時間の最適化としての人生

「初期(内視鏡で切除できるステージⅠ)でもないが、末期(遠隔転移のあるステージⅣ)でもない食道癌」が見つかった時に、筆者は、「仕方がないなあ。治療上やれることをやって、使える時間を有効に使おう」と思った。

 どうして癌に罹ったのか、どうしてもっと早く見つけることが出来なかったのか、等の「後悔」には殆ど意識が向かなかった。日頃から投資について、原稿を書いたり話したりしているせいか、「病気の現状はサンクコスト(埋没費用)だ」と思うことがすんなり出来た。

 当初にネットで見たデータは少し古かった(抗癌剤3剤を手術・放射線前に投与する治療の前のデータだった)ため、5年生存率で30〜40%というデータから、「治療が奏功しない場合は余命1、2年だろうし、まあまあ上手く行くと再発を挟みながら5年程度は粘れるのではないか」というくらいに自分の「持ち時間」を考えた。子供(当時、高3と高1)が大学に入るところまでは見届けられようし、まあまあ元気な期間が1年あれば本の1、2冊くらいは書けるだろう、という程度の「期待」を持った。

 その後、治療法の進歩による生存率データの改善(10%程度)や、手術を終えてみての回復具合などから判断して、「持ち時間」の期待値はもう少し大きな値に修正されているが、今後は、再発の有無に大きく依存する。

 手術や放射線の根治治療を行った食道癌の再発は2年以内が多いのだが、現時点で再発の有無を予想することは出来ないし、再発を起こさないために自分で出来る有効な努力は殆どないので、「心配」をすることに利益はほぼない。

 状況の変化に応じて変わる「持ち時間」の予測値(大まかに最悪に近い場合と平均的な予想値の二つを考える)を前提に、人生計画を修正することになる。

「持ち時間に対して行動を最適化すべく計画を立てる」という考え方は、癌があっても無くても変わらないのだが、癌の状況を前提とすると「持ち時間」をより具体的に考えやすい。もちろん、可能性として癌以外の死因も考え得るのだが、癌によって「持ち時間」の使い方を意識すると、何をしたらいいかの見通しが案外立てやすい。

 故・スティーブ・ジョブズ氏がスタンフォード大学の卒業式で行った有名なスピーチの中に、「今日が人生最後の一日だとしたら、何をするかを考えてみよ」という言葉があるが、「一日」ではないまでも、時間を区切って人生を考えてみることは有益だ。

 治療やその結果の不確実性を伴うので、確実な時間を前提にすることは出来ないのだが、病気の進行や生存期間がある程度具体的に予想しやすい点にあって、癌という病気は案外「付き合いにくい相手ではない」と思う。

 ご自身やご家族が癌に罹った方は、一方的に悲観しないで「持ち時間」を有効に使うことを集中的に考えるといいと思う。

 特に高齢者が心配する「3K」は、「家族、健康、カネ」の3つだという。筆者は今回、健康の重要性を身を以て感じた訳だが、それぞれが大切だ。筆者としては、今後、「持ち時間」を有効に使いながら、読者の「カネ」の増やし方などについて良いお手伝いが出来ると嬉しいと思っている。