短期的な株価下落には「ツナギ売り」が有効

第73回のコラムで、保有株の下落に備えた防衛法につきご説明しました。今回は、その続きとして、少し応用的な方法をご紹介したいと思います。

保有株の下落に備えた防衛法として最も原則的な方法が「持ち株の売却」です。しかし、実際に持ち株を売却してしまうと、時には多額の含み益をかかえた貴重な持ち株を手放すことになってしまいます。

そこで活用したいのが、以前ご紹介した「ツナギ売り」です。簡単に説明しますと、持ち株を保有したまま、同じ銘柄を同じ株数だけ空売りし、短期的な株価下落に備えるというものです。買い値が低く含み益のある持ち株を売却せずに温存しつつ、株価下落のリスクを回避することができるため、非常に有効な手法です(詳しくは以前コラムをご覧ください)。

ETFの空売りで「ツナギ売り」に近い効果を得ることができる

しかし、残念ながら個別銘柄の中には、空売りのできない銘柄もあります。特に新興市場銘柄に多く見受けられます。そうした銘柄は、上記のような「ツナギ売り」の手法がとれませんので、別の方法を考える必要があります。

1つは、仕方ないので原理原則に立ち返って、第73回コラムで述べたように持ち株自体を売却してしまうという方法です。もう1つ考えられるのは、「つなぎ売り」に近い効果を得るために、ETF(上場投資信託)を空売りする方法です。

大雑把にいってしまえば、個別銘柄の値動きと、日経平均株価やTOPIXといった株価指数柄の値動きは概ね似る傾向にあります。そのため、ツナギ売りができない個別銘柄については、ツナギ売りの代わりに株価指数に連動するETFを空売りすることにより、ツナギ売りに近い効果を得ることができます。

ETFには、日経平均株価やTOPIXに連動するタイプのものだけでなく、「JASDAQ-TOP20」というジャスダック上場の新興市場銘柄20社の株価に連動するタイプのものもあります。

東証1部銘柄と新興市場銘柄は値動きが若干異なることが多いので、持ち株のうち東証1部銘柄に対しては日経平均株価やTOPIXに連動するタイプのETFを空売りし、新興市場銘柄に対しては「JASDAQ-TOP20」に連動するタイプのETFを空売りする、というように使い分ければより効果的です。

ETFの空売りだけでは対応できない場合もある

ただし、ETFは個別銘柄と同様に「空売り規制」というものが適用されます。これは、同一の銘柄については一度に50単位を超えて成行、もしくは現在の価格以下の価格での指値による空売りの注文を出してはいけないというものです(詳しくはこちらをご覧ください)。現在の価格より高い価格の指値による空売り注文であれば大丈夫ですが、そうすると今度は空売り注文が成立しないという恐れも出てきます。

例えば日経平均株価に連動するETF(1330)は、売買単位が1口です。日経平均株価が9,800円のときに成行で空売り注文を行う場合、一度に最大で9,800円×50口=49万円しか空売りできないことになります。投資資金が数十万円程度の方であれば問題ありませんが、投資資金が数百万円、数千万円となると、ETFの空売りという手法も現実的ではなくなってしまう恐れがあります。

そんな場合の対処法として、「日経平均先物の売り」の活用があります。

日経平均先物の売りもETFの空売りと効果は同じ

日経平均先物は、日経平均株価の先物取引です。日経平均株価とほぼ同じ値動きをするため、日経平均株価に連動するETFとほぼ同じ効果が得られると考えていただいて結構です。

ETFと異なり、日経平均先物を空売りする際は、金額・数量に特段の制限はありません(取引数量に応じて一定の証拠金差し入れは必要)。証券会社によって独自に上限を設定していることもありますが、一般の個人投資家が扱う資金量であれば、特段問題にはならないはずです。

日経平均先物は、「ラージ」と「ミニ」があります。単に「日経平均先物」と表現されている場合はラージのことを指します。ラージであれば1単位が日経平均株価の1,000倍、ミニなら100倍です。したがって、日経平均株価9,800円のときはラージ1単位が980万円、ミニ1単位は98万円です。

ただし、先物取引は差金決済が基本ですから、ラージを1単位空売りしたからといって、980万円必要ということではありません。通常はその10分の1程度の証拠金(株価の変動率により必要な証拠金は変動します)を差し入れておけば取引可能です。ただ、株価の変動により含み損が生じた場合は、追加で証拠金を差し入れないと強制決済されて損失が確定してしまうことがある点には注意が必要です。

ETFの空売りや日経平均先物売りだけでは限界も

ETFの価格はそれぞれの対応する株価指数に連動し、日経平均先物の価格は日経平均株価に連動します。一方、株価指数と個別銘柄の動きは総合的にみれば類似しているものの、同じではありませんから、必ずしも個別銘柄の下落を100%カバーしてくれるわけではありません。

最悪の場合、持ち株は下落する一方でTOPIXや日経平均株価は上昇する、という状態に陥ってしまうことも考えられます。

したがって、ツナギ売りができない銘柄の場合は、ETFや日経平均先物の空売りである程度ヘッジする一方で、時と場合によっては持ち株の一部売却も検討する、という二刀流の対応をしていくことがより現実的ではないかと思います。