債券市場が想定する期待インフレ率は低下している

 4月は「底堅い景気」や「物価上昇率の高止まり」が債券市場の長期金利を押し上げ、バリュエーション悪化(割高感)が株価を押し下げました。為替市場では4月29日にドル/円相場を160円台に上昇させた(円売り・ドル買い)要因となりました。

 5月に入るとFOMCが6月からのQT(量的金融引き締め)削減方針を明らかにし、雇用関連指標が労働需給の緩和を示し債券金利が低下しました。

 市場が警戒していた4月・CPI(消費者物価指数)の伸びが+3.4%と市場予想通り減速。同日に発表された小売売上高は個人消費の鈍化を示し、長期金利(10年国債利回り)は4.31%に低下しました。

 6月11~12日に開催される次回FOMCでは政策金利据え置きが想定される一方、金融当局が3カ月ごとに公表する最新のSEP(Summary of Economic Projection=経済・金利見通し)で「2024年のインフレ見通し上方修正と利下げ時期の後ズレ」を示唆するとみられます。

 15日の先物市場(CME(シカゴ先物取引所))で試算される政策金利の見通し(FED WATCH)によると、「9月に利下げが実施され、年末までに2回目の利下げを実施される可能性」が有力視されています。

 パウエル議長などFRB(米連邦準備制度理事会)高官に慎重発言が相次ぐ中、市場は特に次回FOMCで公表される「政策金利見通し(ドットチャート)」の変化に注目することになります。参考までに、図表2は債券市場で予想されている年限ごとのBEI(Break Even Inflation Rate=債券市場の期待インフレ率)を示したものです。

 特に「2年物期待インフレ率」が5月に入り2.2%に急低下している状況に注目です(15日)。今後発表される物価指標や景気指標の動向次第ですが、債券市場はFRBによる次のピボット(転換)が「早晩の利下げ」であることを示唆しています。当面は株式市場もインフレ収束と景気減速のペースを受けた金融政策の方向感を見極める動きとなりそうです。

<図表2:米国債券市場の期待インフレ率は収束傾向>

(出所)Bloombergより楽天証券経済研究所作成(2024年5月15日)