ちょっと前に渡辺淳一氏の「鈍感力」という本がヒットしました。当時は「なんとか力」という本があふれていたので、今になってみるとあまり印象が残っていないのですが、最近入手してみたところ、なかなか面白い本でした。「失楽園」の著者ですから、恋愛関係の鈍感力みたいな話もでるのだが、それもそれで面白い一冊です。

さて、ある種の「鈍感さ」は投資においても必要です。むしろ投資のステップアップにおいて必要となる資質でないかと思います。そこで、投資に求められる「鈍感力」について少し書いてみたいと思います。もしかすると「なんとなく投資」をしている人がステップアップするヒントになるかもしれません。

なんでも「敏感」なほうが優れていると思われているが本当にそうか

投資においては「敏感さ」が一般には必要と考えられています。ニュースを早くキャッチアップする能力があれば銘柄選択に役立ちそうですし、トレンドの変化を早く見極める能力があれば、より多くのリターンを得られそうです。

投資をスタートした人がそのアンテナを張り始めると、投資関連情報は驚くほど豊富にあることに気がつきます。読み切ることはできないほどの情報量にあふれており、次々と配信されてきます。できる限り多くの情報を、できる限り早くキャッチすれば自分の投資成績は向上するような気がします。

しかし冷静に考えてみると、すべての情報に目を通すことは不可能です。少なくとも就寝中の投資情報をタイムリーに得ることは困難ですし、仕事中に投資情報ばかりウォッチしていたら仕事になりません。

これは起床中のプライベートタイムであっても同様で、常にマーケット情報を見続けるような(例えばスマホを隙あらばにらみ続けるような)取り組みは非現実的です。

特にFXをやっている初心者ほど24時間ニュースウォッチャーになりがちですが、恋人や家族がいる場合、その不興を買うことは避けられません。しかしその割に運用成績が上がる保障はありません。これは運用が日常を支配している本末転倒な状態といえます。

ほどほど「鈍感」なほうが投資はうまくいく

投資について機敏であろうと考える人ほど、短期的な値動きに気を囚われている人です。

もし数年スパンで投資の期間を設定することができれば、経済速報値をリアルタイムで眺める必要はなくなります。数週間くらいのあいだで判断しても十分ですし、夜中に見届けるために翌日眠くて仕事にならないようなリスクも負わずにすみます。

中長期的視点を持つとむしろ敏感にマーケットとつきあう弊害のほうが生じてきます。短期的な値上がりについて敏感に反応し、売却することはもちろん利益の獲得ですが、「その次」も考える必要がでてきます。

利益を得てその一部分は税金として引かれたのち、残った資産をまた別の投資に供していかなければ資産の成長はそこでストップしてしまうからです。

税金を払って再度同じ銘柄を買い直すとしたら、割高になったとき売り、割安になったとき買い直すような手間暇をかけ続ける必要があります。別の銘柄を試すのであっても銘柄物色という手間暇がかかります。

機敏な対応を心がけるということがいつしか、マーケットにしがみつかなければならない投資状況を作り出してしまうのです。普通の人にとって、投資は人生の中核ではありませんので、こうすると投資が負担になったり苦痛となって続けられなくなります。

もし、中長期的に成長を続ける投資対象であれば、短期的な利殖に目を奪われずほったらかしにしておけばいいのです。それこそ「鈍感力」を発揮するのです。

特に中長期投資を行うほど「鈍感力」が意味をもつ

わざわざ「投資で鈍感になれ」というのは、誰もが投資を行う時代、現役世代4000万人が投資と関わっていくべき時代の投資のありかたは短期売買ではないと考えているからです。

仕事やプライベートと平行して投資とつきあっていかなければならないとき、毎日マーケットウォッチを強いる投資方法は継続できません。そこで、「鈍感力」を投資にも応用してみようというわけです。

「鈍感力」の最大の効果が発揮されるのは不要な売買を控えることです。先ほどの例のような頻繁な売買を減らすことができれば、売買手数料と税金といったコストがかかりませんし、マーケットをチェックし続ける負担も大きく軽減されます。

年金運用のマネージャーなどは、毎日の株価ウォッチャーにはならず、むしろポートフォリオ全体の最適化であったり、運用委託先の投資状況を俯瞰してチェックするようなマネジメント、新しい投資対象・投資商品・運用委託先の開拓のほうにリソースを割いています。

個人の投資に例えるなら、下記のような部分により時間を割くというイメージです。

  • 投資信託の運用状況が適当であるかチェックする(単にパフォーマンスの善し悪しだけではなく、投信評価の情報も加味する)
  • 新たな投資対象を加える余地はないか考えてみる
  • ポートフォリオ全体でのリスクの取り過ぎ(取らなさすぎ)をコントロールする

この3点も毎日考える必要はないので、せいぜい四半期に一度、あるいは半年に一度ないし年に1度のチェックで十分でしょう。

もし、投資を3カ月放置したら運用の損失が資産のすべてを失うことになるのであれば、それは投資対象の選択が間違っている、と考えてみるべきです。

もちろん、愚鈍になってしまわないようなバランス感覚も必要

とはいえ、鈍感になればなるほどリターンが高まるわけではないことにも注意が必要です。鈍感力は無用な損失、無用なコスト負担を回避する力になったとしても、リターンを最大化させる要素ではないからです。

自分が投資した対象や商品の内容や購入金額を忘れてしまうのは鈍感力がいきすぎて「健忘力」になってしまっています。

先ほど年金運用のマネージャーと対比したように「ポートフォリオ全体のリスク管理」には意識をとめておくべきです。特に短期的な相場の急変がもたらした望外の利益については部分的利益確定、つまりリバランスをかけてもいいでしょう。

しかし、投資初心者のほとんどは「鈍感力」を高めていくことが価値が高いと思います。少なくとも毎日Yahoo!ファイナンスを立ち上げて無意味にリロードを続けるような投資はしなくてもいいと思います。

「なんとなく投資」から「敏感な投資」に踏み込み、そのうえで「ほどほど鈍感な投資」になれれば、これはステップアップといえると思います。