隆一は、日々ある会社の株価を追いかけてはいたが、いまの日本の株価が高いのか、安いのかをあまり考えたことがなかったな、と思っていた。先生は、続けた。

「では、アメリカはどうか。1990年代から今日まで上げ下げはあっても、株価はトレンドとして上昇を続けてきました。これは、アメリカでは、特別な知識がなくとも株に投資して長く保有していれば、財産が作れたことを意味します。20年前の日経平均は今とそれほど変わりませんが、20年前のニューヨークダウ平均はいくらだったか知っていますか?」

 隆一はアメリカの株価など気にしたこともなかったので、素直に「20年前というか、今のダウもわかりません」と答えた。

「アメリカは世界経済の中心を成す国です。ぜひ、今日からNYダウぐらいには興味を持つようにしたいですね。20年前のNYダウは約8,000ドル、いまが2万4,000ドルくらいです。つまり、20年間、日本株がほとんど上がっていない間に、アメリカの株価は3倍になっていたということです」

 隆一は、「日本とアメリカでそんなに違ったんですか。いやあ、アメリカ人に生まれたかった」と相槌を打った。その反応をよし、と見たのか先生の言葉は熱を帯びだした。

「もう1つ、これはさきほどの日本とアメリカの株価の動きの結果でもあるのですが、日本では自分の金融資産を投資商品に振り向けている人が欧米に比べて極端に少ないのです。日本の家計金融資産は1,800兆円以上ありますが、その50%以上は現預金。投資に該当する株式・投資信託の割合は16%。それがアメリカでは逆で、現預金は13%程度で株式・出資金・投資信託が48%です。そもそも日本株も上がってないし、投資にお金を回している割合も少ないので、一般的には投資で家を買ったとか、クルージングに出かけたとかいう話を聞かない、ということです。先ほど、あなたの周りに儲かっている人はいないという話がありましたが、まあ、日本全体を見回してもおおむね同じ、ということですね」