通貨当局「24時間365日」介入を明言

 今回推測される介入金額は計約8兆円強、4日間(日本時間ベース)で2回、介入の有無の言及なしという点で、2022年10月の介入時の「大規模」、「連続」、「覆面」の手法と同じです。そして今回は、これらに加え、「24時間365日」介入が加わりました。

 政府の為替政策の実務を統括する神田真人財務官は4月30日、「介入の有無については申し上げることはない」としつつ、「24時間、365日、平時であっても対応できる準備をしている」と語りました。神田氏は「24時間態勢なのでロンドンであろうがニューヨークであろうが、ウェリントンであろうが関係ない」として、「過度な変動が投機によって発生してしまうとそれが国民生活に悪影響を与えるので国際ルールにのっとって対応をしていく」と述べています。

 これまでも早朝時間の介入はありましたが、いつでも、どこでも、やるときはやるということを市場に対して明言した意味は大きいと思います。そして、この発言後、実際に5月2日早朝に介入を実施した可能性があります。いつでもどこでもやる介入姿勢によって、市場の疑心暗鬼は多少強まりそうです。

 大規模な介入を2回実施したことでしばらくは円安もブレーキがかかりそうですが、それでも市場の見方は、日米金利差は変化がないため、円安構図はこのまま続き、再び1ドル=160円を突破し、165円、170円に円安が進むとの見方が多いようです。

 しかし、米雇用統計発表後、見方が少し変化してくる可能性にも留意する必要があると思われます。

米早期利下げ観測が弱い雇用統計を機に再び強まる可能性も

 2022年の介入の後は円高地合いになりましたが、介入効果だけでなく、日米金融環境の変化や期待が背景にありました。2022年9月、10月の介入の後、11月の1ドル=152円手前から12月には140台前半となり、11円強の円高となりました。

 当時の円高は、11月の弱い米雇用統計とCPI(消費者物価指数)によってFRBの利上げ打ち止め観測が強まり、翌年の利下げも前倒しになるのではないかとの期待に加え、12月には日銀のマイナス金利解除への期待が急速に高まったことが背景にあります。今回も介入の後、円高地合いに転換するためには日米金融環境の変化や市場の期待が必要となります。

 今回の介入は日銀の追加利上げまでの時間稼ぎの域を出ないだろうとみられていましたが、弱い米雇用統計によって、少し環境が変化したかもしれません。

 米雇用統計までは、強い物価指標によって米利下げ観測が後退し、場合によっては利上げが必要になるかもしれないとの見方がありましたが、4月の米雇用統計で就業者数などが予想を下回る結果になったことで、市場では米国の年内の利下げ期待がFOMC後の1回から米雇用統計後には2回に増えていることは注目です。

 また、FOMC前までのFRB内のタカ派的な雰囲気を変えた可能性もあります。米雇用統計後にハト派的な発言がみられ始めています。

 バーキン・リッチモンド連邦準備銀行総裁が「現在の金利水準でインフレを2%に戻せると、私は楽観している」と発言しました。ウィリアムズ・ニューヨーク連銀総裁は4月には利上げの可能性を否定しませんでしたが、「最終的には利下げが行われるだろう」と述べ、FRBの幹部からのハト派的発言が目立ちます。

 パウエル議長はFOMC後の記者会見で、利上げの可能性を否定し、警戒されていたほどタカ派ではなく、利下げの旗を下ろしませんでした。他の理事たちもこうした姿勢に追随してくるかもしれません。

 今回は2022年のような劇的な変化ではありませんが、いったん後退した米国の早期利下げ観測が、米雇用統計をきっかけに再び高まる可能性はあります。

日銀追加利上げ思惑高まる可能性、1ドル=160円は遠い水準か

 また、日銀の追加利上げが早期に行われるかどうかも焦点になります。植田総裁は7日、岸田文雄首相と会談し、会談後記者団に「経済・物価に潜在的に大きな影響を与え得るものなので、最近の円安については日本銀行の政策上十分に注視をしていくことを確認した」と述べました。

 4月の日銀会合から、姿勢は変わらないものの表現を変えた意味は大きいと思われます。今後、円安が進んだ場合、追加利上げの思惑を高める可能性があります。

 強い米国の物価も、賃金低下や中東情勢緊迫化の後退による原油価格下落によって、早晩、抑制されてくるかもしれません。今後の米CPIや米PCEを確かめながらのドル上昇になりそうです。1ドル=160円はしばらく遠い水準になるかもしれません。