2023年、米中関係と台湾海峡はどうなるか

 米国がそれだけ中国側の動きに機敏に反応しているということだと思います。今回の中国気球の飛行経路から、米国の軍事施設を含めた機微な地域の上空を通過した可能性も指摘されています。中国側は「民間による気象研究のため」と弁明していますが、それが官主導なのか、民間用なのか、飛行船なのか気球なのかはともかく、米国に関わる情報収集というインテリジェンス活動を相手国の領空内で行っていたことは紛れもない事実なわけで、近年における米中間の攻防を赤裸々に体現した現象だと言えるでしょう。

 米軍はその後も着々と撃ち落とした気球の残骸を回収し、対中情報収集の一環にしようとしています。それらを中国側に返すつもりは毛頭ありません。習政権にとって、習氏が3期目入りを決め、米中対話が軌道に乗り始め、感染を徹底的に封じ込める「ゼロコロナ」政策の撤廃後、国をリオープンしていく中で、米国の外交トップをお国に迎え入れることは明確な戦略目標でした。その意味で、この中国気球撃墜事件は、中国側にとっては最悪のタイミングで、大きな失態だった。逆に米国側は中国側に対し、外交やインテリジェンスでも攻勢に出るための契機をつかんだと現時点では分析できます。

 これから米中関係はどこへ向かうのか。

 一連の事態を受け、米議会では今週内にも超党派の非難決議を採択すべく、これまで以上に対中強硬に傾いています。マッカーシー下院議長(共和党)が今春にも台湾を訪問するとも言われています。それが現実化すれば、中国が昨年8月のペロシ訪台時同様あるいはそれ以上の規模で、台湾海峡で軍事演習を実施するのは必至でしょう。

 議会とホワイトハウスは対中政策でどう協調していくのか。2月6日、バイデン大統領は「気球問題で米中関係は悪化するか?」と記者に問われると、明確に「ノー」と答え、「中国には米国が何をするかを明確にした」と表明。真の大国関係を築くには、主張すべきは主張していかなければならないという意思表明にも捉えられます。習氏はこれをどう受け止めるか。

 来年1月には台湾で総統選が、11月には米国で大統領選が予定されています。選挙キャンペーンに入っていく中で、台湾、米国の立候補者やその周辺が「中国」をどう定義し、議論していくのか。ブリンケン訪中延期、中国気球撃墜事件を受けて、2023年の米中関係、および台湾海峡は、当初予想していたよりも緊迫した展開を見せるのではないかと見ています。