FRBが今後行うことを詳しく説明するのを期待するのは禁物だ。なぜかと言えば、FRBはそれが分からないからだ。われわれは1年後に何をしているかを知らない。将来の正確性を追求し過ぎるのは間違っている」というスタンレー・フィッシャーFRB副議長の考えに基づいて、イエレンは「事実上、フォワードガイダンスを放棄した」と言われている。

「インフレ率はわれわれが目標とする2%を大幅に下回っている。その大きな要因は、主にエネルギー価格の下落など、一時的なものであると考えてはいるものの、われわれは2%に設定しているインフレ目標にコミットしている。利上げを開始する前に、われわれは回復が継続し、インフレ率が次第に上向いていくとの確信を得たい」というイエレン発言を受けて、市場は<利上げ後ずれ観測>に軸を移している。

PCEデフレータ(1960年1月~2014年12月) インフレなんてどこにある?
PCEデフレータは個人消費支出のデフレータ
(消費段階でのインフレ圧力を測る尺度)

(出所:石原順)

イエレンの議会証言を受けて米長期金利が再び低下してきており、株式の運用者からは「益利回り(PERの逆数=1/PER)やイールドスプレッド(長期国債の利回りから株式益利回り引いたもの)でみると、まだ株は買える!」との強気な声が多い。

「FRBが早過ぎる時期に利上げを行えば、景気回復の動きが阻害されるリスクがある」と語るイエレンは、バブルを監視するといいながらも、やはり頭の中はバブル温存(MITコンセンサス)のようだ。株の運用者は「イエレンが出てくると株が上がる」と口をそろえており、イエレンは<バブルの守護神>と呼ばれている。

「1月22日にドラギECBがQEを決定したことで、ドラギバブルはQEの賞味期限といわれる2か月間くらいは続きそうだ。3月後半あたりまで、株式市場は崩れにくいということである」と先週のレポートで述べたが、新たに<米利上げの後ずれ観測>がバブル相場をサポートしている。日本も「日銀、公的年金、自社株買いだけで10兆円規模の買い需要がある」ことを考えると、まだしばらく上昇相場が続くだろう。「10月末買い・4月末売り」を標榜している筆者にとって好ましい事態ではある。

NYダウ(日足) イエレンの公聴会を受けて最高値を更新
上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±0.6シグマ(緑)

(出所:石原順)

NYダウ(日足) エンベロープをみると上げ余地は大きい
上段:18日エンベロープ(移動平均乖離)±3%(赤)
下段:ストキャスティクス5.3.3

(出所:石原順)

日経平均(日足) 2015年は10兆円規模の買い需要で下値は堅い?
上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±0.6シグマ(緑)

(出所:石原順)

日経平均(日足) 19000円が見えてきた!
25日エンベロープ(移動平均乖離)±5%(赤)・±10%(青)

(出所:石原順)

ドル/円は再度の三角保合離れ待ち

ドル/円は黒田日銀の追加緩和観測の後退、統一地方選挙にむけた急激な円安阻止観測、「米本国投資法2(HIA2)」の浮上による実需のフローの停止、米利上げ観測の後ずれなどで上値が重くなっている。一方で、日米金融政策の方向性の違いや、117円割れからの年金の観測から、118円台の半ばから下はドルの買い意欲が強い。こうしたなか、3月6日の雇用統計まではレンジ色の強い相場が続くのかもしれない。

ドル/円(日足) 次のトレンド待ち
上段:26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド±1シグマ(緑)

(出所:石原順)

前回の三角保合の上方ブレイク(下のチャートの黄色の三角形)は、三角保合の上辺を維持できず、保合上放れは失敗に終わった。それでも、2012年からのドル/円相場は、三角保合とその上方ブレイクの連続で動いている。ダマシの多い三角保合のブレイクだが、方向性の示唆は、新たな三角形の保合離れを待つしかない。

ドル/円(日足)と三角保合 前回はダマシとなったが、
新たな三角形で保合離れ待ち

(出所:石原順)

ドル/円(日足)と三角保合のブレイク 2012年~2015年 三角保合と円安相場の繰り返し

(出所:石原順)

為替相場を移動平均乖離(エンベロープ)で観測する

さて、現在のような動かない為替相場で筆者が何をしているかというと、<1時間足>での売買である。筆者にとって<1時間足>売買での強い味方(相場の動く目安)となっているのは、エンベロープ(移動平均乖離)というテクニカル指標だ。

エンベロープ(移動平均乖離)は移動平均線を一定の割合で上下に乖離させたテクニカル指標である。簡単に言うと、エンベロープは移動平均線に対するプラス乖離とマイナス乖離の幅のことである。「価格が移動平均線から乖離しすぎると、平均に戻ろうとする力が働く」という平均回帰の考え方から、エンベロープで「買われ過ぎ」「売られ過ぎ」を判断し、逆張りや利食いのポイントとして筆者は利用している。

相場は拡大と収縮と平均回帰を繰り返す。一見、無茶苦茶に動いているように見えるマーケットだが、そこには「限度」と「リズム」がある。5分足・1時間足・日足・月足にそれぞれの「限度」と「リズム」があるが、今回はドル/円の<1時間足>をみてみよう。

1時間足の変動範囲は?

<1時間足>でみると、通貨の変動は概ね13時間移動平均線の±0.6%乖離の範疇で動くと言われている。筆者が通貨の1時間足のトレードを行うときは、相場の動く目安として、13時間移動平均線の±0.3%と±0.6%のバンドをみている。

最近の低ボラ(低変動率)相場、即ち、ノーマル相場の動く範囲は、「概ね13時間移動平均線の±0.6%乖離(赤のバンド)の半分である13時間移動平均線の±0.3%乖離(黄のバンド)の範囲に収まっている。

現在、筆者は円安方向を見ているので、13時間のエンベロープを観察しながらドル/円の押し目買いに徹している。利食いは相場をみながら行うが、13時間移動平均線の+0.3%が一応の目処となっている。

ドル/円(1時間足) 13時間エンベロープ ±0.3%乖離(黄)・±0.6%乖離(赤)

(出所:楽天FX マーケットスピードFX)

エンベロープ(移動平均乖離)は決して万能な指標ではない。カウンタトレードでは、ストップロス注文は必須である。相場の自律的な運動範囲で注目すべきことは、「長期にトレンドが発生するような大きな材料が出ない限り、相場が移動平均の乖離の限度を大きく飛び出しても、バンドの中で収斂することが多い」ということである。

日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。