先週末10月27日に投開票が行われた衆議院選挙で、与党の議席が大幅に減少するという結果で迎えた今週の株式市場。日経平均株価は大幅な下落が見込まれる声が多かった中、フタを開けてみれば、下落したのは週初28日(月)の取引開始直後の数分間のみで、以降は上昇へと切り返し、30日(水)の取引では3万9,000円台まで株価水準を切り返す展開を見せています。
衆院選後の日経平均上昇はそろそろ限界?
確かに、与党の獲得議席が議会の過半数を維持できなかったことは、政治の不安定さを嫌気する売りにつながりやすいのですが、今回の衆議院選挙では、減税や社会保険料の軽減などを通じた「所得増加」を政策に掲げる国民民主党が7議席から28議席へと躍進したことが大きかったと言えます。
「石破政権を維持するには野党と協力する必要があり、仮に、国民民主党と協力することになれば、同党の政策がある程度反映される」という思惑と期待が株価の反発をもたらした可能性があります。さらに、為替市場で円安が進んでいることも日本株にとって追い風になった格好です。
<図1>日経平均(日足)の動き(2024年10月31日時点)
とはいえ、衆議院選挙後の政権運営がどのような形になるのかについてはまだ決まっておらず、再来週の11日に召集される特別国会で行われる首相指名投票に向けて、見通しが立てられるかどうかを見極める必要があります。
また、テクニカル分析的にも、図1の日経平均の日足チャートを見ても分かるように、今週の株価上昇によって、25日移動平均線を回復してはいますが、現在の株価位置は引き続き、先月の自民党総裁選前後である、9月27日と9月30日の値幅内にとどまっているほか、先週に下抜けてしまった「上昇ウェッジ」の下限の線にも届いていません。
そのため、ここからの日経平均の上値は重たくなる可能性が高そうです。株価が上昇していくには、企業決算でポジティブサプライズがあるなどの材料が欲しいところですが、市場の関心はいよいよ来週5日(火)に迫った米大統領選挙へと向かっています。
米大統領選挙を前にした米国株市場の動きと注目点
そこで、足元の米国株市場の動きについてもチェックしています。今週に入ってからの米主要株価指数はこれまでのところ、NYダウ(ダウ工業株30種平均)が下落基調、S&P500種指数は横ばい、そしてナスダック総合指数が上昇基調をたどっています。
<図2>米主要株価指数の動き(2023年末を100)(2024年10月30日時点)
今週の米国では、アルファベットやマイクロソフト、メタ・プラットフォームズ、アップル、アマゾン・ドット・コムといった大手テック株が相次いで決算を発表するほか、週末の1日(金)には月初恒例の雇用統計(10月分)が予定される中、テック株への業績期待を先取りする格好で29日(火)にナスダックが最高値を更新する場面を見せました。
その一方でさえない動きとなっているのがNYダウです。NYダウは先週あたりから下げが目立ち始めていますが、ちょうど、「米大統領選挙戦でトランプ候補が勝利するのでは?」という見方が強まったタイミングと一致しています。
トランプ候補の掲げる政策(関税引き上げや移民対策など)が米国のインフレ圧力を高めるのではという見方が高まり、それに伴って米10年債利回りが上昇したことが株価を抑える格好となりました。
下の図3を見ても、直近の米10年債利回りは4.3%台に乗せる場面があるなど、上昇基調を強めています。
<図3>米10年債利回りの推移
米10年債の利回り上昇は、9月16日の3.6%台を底に、0.5%の利下げが決まった前回のFOMC(米連邦公開市場委員会)から始まっています。
当初の米10年債利回りの上昇は、米景気の「ソフトランディング見通し」への自信の表れと受け止められ、株式市場もあまりネガティブ視していなかったのですが、FOMC以降に公表された米経済指標の結果が強いものが相次いだことで、徐々に利下げペースの鈍化が意識され始めていきました。
その後も利回りは上昇を続け、4.2%付近から株価の上値を抑える動きが目立つようになってきました。
米大統領選挙については、「どちらの候補が勝つか?」、「その場合、どんな銘柄やセクターが有望なのか?」といったところが気になりがちですが、いちばん重要なのは、「米大統領選を経て、これまでの相場の流れや見通しに大きな変化をもたらすかどうか」になります。
その具体的な注目点として、先ほどまで説明してきた「金利」をはじめ、「景気」や「割高感」が挙げられます。
米国株の注目点 景気
まずは景気について見ていきます。足元の株式市場は、米国景気の「ソフトランディング(軟着陸)」シナリオを中心に動いていますが、米国では強い結果を示す経済指標が相次いでいることから、一部で「ノーランディング」シナリオの見方も強まっています。
<図4>米景況感と株式市場の関係
景気の強さが続くノーランディングシナリオは、株式市場にとって最良のシナリオのようにも思えますが、現在の状況では「必ずしも手放しで喜べない」ものとなっています。
上の図4にもあるように、景気が強過ぎることで、金融政策の利下げペースの鈍化や見送り観測が浮上するだけでなく、反対に、インフレの継続や再燃への警戒感も高まることも考えられます。結果的に高金利が維持されることで、株式市場の上値が抑えられやすくなります。
1日(金)には、10月分の米雇用統計が公表されます。7月分と8月分の雇用統計については、内容が弱かったことで景気減速が意識されて株安となりました。
つまり、「景況感の悪化が素直に株安につながった」わけですが、今回の雇用統計については、金利上昇が警戒されている中で公表されますので、仮に雇用統計の結果が強かった場合、「利下げ期待が後退する」という受け止め方で株価が下落してしまうかもしれず、むしろ、少し弱いぐらいの結果の方が株式市場は好感するかもしれません。
米国株の注目点 割高感
続いての注目点は株式市場の割高感です。この割高感については、以前のレポートでも何度か指摘したことがあります。
その一つが、先ほどの米10年債利回りと、株式の益回りを比較したものになります。
<図5>米S&P500の益回りと米10年債利回りのイールドスプレッドの推移
上の図5のオレンジ色の線は、米S&P500の益回りと米10年債利回りの差分(イールドスプレッド)の推移を示しています。
通常の場合、安全資産である米10年債利回りよりも、リスク資産である株式(S&P500)の益回りの方が高くなるのですが、足元ではマイナス圏に沈んでいて、かなり割高であると言えます。
イールドスプレッドが上向きになるには、「(企業の)利益が増える」か「株価が下がる」、もしくは「金利が下がる」必要があります。
先ほども見てきたように、足元の金利(米10年債利回り)は上昇傾向にあります。米国企業の決算発表はまもなくピークを迎えようとしていますが、結局は、「企業がしっかり利益を稼いでいるか?」がカギを握ることになります。
このほか、こちらのレポートでも指摘した「CAPEレシオ」も割高感を示していますので、今後の米国株が上昇していく展開となった場合、割高感を意識しながら上値をトライすることになり、上値の伸びはあまり期待できないかもしれません。
それでも米国株は上昇する?
もっとも、株式市場には、「米大統領選挙後の株価は上昇しやすい」というアノマリー(経験則)があります。
<図6>米大統領選挙前後の株価(NYダウ)の動き(投開票日および前日を100)
上の図6は、米大統領選挙の投票日を100として、前後150日間のNYダウの推移を示したものです。
ピンク色の線は、1900年から2020年までの大統領選挙31回分の平均を表しているのですが、選挙後の株価は上昇していることが分かります。
また、直近4回分についての推移も描いていますが、リーマン・ショックのあった2008年を除き、やはり上昇基調を描いています。
今回の米大統領選挙もこのアノマリーが意識され、株価が上昇して行く展開もありそうですが、先ほども見てきたように、現在の米国株市場は、金利面、景気面、割高面で不安の火種を抱えていることは意識しておいた方が良いかもしれません。
本コンテンツは情報の提供を目的としており、投資その他の行動を勧誘する目的で、作成したものではありません。銘柄の選択、売買価格等の投資の最終決定は、お客様ご自身でご判断いただきますようお願いいたします。本コンテンツの情報は、弊社が信頼できると判断した情報源から入手したものですが、その情報源の確実性を保証したものではありません。本コンテンツの記載内容に関するご質問・ご照会等には一切お答え致しかねますので予めご了承お願い致します。また、本コンテンツの記載内容は、予告なしに変更することがあります。