エヌビディア株そのものは決算で強い動き

 これまで確認してきたように、日米の主要株価指数の動きを見ると、期待されていた「エヌビディア祭り」は肩透かしになったような印象ですが、エヌビディア株の値動き自体は決算後に一段高となっていて、強さを見せています。

図6 米エヌビディア(日足)とMACDの動き(2024年5月24日時点)

出所:MARKETSPEEDIIを基に筆者作成

 上の図6が示すように、22日(水)の決算を受けたエヌビディア株は、23日(木)に「窓」を空けて上昇し、ついに1,000ドルの大台に乗せてきました。翌24日(金)もさらに上値を伸ばしています。

 そのエヌビディア決算の中身ですが、「売上高」と「純利益」、そして「業績見通し」のすべてが市場予想を上回る強い結果となり、あらためて、生成AI開発・投資ブームを背景とする半導体需要の高さを見せつけました。

 そのため、エヌビディア株の上昇は、相場全体を押し上げる効果としては限定的になってしまいましたが、他の半導体関連銘柄へ波及していく可能性は十分にあると言えます。日本株にとっても、半導体製造に関わる裏方企業が多いこともあり、関連銘柄への注目度は高くなりそうです。

 ただし、本レポートではチャートを用意していませんが、例えば、前回(2月)のエヌビディア祭りで賑わった、東京エレクトロン(8035)アドバンテスト(6857)ソフトバンクG(9984)の「エヌビディア3兄弟」と呼ばれた銘柄は、2月から4月につけた高値と比べると、まだ株価位置が低いところに留まっていて、先週のエヌビディア株の上昇について行けていません。

 これらの銘柄に代わって、ディスコ(6146)レーザーテック(6920)の方がエヌビディアの上昇に連動して高値を更新する動きを見せており、物色される銘柄については選別が進むと思われます。

相場全体としては、米国の景況感とインフレ動向に左右される

 また、ここであらためて、今回のエヌビディア祭りがあまり盛り上がらなかった背景についても考えてみたいと思います。

 結論から言ってしまうと、米国で先週公表された経済指標の結果や、FOMC(米連邦公開市場委員会)議事録(4月30日~5月1日開催分)の内容などを受けて、最近までの株価上昇の原動力となっていた、「FRB(米連邦準備制度理事会)による利下げ開始シナリオ」に揺らぎが生じたことがその理由として挙げられます。

 そのため、今週も引き続き、米国の景況観やインフレの動向と金融政策への思惑が相場を左右することになり、米長期金利の動きに敏感に反応する展開が想定されます。

 足元の米10年債利回りは、4月下旬に4.7%台まで上昇していたときから比べると、水準自体は切り下げていますが、200日移動平均線がサポートとなって再び上昇しつつあるため、短期的なトレンドとしては、上目線の強さがまだ残されている可能性があります。

図7 米10年債利回り(日足)の動き(2024年5月24日時点)

出所:楽天証券WEBサイトより筆者作成

 今週の米国市場は、週初の27日(月)が休場で4営業日となる中、FRBが注目している4月の個人消費支出(PCE)物価指数が公表されるほか、ベストバイなどの小売関連企業の決算がいくつか予定されています。

 また、直接的な相場材料ではありませんが、今週から米国株市場の取引受渡日が約定日の翌日(T+1)となります。

 受渡日が変更されて間もない週末の31日(金)には、MSCI全世界株指数(ACWI)の銘柄入れ替えが実施され、売買量が増えるタイミングと重なることもあり、取引システムがトラブルなく通過できるかも意識しておいた方が良さそうです。

6月相場も波乱含みの展開になりやすい?

 したがって、今週の株式市場は来週から始まる6月相場に向けた「地ならし」となる重要な週となりますが、6月に入ってからも注目のイベントが控えています。

 米国では、6月11日~12日にかけて開催されるFOMCに向けて、引き続き米金融政策への関心が高い状態が続き、6月7日の5月雇用統計や、12日の5月CPI(消費者物価指数)などが、注目の経済指標の結果が大きく影響を与えることになるほか、テーマとしては、6月10日に米アップル社(AAPL)が年次開発者会議(WWDC)を実施する予定となっており、同社のAIに対する取り組み状況の内容によっては、関連銘柄の材料になるかもしれません。

 日本では、6月13日~14日にかけて日銀金融政策決定会合が開催されますが、14日がメジャーSQというスケジュール感でもあり、需給的な思惑を巻き込んで値動きが荒くなることも想定されます。

 さらに、国内では6月から電気・ガス料金の支援(補助金)が停止されて物価への影響が心配される一方、定額減税の実施や、賃上げの効果が出始めるタイミングとされており、国内の景況感も焦点になるかもしれません。

 4月あたりまでの日本株は、「国内の景気はイマイチでも、儲かっている日本企業の株は買える」という構図で上昇してきましたが、国内GDP(国内総生産)が前年比でプラスとマイナスを往来する状況が続き、実質賃金も2年以上にわたって減少傾向が続いており、国内景気の現状と先行きは決して強いとは言えない状況です。

 日本株はすでにある程度の「割安感」や「出遅れ」の修正が進み、ここからの株価上昇には「成長」が求められる段階に入っているため、直近までの決算シーズンで日本株が上値を伸ばせなかったのも、業績の見通しなどが、こうした成長期待に応えられなかった面が影響していると思われます。

 このように、今週は米国株市場の温度感を中心に動くことがメインシナリオになりますが、再来週のメジャーSQを前にした需給的な思惑や、日本の景況感など、国内の材料についても意識しつつ、波乱含みの可能性がある6月相場に備えておく必要がありそうです。