マー氏の意図と中国共産党の思惑

 中国研究をなりわいとする人間として思うのは、マー氏の香港大、東大教授就任は、決して彼個人の問題・動向・決定ではないということです。もちろん、両大からオファーを受けたマー氏本人がそれを拒絶すれば、就任することはなかったでしょう。

 ただ、マー氏ほどの影響力を持つ人間が中国本土以外の場所を代表する大学で役職に就き、具体的なアクションを起こしていく中で、党・政府当局に何らかの報告をしない、何らかの承諾を得ないことは考えられません。そして、当局がノーと言えばノーなのです。当局がノーと言ったにもかかわらずそれを実行することは、当局を敵に回すことになります。そうすれば、マー氏うんぬんではなくて、アリババ・グループ全体の将来と命運を左右しかねません。

 その意味で、マー氏が両大教授に就任したということは、当局が承諾した、あるいは歓迎したのと表裏一体なのです。マー氏からすれば、教育、農業、環境といった分野で国際的に力を発揮することは、自らの関心や目標を体現することにほかなりません。しかも、これらの分野は中国政府も持続可能な発展という観点から重視しており、「政治的に安全」だと言えます。

 中国政府も、マー氏が教育や非営利団体の現場で国際的に発信、行動していくことは、「中国」の影響力拡大につながると考えているのでしょう。従来のように、マー氏がアリババ・グループ本体のビジネスで大暴れし、荒稼ぎすることは歓迎できない、一方、マー氏の前途を絶ってしまうことは、多くの起業家、富裕層、および海外の投資家や企業家が中国市場から離れる、中国経済を見限ってしまう事態にもつながりかねない。よって、言い方は悪いですが、マー氏を「適度に泳がせておく」ことを選択したのだと私は分析しています。

「マー教授」の誕生は、ジャック・マー、中国当局双方の「手打ち」という見方が妥当です。

マーケットのヒント

  1. 中国当局が「マー教授」誕生を認めたことは、中国経済、市場にとっては良いこと
  2. 中国当局は、経済成長のために引き続きイノベーション型の起業家を必要としている
  3. 事業「6分割」後のアリババのこれから、特にアント・グループの上場に要注目