盗難を取り締まることが難しい背景

 2023年に日本で最も金属窃盗の認知件数が多かった茨城県では、以下のように、チラシを貼ったり、呼びかけをしたりするなどして対策を行っていますが、今のところ目立った効果は出ていないようです。

図:盗難を防ぐ動き(茨城県の例を抜粋)

出所:各種資料より筆者作成

 金属※の盗難が相次いでいる理由の一つに、買い取りを規制する強いルールがないことが挙げられます。※銅線、太陽光発電設備ケーブル、水道使用量の検針に使われる水道メーター、側溝のグレーチング、公共施設などの水道の蛇口、ビニールハウス内散水用ポンプの金属製バルブ、エアコンの室外機、金属製フェンスなど。

 買い取り業者に持ち込まれる金属は金属くずとして扱われ、ほとんどの場合、溶解されるなどして、そのままの形では流通しません。盗難品の売買防止対策に、買い手に本人確認や帳簿保存などを義務付ける「古物営業法」がありますが、これは形をほとんど変えない中古品の売買を対象とするもので、買い取り後に形を変える金属くずはその対象外です。

 日本では、太平洋戦争前から1950年代ごろまで金属(金属くず含む)は軍事物資と見なされ、特別に管理されていました。こうした状況の中、1949年に「古物営業法」が施行され、中古品と金属くずの扱いが明確に分かれました。この前後から、金属くずの売買は自治体ごとに条例で規制することとなり、今に至っています。

 こうした状態を改善すべく近年、複数の自治体で関連する条例の制定・改正を行う動きが出てきています。

図:条例で盗難品の流入を規制する動き

出所:各種資料を基に筆者作成

 ですが、法律ではないため全国をカバーできず、県外に盗品が持ち出された場合、適用できない場合があることや、制定・改正に時間がかかる場合があること(茨城県警は複数回、起案を見送っている)などが課題となっています。

 また、法制化を検討するにあたっては、古物営業法(中古品の売買を扱う)とのすみ分けが必要であること、金属の盗難が目立っていない地域では重要度が高くないことなどに留意する必要があり、全体として、金属の盗難や盗難品の買い取りを規制する動きはなかなか進んでいないのが、実情です。