あなたの「順張り:逆張り」比率は?

 トウシルの読者なら「順張り」、「逆張り」については既にご存知だろう。対象が値上がり(値下がり)した後に買って(売って)リスク・ポジションを取るのが「順張り」、値下がり(値上がり)した後に買って(売って)リスク・ポジションを取るのが「逆張り」である。

「買い」と「売り」を対称に定義を書いたのは、株式投資のような「買い」中心の投資ばかりでなく、株価指数先物取引やFX(外国為替証拠金取引)のようなトレーディングも意識したからだ。

 読者は傾向としてどちらだろうか。或いは、現実にどちらかに傾いた売買を行っていなくとも、どちらがお好みだろうか。

 以下、筆者の、少々「素人くさい」個人的な思い出話に付き合って頂きたい。

 若い頃の筆者は、主にロング・オンリー(空売りなし)の株式のポートフォリオを運用するファンドマネージャーだったが、それ以外に為替のディーリング(いわゆる「日計り」から数日のオーバーナイト・ポジションで)や株価指数先物などのトレーディングも仕事として経験した。今にして思うと、他人のお金でいろいろな経験や時には実験もさせて貰った。

 両者の時期は重なっていないが、外国為替は一日の損益が数百万円くらい(入社2年目の頃だった)、株価指数先物は数千万円くらいの規模の売買をそれぞれ毎日賑やかに行っていた。何れも楽しかった。

 トレーディングに於ける筆者は、為替で「順張り5:逆張り5」、株価指数先物で「順張り3:逆張り7」といった比率でポジションを取ろうとしていたようなイメージを記憶している(定かな記憶ではない)。

 当時の感想を率直に記すると、短期トレードでは、外国為替も株価指数先物も「逆張りの方が勝率はいいが、やられる時は大きい傾向がある」というものだった。二つの種目を比較すると、株価指数先物よりも外国為替の方がより「順張り」に向いているように感じた。元々大きく稼ぐことを目標としてポジションを取っていたのではないので、何れにあっても主に逆張り的なトレードで(本人の意識としては)「丁寧に」稼ぐことを心掛けていた。

 両種目とも最近の相場の傾向を知らないので、傾向がすっかり変わっているかも知れない(例えば、外国為替で順張りよりも逆張りが有効になる、など。そのようなことは無さそうに思うが)。現在、トレーディングを楽しんでおられる読者の印象はいかがだろうか?

 筆者個人のもともとの心理的好みとしては、「順張り3:逆張り7」くらいなのだろうと思う。少しへそ曲がりで、理屈っぽい。しかし、後述のように株式のファンドマネージャーとしては、順張りでも逆張りでもなかったと考えている。偉そうな言い方を許して貰えるなら、順張り・逆張りは「卒業」したのだ。

「価格」の動きはどの程度「情報」たり得るか?

 順張り・逆張りが「それ自体として」投資・投機のスタイルたり得るためには、過去の価格の変化が将来のリターンを決定する要素でなければならない。

 順張りにはモメンタム投資、逆張りにはリターン・リバーサル投資やミーン・リバージョン(平均回帰)を狙った投資など、具体的な投資法があり、それぞれが「有効だ」とされたリサーチがあったが(主に米国株式が対象のリサーチだ)、結論を言うと継続的に有効であり続けている方法はない。何れも、「特定の時期によく当てはまって有効だった」というにとどまる。

 しかし、方法を僅かにアレンジすることによって収益を稼いでいるトレーダーは、その後も(今でも)存在する可能性はあるので、それぞれが一括してダメだという訳でもない。

 ただ、単純に価格の変化を材料視するのは、テクニカル分析によるリターン獲得の有効性を信じるのと同じくらいに愚かだ。それぞれ、現象として「順張りが有効である」場合、「逆張りが有効である」場合の背後にある真の要因について考えておくべきだろう。

 こと短期のトレーディングに関しては、順張りでも、逆張りでも、そこに至る直近の価格の変化に意外性があった場合に、損失が発生したポジションを手仕舞わなければならない市場参加者がいた場合に、彼(彼女)は相場に対する判断と関係なくポジションを解消する取引を行わなければならない。情報に対する合理的な判断から発生する売買ではない「アンインフォメーショナル・トレード」が発生することがリターンの源泉になり得る。但し、そうした状況が起こるかどうかは価格の変動パターンだけからは分からない場合が多い。

 一方、やや中長期的な投資では、順張りが有効に働く背景には、企業の収益予想にトレンド効果(上(下)方修正の後には上(下)方修正が続きやすい)があることが無視されやすいことが挙げられるだろう。株価の変動には、企業収益の「予想されていなかった」収益予想の変化の影響が大きい。

 他方、逆張りが有効である場合に働いていると考えられるもっとも有力な要因は「リターン・リバーサル効果」だろう。リターン・リバーサルには、リターンの計測期間の長短によって様々なバリエーションがある。長い方で5年、短い方だと1日ないしはそれ以下の期間のリターン・リバーサルが研究されており、各所で実際の投資に利用されてきた。

 日本の株式市場では、1980年代から1990年代の前半くらいまでの期間にあって、リターン・リバーサル効果は割安株効果と共に有効だった。過去の株価の動きからリターン・リバーサル効果に基づいて期待リターンを計算して、ポートフォリオに反映させる手法が各種開発されて実際の運用に利用された。

 素朴なものでは、一定期間ごとに投資銘柄への投資金額を揃える(相対的に値下がりした銘柄を買い増すことになる)「等金額リバランス」と呼ばれたような方法やそれをもう少し極端にアレンジした方法が、「フォーミュラ・プラン」、「システム運用」などと称されて実際の運用に使われたこともある。

 リターン・リバーサルが有効に機能する場合の理由は、もっとも包括的には、「値下がりした銘柄はリスクが大きく見えるので、より大きなリスク・プレミアムでプライシングされがちだ」ということになるのだろう。

 過去の長期のリターン・リバーサルの有効性を調査した論文では、投資家が「倒産リスク」を意識するからではないかといった理由付けを持ち出すものもあったが、これは些か大げさであるように思う。特に機関投資家の場合は分散投資で1銘柄当たりのリスクを低減させることができる。