アマゾン・ドット・コム

1.2023年12月期3Qは、12.6%増収、営業利益4.4倍

 アマゾン・ドット・コム(以下アマゾン)の2023年12月期3Q(2023年7-9月期、以下今3Q)は、売上高1,430.83億ドル(前年比12.6%増)、営業利益111.88億ドル(同4.4倍)となりました。売上高は今2Q同様前年比2桁増となり、営業利益は同じく大幅増となりました。

 また、全社営業利益率は7.8%となり、2021年12月期1Q8.2%に次ぐ水準となりました。全てのセグメントで今2Q比で営業利益率が改善しました。

表6 アマゾン・ドット・コムの業績

株価 133.09ドル(2023年10月31日)
時価総額 1,373,755百万ドル(2023年10月31日)
発行済株数 10,558百万株(完全希薄化後、Diluted)
発行済株数 10,322百万株(完全希薄化前、Basic)
単位:百万ドル、%、倍
出所:会社資料より楽天証券作成。
注1:当期純利益は親会社株主に帰属する当期純利益。
注2:EPSは完全希薄化後(Diluted)発行済株数で計算。ただし、時価総額は完全希薄化前(Basic)で計算。
注3:会社予想は予想レンジの平均値。

2.セグメント別動向-全セグメントが順調-

1)北米事業

 北米事業(オンラインストア、店舗販売、サブスクリプションサービス、広告等)の今3Qは売上高878.87億ドル(前年比11.5%増)、営業利益43.07億ドル(前年同期は4.12億ドルの赤字)となりました。今2Q比でも増収増益となりました。

 特に営業利益率が今1Q1.2%、今2Q3.9%、今3Q4.9%と傾向的に上昇していることが注目されます。従来全米で1箇所だったネット通販事業の配送センターを、今期から全米を8つの地域に分けて設けるようにして配送スピードを向上させたことが、顧客の購買行動を刺激し、営業利益率上昇に貢献した模様です。多くの顧客は今も価格に敏感ですが、配送スピードが速い場合は価格よりも配送スピードを選択する模様です。また昨年末から今年前半にかけて行った人員削減や各種コスト削減も営業利益率改善に貢献しました。

 全社の各サービス別売上高を見ると、オンラインストア売上高の増収率が徐々に上昇しているだけでなく、外部出店者向けサービスが前年比19.8%増、サブスクリプションサービス(動画配信、音楽配信サービスなど)同14.2%増、広告サービス同26.3%増と、オンラインストア売上高よりも高い伸びを示しているサービスがあります。これらは北米事業の比重が大きいと思われますが、特に広告事業の伸びが大きくなっています。外部出店者向け広告が多い模様ですが、動画配信サービスのプライムビデオのアマゾン企画番組に広告掲載するとアマゾンのウェブサイトに集まる顧客に対する訴求効果が高いようであり、今後も高い伸びが続くと予想されます。

表7 アマゾン・ドット・コム:セグメント別業績(四半期)

単位:百万ドル、%
出所:会社資料より楽天証券作成

表8 アマゾン・ドット・コム:サービス別売上高

単位:100万ドル、%
出所:会社資料より楽天証券作成

2)インターナショナル

 インターナショナル事業(オンラインストア、サブスクリプションサービス、広告等)の今3Qは、売上高321.37億ドル(前年比15.9%増)、営業損失0.95億ドル(前年同期は24.66億ドルの赤字)となりました。増収率は2021年12月期3Qの前年比15.8%増以来の二桁増収となり、営業損益は収支均衡の手前まできました。

 大きな市場シェアを獲得したイギリス、ドイツ、日本、フランスは黒字ですが、多くの新興国では赤字が続いており、インターナショナル事業全体で北米事業並の営業利益になるには、時間がかかると思われます。ただし、このまま企業努力で二桁増収が続けば、2024年12月期には収支均衡または小幅黒字が実現する可能性があります。

3)AWS

 AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)は世界シェア1位のクラウドサービスです。今3QのAWS事業は、売上高230.59億ドル(前年比12.3%増)、営業利益69.76億ドル(同29.1%増)となりました。顧客企業の多くが情報システムの一時的なダウンサイジングを行っているため、前年比増収率は今2Q12.2%増と同水準の12.3%となりましたが、会社側では情報システムの適正化(ダウンサイジング)が終了し始めていると考えています。新規契約数も増加しており、今後は増収率が高くなると思われます。

 今3Qの増収率は高くはありませんでしたが、営業利益率は30.3%となり、今2Q24.2%から大きく改善しました。他セグメント同様、人員削減を含むコスト削減と増収によるものです。

 新規契約を締結した企業のほとんどが生成AIを情報システムに組み込むことを念頭に置いています。アマゾンは、自社開発の機械学習用チップ「Trainium」、ディープラーニング用チップ「Inferentia」の2つのAI半導体を顧客に提供しています。AWSの顧客はこの2つのAI半導体を使ってLLM(大規模言語モデル)をトレーニングすることができます。

 次に今3QにAmazon Bedrockの一般提供を開始しました。Amazon Bedrockは、「AI21 Labs」「Anthropic」「Cohere」「Meta Platforms」「Stability AI」「Amazon」 などの大手 AI 企業のさまざまな高性能基盤モデルを使うことができます。これによって顧客企業は自ら生成AIアプリケーションを構築、カスタマイズすることができます。

 さらに「Amazon CodeWhisperer」によって、AIプログラムを生成することができます。

 アマゾンは、このように生成AIを企業自ら構築、カスタマイズし自社の情報システムに組み込むための3つの階層、最下層の機械学習用チップ「Trainium」、ディープラーニング用チップ「Inferentia」、中間階層の「Amazon Bedrock」、最上位階層の「Amazon CodeWhisperer」を比較的安価な価格で顧客に提供しています。AI駆動用半導体として最もポピュラーなエヌビディアの最新型AI用GPU「H100」と「H100」搭載サーバーは品不足が続いていますが、アマゾンは顧客に対して自社開発の生成AI構築用の3階層を提供することで、顧客は生成AIの構築を行うことができます。この3つの階層がアマゾンの競争力になっています。

グラフ1 クラウド・インフラストラクチャー・サービス市場の世界シェア

出所:Synergy Research groupプレスリリースより楽天証券作成

グラフ2 アマゾン・ドット・コム:北米事業の業績

単位:100万ドル、出所:会社資料より楽天証券作成

グラフ3 アマゾン・ドット・コム:インターナショナル事業の業績

単位:100万ドル、出所:会社資料より楽天証券作成

グラフ4 アマゾン・ドット・コム:AWS事業の業績推移

単位:100万ドル、出所:会社資料より楽天証券作成

グラフ5 アマゾン・ドット・コム:セグメント別売上高営業利益率

単位:%、出所:会社資料より楽天証券作成

4)設備投資動向

 アマゾンの設備投資(フリーキャッシュフロー表のPurchases of property and equipment)は、2022年12月期は物流関係の設備投資が活発でしたが、2023年12月期は物流関係投資が減少し、生成AI関連とネットワーク等のAWSのインフラ投資が増加しています。四半期ベースでは今2Qが底で今3Qは増加しました。物流関係投資の規模も大きいですが、生成AI関連とAWS関連インフラへの投資も規模が大きいため、傾向的に全体の設備投資は増加傾向になると思われます。

グラフ6 アメリカの大手IT設備投資動向:四半期

単位:100万ドル、出所:各社資料より楽天証券作成

3.楽天証券の2023年12月期、2024年12月期業績予想を上方修正する

 会社側の今4Qガイダンスは、売上高1,600億~1,670億ドル、営業利益70億~110億ドルです。レンジ平均値は売上高1,635億ドル(前年比9.6%増)、営業利益90億ドル(同3.3倍)となります。

 楽天証券では、今の北米、インターナショナル、AWSの各事業の勢いから、今4Qは会社予想レンジの上限近くになると予想しています。この見方に基づいて、2023年12月期を売上高5,710億ドル(同11.1%増)、営業利益340億ドル(同2.8倍)、2024年12月期を売上高6,410億ドル(同12.3%増)、営業利益500億ドル(同47.1%増)と予想します。いずれも前回予想から上方修正します。

 セグメント別には、北米、AWSは2023年12月期、2024年12月期と順調な拡大を予想します。インターナショナルは2024年12月期に収支均衡を予想します。

表9 アマゾン・ドット・コム:セグメント別業績(通期)

単位:百万ドル、%
出所:会社資料より楽天証券作成

4.今後6~12カ月間の目標株価を前回の160ドルから170ドルへ引き上げる

 アマゾンの今後6~12カ月間の目標株価を、前回の160ドルから170ドルへ引き上げます。楽天証券の2024年12月期予想EPS3.98ドルに、今後のネット通販とAWSの成長性、景気リスク、インフレリスクの両方を織り込んで想定PER40~45倍を当てはめました(想定PEG=1倍弱)。

 引き続き中長期で投資妙味を感じます。

本レポートに掲載した銘柄アドバンテスト(6857、東証プライム)アマゾン・ドット・コム(AMZN、NASDAQ)