現在の異常低金利とカネ余り状況では、大企業は低金利で簡単に社債を発行できる。米国では社債で調達した資金で自社株を買い戻す動きが顕著で、業績そのもののバブル、すなわち、<一株利益のバブル>が起きて米国株高を引き起こしている。

また、金融抑圧政策で国債金利が人為的に低く抑えられているので、運用難のなか、信用リスクを取りに行くジャンク債バブルが発生している。今回のレポートは、ここからの<ババ抜きバブルゲーム>で警戒すべきポイントを上げておきたい。

出口のない日銀と袋小路のFRB

2014年7月現在、日銀の総資産は264兆円に達している。日銀が国債を買うのをやめれば、国債の金利は上昇する。1000兆円を超える借金を抱える日本にとって、借金の利払い増加はなんとしても避けたい。金利が上がって、財政破綻がマーケットテーマに浮上するのも困る。長期金利の超低金利死守は至上命題なのである。2%のインフレターゲットを掲げる日銀は物価目標を達成し「デフレ脱却」が実現しても、日銀は現状の異次元緩和を続けざるを得ないだろう。

「我々は2006年に量的緩和からの出口を経験した唯一の中央銀行だ。日本銀行は出口の手段を十分に有している」と日銀の中曽宏副総裁が発言しているが、「どういう出口の手段があるというのだ?」との声が多く、この発言を真に受ける人はいない。

国の借金負担を軽くするため強制的に金利を低く抑えることは「金融抑圧政策」と呼ばれている。日本国民はこれから物価上昇・増税・公共料金の上昇・年金カット等で生活は苦しくなるのに、長期金利は低いままという状況が続く。当然、預金金利も上がらないが、いずれにせよ、政府の借金返済のため、国民が見えない税金を払い続けることになっている。

日銀の総資産 単位:10億円 2014年7月20日現在264兆円

出口はあるのか?

(出所:石原順)

日本の消費者物価指数(対前年比 2000年~2014年) 物価の上昇に賃金上昇は追いつかず、預金金利も上がらない

(出所:石原順)

日本10年国債金利(日足)

物価が3.6%も上がっているのに、10年国債金利は0.5%台と低いまま・・

(出所:石原順)

アベノミクスでデフレ脱却は見えてきたが、それは今のところスタグフレーションである。デフレを脱却しても不景気では仕方がない。本来の目標は税収増による「財政再建」であるが、<先進国経済の長期停滞>のなか、それはうまくいかないので、否応なく「金融抑圧政策」を進めるしかない。

IMF(国際通貨基金)の世界の経済見通し(2014年7月24日発表)

今年の成長率を4月の0.3ポイント下方修正して3.4%としている。先進国経済は長期停滞中?

国・地域 2014年
世界 3.40%
日本 1.60%
アメリカ 1.70%
ユーロ圏 1.10%
中国 7.40%
インド 5.40%
ロシア 0.20%
ブラジル 1.30%

仮に、「金融抑圧政策」が失敗してインフレが走れば国民の生活は困窮するが、政府の実質借金はさらに減っていく。巨額の借金の返済方法は、とりあえず金融抑圧を長期間続けるしかないが、それが失敗するとハイパーインフレ的な動きになる可能性がある。しかし、国の実質借金が一気に目減りするため、政府は何も困らない。金融抑圧政策が失敗してもきちんとヘッジはされているのである。

金融抑圧相場のリスク・リターン

市場参加者はPIMCOが言うように、「金融抑圧政策によって、先進国市場全般でリスク・リターン特性がどう変わり、途上国においてはどのような難題が生まれるのかを検討」しなければならない。

先進国の金利はゼロ、金利は上げたくないという金融抑圧政策が浸透していく中で、為替相場はレンジの中での推移となっている。先進国の超低金利が続くなか、金利の交換である為替レートが動かず、株だけが<カネ余り>でじりじり上げていくという相場展開は、米国や日本の金融当局にとっては思惑通りである。

現在、世界の主要25市場の株価はすべて1年前の水準を上回っているが、金融抑圧政策による異常低金利が株価の下方硬直効果を促している。ここまでは、「急落時の押し目買い」がうまくワークしている。

日経平均(日足)

上段:21日ボリンジャーバンド
下段:ストキャスティクス5.3.3

(出所:石原順)

米10年国債金利(日足)

(出所:石原順)

NYダウ(日足)

上段:21日ボリンジャーバンド
下段:ストキャスティクス5.3.3

(出所:石原順)

ドイツ10年国債金利(日足)

(出所:石原順)

独DAX(日足)

上段:21日ボリンジャーバンド
下段:ストキャスティクス5.3.3

(出所:石原順)

ボルカールールで米銀の日本化が進み、米銀は必然的に米国債PKOの補完装置となる

日本の異次元緩和や米国のQE(量的緩和策)は、<国債を買い支える仕組み>なのである。この結果、日本も米国も長期金利を低く抑えることに成功している。しかし、QEの規模が限界に達した米国ではFOMCで出口戦略が検討され、10月にQE3を終了する方向性が明らかになっている。QEを止めると国債を買い支える仕組みがなくなる。

FRBの総資産 単位:百万ドル 7月23日現在4兆4107億ドル

利上げの前にQE資産を縮小するのが順番だが・・

(出所:石原順)

異常低金利が大きく反転すれば、現在の金融抑圧下の低ボラバブルが崩壊する懸念が出てくる。QEを止める以上、代わりの米国債の買い手を探さないといけないが、米銀が国債PKOの補完装置となるだろうとみられている。

「インフレなどで債務負担を実質的に減らす一方、金利の上昇を直接・間接な方法で抑え込む。そのために国内に国債の引き受け手をつくる」というのが米当局の方針ならば、銀行や年金も自己資本規制・ボルカールール・安定運用の名の下で、国債の引き受け手として組み込まれ、それ以外の収益機会を削られることになるというシナリオだ。

簡単に言うと、「米国の銀行が日本の銀行のようになる」というのがボルカールールの影響だろう。現在の米金利の低下は、当局の指導によって米国機関投資家の買いが続いている結果であるという声が多い。

FRBの資産売却については、「QEが終わっても、FRBはこれまでに買った債券の在庫を売却することはできない。金利が上昇するからだ」「債券の満期償還分は消滅するが、これも再投資するかもしれない。いずれにせよ、QE資産の大半はFRBが持ったままになるだろう」という見方が大半となっている。

本来ならQE資産の縮小は金利引き上げの前に行われるのが筋だが、QE資産の縮小の前に利上げが行われることで、市場は安堵しているようだ。利上げは出来るだけ先延ばししたい、出口の話はしたくないというのが、現在のFRBのスタンスである。

日本も米国もそうだが、金融当局はおそらく保有資産を満期まで持ち切るくらいの覚悟は持っているだろう。長期金利の超低金利維持は金融抑圧政策の柱であり、中央銀行は資産売却になかなか手が付けられない。

8月下旬にイエレンFRB議長がジャクソンホールでスピーチを行う。米国景気が本当に回復しているのなら、利上げの前にFRBのQE資産の縮小が行われて当然である。そんななかで、利上げの議論が行われているのは、本当は滑稽なことなのである。

イエレンが後手に回る今の相場で、何に注意すべきか?

長期停滞(Secular Stagnation)とは潜在力を大幅に下回る水準の低成長、生産、雇用と、問題含みの低い実質金利が今後しばらく併存する可能性だ。今世紀に入ってから、米国の国内総生産(GDP)成長率は年平均1.8%を下回っている。目下の米経済は、ほんの数年前の2007年に潜在的な成長軌道とされた水準を約10%、額にして1兆6000億ドル以上も下回る水準で稼働している。しかもこれは、5年以上もマイナスの実質金利が続き、極端な金融緩和政策が行われる中での出来事だ」とローレンス・サマーズが語る<長期停滞>は、イエレンやスタンレー・フィッシャーも十分理解している。

「過去数年間、悲観的な成長見通しを維持するだけの知恵を備えていた何人かの専門家でさえ、少なくとも米国における2014年の成長率について楽観論に傾きつつあるのは事実だ。これは確かに心強いことだが、楽観的な見通しでさえ、生産と雇用が以前のトレンドを何年間も下回り続けるとの予想に立っていることを念頭に置いて、物事を考える必要がある」と、サマーズは述べている。

結局、イエレンFRB議長も長期停滞を気にしているのである。米国経済が好調だというウォール街発の万年強気報道に対しては、かなり疑問を持っている。また、日銀の2006年の早すぎた量的緩和解除の失敗も頭にあるだろう。「バブルを容認」(資産バブルを維持することが景気回復を継続させる唯一の手段であるなら、必要悪としてこれを容認する)する立場をとっているのだ。

ところが、市場は既に「利上げはいつか?」というモードに入っている。昨日は2014年4~6月期のGDP速報値が、年率換算で前期比4.0%増となったことを囃して、金利が上昇した。昨日のFOMCでも「労働資源の著しい未活用」という文言を使い、利上げを急いでいないイエレンは、必然的に市場の後手に回るだろう。

こうしたなか、投機筋は利上げ催促相場で債券売り(金利上昇)を仕掛ける可能性がある。だが、今のすべてのバブル相場は異常低金利が支えているので、金利が上がればバブルポジションの巻き戻しが起こる可能性がある。日経ヴェリタスに載っていたが、銀行の別動隊である<シャドーバンキング>のポジションも膨らみすぎだ。

ジャンク債バブル、リートバブル、自動車ローンバブル等、異常低金利が全てのバブルを支えているなか、やはり目を凝らして見ておかなくてはならないのは、米国の金利の動向だろう。

米2年国債金利(日足) すべてのバブル相場は異常低金利が支えている

(出所:石原順)

7月29日の日経新聞の1面には『高利回り債投資過熱』―「サブプライム」再び―というタイトルが踊っていた。日経新聞の1面に取り上げられているということは、注意すべきフェーズに入ってきたのかもしれない。

現在の動かない相場で儲けようとすれば、

  • レバレッジを掛ける
  • 信用リスクを取りに行く

のいずれかしかない。

「レバレッジを掛ける」という戦略は、日本でも<日経平均レバレッジETF>の売買が盛んになっているように、投機筋も個人も動かない相場に対して苦慮しているようだ。収益機会が乏しい中、これは当然の動きだろう。

「信用リスクを取りに行く」という動きはややバブル的である。低格付け国債やジャンク債のバブルなど自分には関係ないと言う投資家もいるが、米国のハイイールド債やレバレッジド・ローンは<毎月分配型投信>などを通じて、日本の個人投資家も積極的に買っている。FRBも異例の警告をしているが、ジャンク債バブルやリートバブルの動向には注意が必要だろう。

ドル/円は上値抵抗線の上方ブレイクで売り方が買い戻し

昨日は米長期金利が上昇したので、ドル/円も素直に上がった。ドル/円が長期や中期の上値抵抗線を抜いてきたことから、ブログ『日々の泡』でとりあげたが、NYクローズで103円を超えてくるような相場になれば、これまでとはレンジが変わる可能性がある。

ドル/円(日足) 中期抵抗線をブレイク!

上段:21日ボリンジャーバンド
下段:ストキャスティクス5.3.3

(出所:石原順)

ドル/円(日足) 長期抵抗線をブレイク

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド

(出所:石原順)

明日8月1日の米雇用統計(7月)の市場予想は、非農業部門雇用者数が+23万1000人、失業率が6.1%となっている。このところ、よい数字が出ているにもかかわらず、米雇用統計が目先の天井になるパターンが続いているが、今回はどうだろうか?米雇用統計を通過して、来週以降もドル高トレンドが続いているかに注目したい。

米雇用統計の推移(2000年~2014年)

7月米雇用統計は非農業部門雇用者数が+23万1000人、失業率が6.1%の予想

(出所:石原順)

日々の相場動向についてはブログ『石原順の日々の泡』を参照されたい。