「中国は日本の[列島改造論]からの教訓を学んでいない」

 街並みが改造されていく農村部には、太湖に面する市街地や、省都である杭州市へと続く道路が整備されていました。その脇には、きれいに整備された花壇が置かれ、脇にはランニング用の歩道や、水路の上に架けられた中国的な橋、住民が休息を取るための洒落たベンチ、子供が遊ぶ遊具や公園、エンターテインメントやスポーツ関連の施設も造られていました。街中には、「郷村振興」、「共同富裕」といったスローガンが掲げられ、これらの施設やインフラが、プロジェクトの一部として整備されている現状を物語っていました。

 ただ気になることがありました。

 これらのインフラや施設の使用者がほとんど見られなかったことです。北京へと続く大運河の横に新たに整備された道路でも、走っている自動車はほぼ皆無でした。この違和感を、政府との付き合いが緊密な地元の富裕層に当ててみると、「政府は非常に浪費的な投資をしている」と不満をあらわにしていました。別の実業家は、「日本の高度経済成長期に列島改造計画というものがあったと思うが、あの時のような改造計画が中国の地方や農村でも行われている。多くのインフラは無駄になる。日本の教訓を生かしていない」と指摘していました。

「ゼロコロナ」策が解除された後においても低迷する中国経済を刺激すべく、中央政府はマクロ政策の代名詞である「積極的な財政出動」を通じて、特に地方、農村部におけるインフラ投資で成長を支え、雇用を確保していきたいのでしょうが、前述したように、地方や農村部では相当な無駄、浪費につながっており、供給と需要とマッチしておらず、見せかけのパフォーマンスになっていると実感しました。

 もちろん、浙江省湖州市における今回の視察だけを根拠に、中国経済の持続性、成長モデル、都市化といった大きなテーマを論じることはできません。中央政府がもくろんでいるように、発展の遅れた地域を振興させることで、不動産市場を含めた投資や消費を促すことにつながるのは事実でしょう。ただ、一筋縄ではいかない、相当な無理をしている、従来の成長モデルにも、低所得者層を喜ばせることに注力する経済政策にも限界があるのではないか、と感じさせられた、今回の中国出張でした。