先生は、隆一の反応は気にせず話を続けた。

「もちろん、あなたがこれから売上げ何兆円もの企業を起こすのは難しいかもしれません。でも、それらの企業も元々はベンチャー企業であり、上場したときにその会社に投資をしていれば、そこから資産は何百倍にもなっているのですよ」

「先生、何となくはわかりますが、ちょっと私には壮大です。もっと庶民にもできるレベルの話をしてもらえませんか?」

「確かに日本では、投資で成功した、投資で資産を築いたという人の数が絶対数ばかりでなく人口比でも、アメリカなどと比べると少ないのは事実です。そこには、日本経済の問題もあったのですが」

<あまりレベルが下がってないし、むしろややこしい話になってきたな>と隆一が感じたのを見てか、先生はこんな話をした。

「日本の株価は、直近では上げ下げはあっても、長い目で見ると回復基調の中にいます。と言っても、私の若いころ、1989年12月に日経平均株価は、3万8,915円を付けたんです。あれは忘れられません。あの頃は銀座でタクシーをつかまえるには、1万円札をドライバーに見せる必要がありました」

「私なんか、たまの新橋飲みで2,000円使うのもせいぜいなのに、タクシーをつかまえるだけで1万円ですか」

 隆一は、時代が違うなと感じつつも、先生の話に興味を持ち始めた。

「そういう時代をバブルというのです。バブルの仕組みや歴史は投資をする上では知らないといけないので、また別の機会にやりましょう。ざっくりと話すと、日本の不動産、株式バブルが崩壊した1990年からは、株価は大きく値を下げていきました。いったん戻り基調になっても2000年代初頭にはITバブルの崩壊、2008年にはリーマンショックによる急落があり、その後の民主党政権の時代も8,000円台の株価が続きました。とにかく日本株は長いこと低迷していたわけです。ようやく最近になって、世界景気の回復とアベノミクスで株価は回復基調をとりもどしていますが、リーマンショックから10年経ってやっと今の水準です。バブル崩壊など30年近く前の話なのに、当時の株価にはまだまだです」