米国株の注目点 景気
まずは景気について見ていきます。足元の株式市場は、米国景気の「ソフトランディング(軟着陸)」シナリオを中心に動いていますが、米国では強い結果を示す経済指標が相次いでいることから、一部で「ノーランディング」シナリオの見方も強まっています。
<図4>米景況感と株式市場の関係
景気の強さが続くノーランディングシナリオは、株式市場にとって最良のシナリオのようにも思えますが、現在の状況では「必ずしも手放しで喜べない」ものとなっています。
上の図4にもあるように、景気が強過ぎることで、金融政策の利下げペースの鈍化や見送り観測が浮上するだけでなく、反対に、インフレの継続や再燃への警戒感も高まることも考えられます。結果的に高金利が維持されることで、株式市場の上値が抑えられやすくなります。
1日(金)には、10月分の米雇用統計が公表されます。7月分と8月分の雇用統計については、内容が弱かったことで景気減速が意識されて株安となりました。
つまり、「景況感の悪化が素直に株安につながった」わけですが、今回の雇用統計については、金利上昇が警戒されている中で公表されますので、仮に雇用統計の結果が強かった場合、「利下げ期待が後退する」という受け止め方で株価が下落してしまうかもしれず、むしろ、少し弱いぐらいの結果の方が株式市場は好感するかもしれません。
米国株の注目点 割高感
続いての注目点は株式市場の割高感です。この割高感については、以前のレポートでも何度か指摘したことがあります。
その一つが、先ほどの米10年債利回りと、株式の益回りを比較したものになります。
<図5>米S&P500の益回りと米10年債利回りのイールドスプレッドの推移
上の図5のオレンジ色の線は、米S&P500の益回りと米10年債利回りの差分(イールドスプレッド)の推移を示しています。
通常の場合、安全資産である米10年債利回りよりも、リスク資産である株式(S&P500)の益回りの方が高くなるのですが、足元ではマイナス圏に沈んでいて、かなり割高であると言えます。
イールドスプレッドが上向きになるには、「(企業の)利益が増える」か「株価が下がる」、もしくは「金利が下がる」必要があります。
先ほども見てきたように、足元の金利(米10年債利回り)は上昇傾向にあります。米国企業の決算発表はまもなくピークを迎えようとしていますが、結局は、「企業がしっかり利益を稼いでいるか?」がカギを握ることになります。
このほか、こちらのレポートでも指摘した「CAPEレシオ」も割高感を示していますので、今後の米国株が上昇していく展開となった場合、割高感を意識しながら上値をトライすることになり、上値の伸びはあまり期待できないかもしれません。
それでも米国株は上昇する?
もっとも、株式市場には、「米大統領選挙後の株価は上昇しやすい」というアノマリー(経験則)があります。
<図6>米大統領選挙前後の株価(NYダウ)の動き(投開票日および前日を100)
上の図6は、米大統領選挙の投票日を100として、前後150日間のNYダウの推移を示したものです。
ピンク色の線は、1900年から2020年までの大統領選挙31回分の平均を表しているのですが、選挙後の株価は上昇していることが分かります。
また、直近4回分についての推移も描いていますが、リーマン・ショックのあった2008年を除き、やはり上昇基調を描いています。
今回の米大統領選挙もこのアノマリーが意識され、株価が上昇して行く展開もありそうですが、先ほども見てきたように、現在の米国株市場は、金利面、景気面、割高面で不安の火種を抱えていることは意識しておいた方が良いかもしれません。