米10年国債とスペイン10年国債の利回りが逆転

ECBは6月5日の理事会で、いくつもの政策を<追加緩和パッケージ>として出してきた。マイナス金利と4000億ユーロの長期資金供給が今回の措置である。今後の予定も含めて、<てんこもり>の政策を発表したので、「複雑すぎてよくわからない」との声も多いが、「大量の資金供給には南欧の銀行に事実上の補助金を出し、経営体力を回復させる狙いもある」(6月11日付け日経新聞)と報道されているように、今回の措置は南欧対策であろう。

ECBの追加緩和策は素直に考えると、中・長期的なユーロ安と新たなバブル発生要因となろう。バイトマン独連銀総裁は「直ちに追加措置の検討を開始するのは適切でない」とくぎを刺しているが、ファンドの運用者は皆一様に「<追加緩和パッケージ>を行えば、現在のドイツ国内の不動産バブルや欧州のジャンク債バブルがさらに暴走しかねない」と述べている。

ECBが発表した<追加緩和パッケージ>にバブルの匂いを嗅ぎ取ったファンドは独DAX の最高値更新相場やスペイン国債金利低下相場を演出している。ジャンク等級一歩手前のスペイン国債は、6月9日に米10年国債と金利が逆転する事態となり、6月10日には2.543%まで低下している。「スペインの金利は常識的には冗談みたいな話だが、それを言えば日本の10年国債の0.6%はさらに異常だ。国策バブルで無理が通り道理が引っ込んでしまっている」と、ファンド勢も政策に逆らわない姿勢を見せている。

スペイン10年国債金利(日足)2.5%台まで低下

(出所:石原順)

いずれにせよ、投機的とも思えるスペイン国債やイタリアの国債の金利低下が進む中で、現在、米10年国債の2.6%の金利が魅力的に映る環境となっている。欧州国債と比べると、米10年国債の2.5~2.6%前後の水準は相対的にみて買い妙味もあり、今のところ米国の長期金利が一方的に上昇するような相場にはなりにくい。

米国の長期金利との連動性を強めているドル/円の上値余地が限られているのは、景気指標から見ると上がって当然の米長期金利の方向性が確認できないためだ。また、欧州が通貨安戦争に参戦してきたことで、飽きられつつあるアベノミクスによる円安よりも、投機筋の関心は目新しい<追加緩和パッケージ>によるユーロ安誘導のほうに向かっている。

ブラードの予測と6月18日FOMC

それでは、米長期金利やドル/円はもう上がらないのだろうか?

昨年、テーパリング(QE縮小)の時期を正しく予測したのは、セントルイス連銀のブラード総裁である。ブラード総裁は日和見主義というか、権力者の顔色を見ながら風見鳥のように意見を変えるのが特徴とされる。そのブラード総裁が6月9日、利上げ開始時期に関する自身の予想を前倒しする可能性があると述べた。

ロイターの報道によると、ブラード総裁はこれまで利上げ開始時期について2015年第1・四半期終盤との見通しを示していたが、「最新のデータを基に(見通しを)再調整する可能性がある」と語ったという。

これを受けて、6月18日(日本時間19日午前3時)FOMCに対する利上げ前倒しの思惑が浮上し、短期筋が米長期金利に上昇に賭けるポジションの構築に動いたという。すでに筆者も米国の20年国債の金利が上がれば上昇するETF等を購入している。6月17・18日のFOMCには中立派のスタンレー フィッシャーも参加するため、米国債市場は巻き戻し(金利上昇)気味に動いている。6月18日のFOMCでイエレンのダッシュボードによって後ズレしている利上げ見通しに変化が出れば、ドル/円は穏やかな上昇基調相場に復帰する可能性もある。

米10年国債金利(日足) 利上げ前倒し観測も浮上?

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド

(出所:石原順)

ドル/円(日足) 21日移動平均線の攻防・サポートは200日移動平均線

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
中段:21日ボリンジャーバンド
下段:ストキャスティクス5.3.3

(出所:石原順)

GPIFの比率見直しと日本株上昇の背景

資産130兆円の巨大な投資家、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)改革で株式比率の引き上げを前倒し報道が相次ぐ中、信託銀行経由の年金勘定の株買いが5月第1週から積極的な日本株買いに動いている。

日経平均(日足) これからGPIFは株を買うぞ!と言いながらすでに買っている?

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
中段:21日ボリンジャーバンド
下段:ストキャスティクス5.3.3

(出所:石原順)

特に5月21日の14000円割れからの買いは、当初はPKO(Price Keeping Operation=株価維持操作)と捉えられていた。しかし、年金勘定の株買いは買い上がる形でその後も続き、ファンド勢からは「これはPKOではなく、 PLO(Price Lifting Operation=価格吊り上げ操作)だ」 との声が聞かれる。

この背景について日本株を運用するファンドの幹部は、「GPIF改革で株式比率の引き上げ前倒し報道を流して、これからGPIFは株を買うぞ!と言いながら、すでに買っているのが今の相場だ。比率を変えてから買っていては高値掴みになるし、海外勢に売り物をぶつけられる可能性もある。役人的発想からは今買うのが得策ということだ」と語っている。

とりあえず、短期間に日経平均が1000円以上上げたことで、成長戦略に対する失望売りが出た場合のバッファー(のりしろ)は出来た格好だ。「GPIFが買うから日本株は売れない」という見方がある一方で、「16000円まで吊り上げても不思議ではないが、自作自演の官制相場だけでは上昇の持続性に不安が残る」との声も多い。

「日本株のPLOは安倍政権の支持率維持ではなく、消費増税10%決定が目的の動きだろう。したがって、高いところは買いたくないが、消費増税10%決定までの押し目は買っていきたい」という運用者は多い。

消去法投資でオセアニア通貨のキャリートレードが復活、ユーロは調達通貨に・・

先週は消化しきれなかったECBの<追加緩和パッケージ>を消化する格好で、投機筋がユーロの売り直しに動いている。ユーロ/ドルは昨日1.3520ドルまで下落した。6月5日安値1.3502ドルを割り込むと下げが加速する可能性があり、神経質な相場展開となっている。

ユーロ/ドル(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
中段:21日ボリンジャーバンド
下段:ストキャスティクス5.3.3

(出所:石原順)

ユーロ/円(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
中段:21日ボリンジャーバンド
下段:ストキャスティクス5.3.3

(出所:石原順)

筆者が注目しているNZドルは、本日朝にニュージーランド中銀が政策金利を0.25%引き上げ3.25%にすると発表した。投資するものがない運用難の相場で、高金利通貨のキャリートレードが注目を集めている。引き続き、押し目買いを継続したい。

NZドル/円(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
中段:21日ボリンジャーバンド
下段:ストキャスティクス5.3.3(日足)

(出所:石原順)

ユーロ/NZドル(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド

(出所:石原順)

豪ドル/円(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
中段:21日ボリンジャーバンド
下段:ストキャスティクス5.3.3

(出所:石原順)

ユーロ/豪ドル円(日足)

上段:14日ADX(赤)・26日標準偏差ボラティリティ(青)
下段:21日ボリンジャーバンド

(出所:石原順)

米国株上昇6年目のハードル

世界中、QEという自作自演の株高・通貨安・金利安(金融抑制策)作戦が展開されているが、そううまくいくものであろうか?米国株は5年にわたって上げ続け、今年は上昇6年目という高いハードルに直面している。

米S&P500株価指数(月足) 今年は上昇6年目に入る

(出所:石原順)

また、景気や株価の先行きに楽観的報道が多い中、投資銀行の多くが今後は運用部門のリストラに動くと発表しているのもおかしな話である。相場の主役であった高速取引も、司直の手入れで動けなくなり、市場の流動性が低下している。

多くの国が社会や景気を維持するコストとして、金融緩和やQEという時間稼ぎのバブルを選択している。そして、今またドラギバブル相場がスタートしている。投機筋はバブルに便乗するだろう。

政府や中央銀行が市場をコントロールできるなら、バブルは崩壊しないということになる。しかし、そうはなっていないのが歴史の教えるところである。6月のFOMCで副議長デビューするスタンレー・フィッシャーは「FRBが今後行うことを詳しく説明するのを期待するのは禁物だ。なぜかと言えば、FRBはそれが分からないからだ。われわれは1年後に何をしているかを知らない。将来の正確性を追求し過ぎるのは間違っている」と語っている。相場も同じだろう。とにかく、今年の相場は防御をしっかりしておきたい。