先週の当連載では「2024年は米早期利下げでバラ色?今週の雇用統計で株価上昇加速も!?」というタイトルで、2024年半ばにも米国で利下げが行われる期待感から株価が上昇する可能性を指摘しましたが、先週の日本株については予想が大きく外れました。

 日経平均株価(225種)の12月8日(金)終値は前週末比1,123円(3.4%)安の3万2,307円まで急落。

 機関投資家が運用指針にする米国のS&P500種指数が、米国経済のソフトランディング(軟着陸)期待で前週末比0.21%高と6週連続で上昇したことを考えると、日本株の急落が際立ちました。

 元凶になったのは7日(木)に一時1ドル=141円70銭台まで進んだ急速な円高です。

 今回の円高加速は、米国の金利低下による日米金利差の縮小という米国サイドの要因というより、日本銀行がついに金融緩和の出口戦略を打ち出すのではないかという日本サイドの要因によるもの。

 7日(木)の参議院財政金融委員会で日銀の植田和男日銀総裁が「年末から来年にかけて一段とチャレンジングな状況になる」と発言し、午後には岸田文雄首相と長年続いた金融緩和策の出口戦略の判断に関して会談。

 来週12月19日(火)に終了する日銀の金融政策決定会合でマイナス金利解除に踏み切るのではないかという観測が広がりました。

 マイナス金利解除については2024年春ごろというのが市場コンセンサスだったこともあり、為替市場では1ドル=141円台まで急速な円高が加速。

 輸出企業を中心に7日から8日(金)にかけて株価が急落する事態となりました。

 ただ8日(金)夜の米国では11月の雇用統計が発表され、非農業部門の新規雇用者数は予想を少し上回る前月比19万9,000人増で失業率は3.7%に低下。

 平均時給も前月比0.4%増と2023年最大の伸び率に並んだことを受け、米国では長期金利の指標となる10年国債の金利が4.1%台から4.2%台に上昇。

 8日夜のニューヨーク外国為替市場では日米金利差の再拡大で、1ドル=144円90銭~145円まで円安が進んでいます。

 円高のスピードが少し和らいだこともあり、週明け11日(月)の東京株式市場で日経平均株価は反発して始まり、終値は前週末比483円高の3万2,791円でした。半導体銘柄など幅広い銘柄で買い戻しが入りました。

 今週は12日(火)に米国の11月CPI(消費者物価指数)が発表され、13日(水)には米国の金融政策を決めるFOMC(米連邦公開市場委員会)が終了します。

 なにより、日本株の命運を握るのは、為替レートが円安方向に向かって落ち着くか、それとも1ドル=130円台に突入するような円高トレンドがさらに進むかどうか。

 今週も植田総裁など日銀高官の金融政策に関する発言が注目されそうです。

 さらに、自民党安倍派の政治資金パーティ問題で岸田政権が深刻な危機に陥っていることもリスク要因になるかもしれません。

先週:急速な円高で日本株の弱さ露呈、雇用指標の一部軟化で米国株は絶好調!

 先週の日本株は、一時1ドル=141円台まで進んだ円高に振り回されて、米国株が上昇しているにもかかわらず急落しました。

 急速な円高を加速させたのは、日銀高官による相次ぐ金融緩和の見直し発言でした。

 6日(水)には元金融庁長官の氷見野良三副総裁が地方の懇親会で、賃金と物価の好循環の状況を見極めた上で出口を適切に判断すると発言。

 7日(木)に植田日銀総裁の「年末から来年はチャレンジング」発言が飛び出し、「年末」ということから19日(火)終了の金融政策決定会合で、早くもなんらかの金融緩和策の変更が行われるのでは、という懸念が急浮上しました。

 植田発言を受け、日本の10年国債の金利は0.6%台から8日(金)終値で0.767%まで上昇。

 日本株では円高になると海外収益が目減りする輸出株の代表選手といえるトヨタ自動車(7203)が前週比5.4%安となるなど、自動車株、機械、鉄鋼株が大きく下げました。

 中国が主要輸出先の機械株、鉄鋼株などは、5日(火)に格付け会社のムーディーズ・インベスターズ・サービスが中国の信用格付けの見通しを「安定的」から「ネガティブ」に変更したことも響きました。

 さらに国内金利の上昇によって、株価が割高な新興市場にお金が流れ込みにくくなるのではないかという懸念から、IT企業など中小型の内需成長株で構成された東証クロース市場250指数も前週末比3.7%安と、日経平均以上の下落率に。

 円高が少し進行しただけで、輸出株のみならず中小型の内需株まで急落してしまう日本株の弱さが露呈した1週間でした。

 主要輸出企業の為替見通しを見ると1ドル=140円前後を想定している企業が多く、1ドル=140円以下まで円高が進むと、2024年3月期の業績上振れに期待できなくなることも輸出株下落の要因といえるでしょう。

 一方、円高で海外旅行の需要が高まる期待感からエイチ・アイ・エス(9603)が8日、前週末比6.3%高、エアトリ(6191)が7.0%高など、旅行関連株や製品・原料を海外から輸入して国内で販売する円高メリット株の上昇が目立ちました。

 米国では5日(火)発表のJOLTS(雇用動態調査)の10月求人件数が873.3万件と予想を下回り、6日(水)発表の給与計算代行会社ADP(オートマティック・データ・プロセッシング社)の11月民間雇用統計も10.3万人増と予想以下に。

 強すぎる雇用市場に軟化の兆しが見えたことで株価が順調に上昇しました。

 8日(金)発表の11月雇用統計は予想以上に堅調でしたが、同日発表のミシガン大学消費者信頼感指数の1年先、5年先のインフレ期待値が低下したことで今後の物価高の沈静化と経済のソフトランディングに対する期待が高まり、8日(金)のS&P500種指数は前日比0.41%高。

 7月27日の取引時間につけた年初来高値を更新しました。

 ハイテク株が集まるナスダック総合指数も前週末比0.69%高で、2023年の年間上昇率は実に37.6%に達しています。

 アップル(AAPL)や高速半導体のエヌビディア(NVDA)をはじめ「マグニフィセント・セブン」と呼ばれる米国巨大IT産業7社が米国株上昇のけん引役となる構図は今後も安泰のようです。

今週:米国CPIやFOMCに注目!円高落ち着くかが日本株反発の鍵に

 今週は米国の指標発表や金融イベントがたくさん控えています。

 12日(火)には米国の11月CPIが発表。市場では、前年同月比3.1%の伸びと物価高が低下すると見込まれています。

 もし予想に反して物価高に振れた場合、米国株は先週まで6週連続で上昇が続いてきたこともあり、過熱感から株価が下落する可能性もあるでしょう。

 13日(水)には11月PPI(卸売物価指数)も発表され、深夜には3会合連続で利上げ見送りが確実視されるFOMCが終了します。

 株式市場では2024年半ばの利下げ開始が早々に織り込まれていますが、FRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長がかなり強い口調で2024年いっぱいの高金利政策継続を表明すると、株価の下落要因になるかもしれません。

 14日(木)には11月の米国小売売上高も発表になり、ここにきて軟化傾向にある米国の個人消費の動向がわかります。

 一方、日銀の金融緩和政策の変更懸念が先週の日本株安の引き金だったこともあり、13日(水)に発表される2023年10-12月期の日銀短観(全国企業短期経済観測調査)にも注目が集まりそうです。

 民間予想では大企業の製造業DI(業況判断指数)は3期連続で改善する見通しです。

 コロナ明けの経済再開でこれまで6期連続で改善してきた大企業非製造業DIは物価高や人手不足の影響で小幅の悪化が予想されています。

 米国の11月CPIが予想外に大きく低下したり、FOMC後の記者会見でパウエル議長が利下げの早期実施を容認するような発言をしたりして、日米金利差縮小による円高が加速するようなら、先週と同様に米国株上昇の裏で日本株は輸出企業を中心に下落という流れが続く恐れもあります。

 先週は原油価格がアジアの需要減退懸念や米国のガソリン在庫増を受けて6カ月ぶりの安値をつけるなど、ロシア・ウクライナ戦争が火をつけた世界的な資源高は2024年にかけて収束しそうです。

 米国経済がソフトランディングするようなら、2024年の株高を先取りした上昇が12月いっぱい続くかもしれません。

 先週8日(金)には堅調な米国雇用統計を受けて1ドル=145円台まで円安方向に揺り戻しが起こっていることもあり、このまま145円台前後で為替相場が落ち着けば、今週は先週、売り込まれた日本の主力輸出株に見直し買いが入る可能性も高いと言えるでしょう。