今年の日本株は一般メディアでも話題になるほど躍進してきましたが、今週は一時的な調整期間に入りそうです。

 米国株安と円高進行を受けて、週明け11日(月)の東京株式市場の日経平均株価(225種)は主力の半導体株に対する手じまい売りなどもあり、終値は前週末比868円安の3万8,820円でした。午後の取引では下げ幅が一時1,200円近くに迫る場面もありました。

 その原因となった円高は、3月8日(金)のニューヨーク外国為替市場で一時1ドル=146円半ばまで急速に進み、週明け11日午前に146円台半ばを付けた後は147円前後で推移しています。

 また、日米のAI(人工知能)熱狂相場のけん引役だった米国高速半導体メーカー、エヌビディア(NVDA)の株価が8日(金)、前日比5.5%強も下落するなど、急上昇してきた半導体関連株に利益確定売りが入りそうなことも株価の足を引っ張りそうです。

 先週の日経平均株価(225種)は4日(月)に史上初めて4万円の大台を突破して4万0,109円の終値をつけたあと、7日(木)の取引時間中には4万0,472円の高値をつけ、一気に4万1,000円台を狙うのではないかと思われるほど堅調でした。

 しかし、7日(木)の取引時間中に、日本の中央銀行に当たる日本銀行の審議委員の発言などで来週18日(月)、19日(火)に開かれる金融政策決定会合でのマイナス金利解除予想が台頭すると、前日比492円安と急反落。

 8日(金)終値は前週末比0.6%安の3万9,688円まで後退しました。

 米国株は、8日(金)発表の米国2月雇用統計が強弱まちまちの結果だったこともあり、機関投資家が運用指針にするS&P500種指数が前週末比0.26%安、ハイテク株主体のナスダック総合指数が前週比1.17%安と利益確定売りに押されました。

 今週は米国で12日(火)に2月CPI(消費者物価指数)、14日(水)に2月PPI(卸売物価指数)や小売売上高、15日(金)に3月のミシガン大学消費者態度指数速報値が発表されます。

 CPI、PPIに関しては、先月発表の1月分がいずれも上振れして米国の物価高再燃が懸念されていることもあり、今回も予想を上回る伸びが続くと、株価急落につながる恐れもあります。

 日本国内では、労働組合による賃上げ交渉・春闘の集中回答日が13日(水)に予定され、15日(金)には連合(日本労働組合総連合会)が春闘の第1回回答集計の結果を発表予定。

 7日(木)に連合が発表した賃上げ要求の平均は30年ぶりの高水準である5.85%に達し、今週発表の実際の賃上げ率が要求に近い上昇になると、日銀の3月マイナス金利解除観測がさらに広がり、円高・株安が加速する可能性もあります。

 ただし、日本株が今週、たとえ下落したとしても、それはここまで急上昇してきたゆえの利益確定売り、短期スピード調整の域を出ないでしょう。

 逆に全体相場にツレ安した好業績割安株などに押し目買い(上昇トレンドが調整したあと再上昇したところで買う投資手法)を入れる絶好のチャンスかもしれません。

先週:日銀委員発言と急速な円高で日本株は調整期間入り!?銀行、建設など出遅れ内需株は大盛況!

 先週の日本株の上昇を小休止させたのは、日本の中央銀行に当たる日銀でした。

 6日(水)には、19日(火)に終了する金融政策決定会合で、一部出席者がマイナス金利政策解除の意見表明をする見通しという観測記事が流れました。

 7日(木)には日銀の中川順子審議委員が島根県金融経済懇談会で、賃金に変化の兆しがあり、2%の物価目標実現に向けて「着実に歩を進めている」と発言。

 この発言に反応して為替市場では1ドル=148円前後まで約1.3円の円高が進み、円高になると海外収益が低下する外需株を中心に日本株は急落しました。

 ただ、日銀が金利正常化の第一歩を踏み出すことは、金利上昇が収益向上の追い風になる銀行・保険セクターにとっては朗報です。

 そのため、先週は銀行・保険業や円高で資源など輸入品コストの目減りが期待できる電気・ガス業、パルプ・紙業など内需株が軒並み業種別上昇率ランキングの上位に入りました。

 地方銀行の筑波銀行(8338)が割安な低位株として注目され前週比15.7%高と急騰した他、メガバンクのみずほフィナンシャルグループ(8411)が11.1%高、保険大手の第一生命ホールディングス(8750)が5.3%高。

 また、建設株も割安な出遅れ内需株として集中的に物色され、4日(月)に配当方針の変更による増配を表明した大林組(1802)が21.8%も上昇しました。

 このように円高で外需株は売られたものの、内需株が盛況だったため、その影響力が強いTOPIX(東証株価指数)は前週末比0.6%高と堅調で、海外で収益を上げるハイテク株比率の高い日経平均がマイナス0.6%だったのとは対照的でした。

 一方、米国では6日(水)、7日(木)に米国の中央銀行に当たるFRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長の議会下院・上院での半期に1度の議会証言が行われました。

 パウエル議長は2024年の年内利下げが適切になる可能性が高いと述べたものの、その時期についてはインフレ率低下に関するさらなる確信が必要と証言。

 市場が期待する6月の利下げについて明確に否定することはなかったため、株価に大きなダメージはありませんでした。

 ただ、5日(火)にはアップル(AAPL)の2024年最初の6週間の中国でのiPhone販売が前年同期比24%減少したことが判明。

 また、7日(木)には米国の通信インフラ向け半導体メーカー、ブロードコム(AVGO)が7日(木)に市場予想を下回る2023年11月-2024年1月四半期決算を発表して8日(金)に株価が前日比7%弱も下落するなど、ハイテク関連のネガティブなニュースが相次ぎました。

 8日(金)には2月の米国雇用統計が発表。非農業部門雇用者数は前月比27.5万人増と予想を上回ったものの、過去2カ月の増加数が16.7万人も下方修正され、インフレに直結する平均時給は前月比0.1%の伸びまで大きく鈍化しました。

 強弱まちまちの結果だったこともあり、市場には材料出尽くし感が台頭。超高値圏にあったエヌビディア(NVDA)など半導体株を中心に8日(金)の米国株は利益確定売りで下げました。

今週:12日米国CPI、14日PPIで急変動!?日本株は押し目買いの好機?

 今週は株価の調整下落がどこまで続き、どこで反転上昇するかに注目が集まりそうです。

 その行方を大きく左右しそうなのが、今週発表される米国の物価指標です。

 12日(火)には2月CPI(消費者物価指数)、14日(木)には2月PPI(卸売物価指数)が発表。

 2月CPIは前年同月比3.1%の伸び、変動の激しい食品・エネルギーを除く2月コアCPIは3.7%の伸びが予想されています。

 もし、1月CPI、PPIのように予想を超える上昇率で高止まりしていることが確認されると、来週3月19日(火)~20日(水)には米国の政策金利を決めるFOMC(連邦公開市場委員会)の開催も控えるだけに、史上最高値圏にある株価がさらに急落するリスクもあります。

 14日(木)には米国の2月小売売上高も発表。

 先週5日(火)発表のISM(全米供給管理協会)の2月非製造業景況指数が雇用の減少で予想を下回るなど、米国では景気冷え込みのシグナルも出ているだけに注目が集まりそうです。

 日本では、来週に迫った日銀の金融政策決定会合に向けて、マイナス金利解除をにおわす「地ならし」に近い観測報道が行われる可能性も高く、より一層の円高や株安が進む可能性もありそうです。

 金融緩和に積極的なハト派色の強い植田和男総裁は2月29日(木)に2%の物価目標の達成が見通せる状況には「いまだ至っていない」と発言しており、日銀内部の意見の相違が先週来の外国人投資家による円買い・株売り攻勢につながったのかもしれません。

 8日(金)夜には、日銀が短期から長期までの国債利回りが描く曲線を適正な水準に保つYCC(イールドカーブ・コントロール:長短金利操作)政策を撤廃し、長期金利に関しては金利水準ではなく、国債購入額を明示する新たな量的緩和策を導入する、といった観測記事も流れています。

 ただ日銀の政策変更がどうであれ、春闘で5%以上の賃上げが実現して、消費者の懐が潤えば、住宅購入や個人消費など日本の内需も活気づきます。

 そのため、今週も上がり過ぎた半導体関連株から出遅れた割安な内需株への資金シフトが続く可能性が高そうです。

 年度替わりの3月、4月は、新年度の資金流入や、投資信託などが3月末の株主配当金を再投資に回す動きなどもあるため、例年、上昇相場になりやすい季節。

 上昇相場が長く継続するためには多少の調整期間も必要です。そういう意味で今週は株価上昇のための新たな材料探しの時期になりそうです。大きく急落した場合は有望企業の株を安値で仕込めるチャンスかもしれません。