リターン・リバーサルはなぜ以前ほど有効ではないのか?

 日本の株式市場で長年有効だったリターン・リバーサル効果が「効かない!」と最初に大規模に感じたのは1997年から1999年にかけての、相場テーマ的には国際優良株相場からネット銘柄のバブルに至るマーケット推移の下だった。

 筆者はこの期間に直接の運用から離れていたが、「今運用していたら、ベンチマークに負けたかも知れないな」と思ったことを覚えている。当時は、リターン・リバーサル効果を運用やトレーディングに使っていた友人・知人複数から、かなり真剣な相談を受けた。

 その後リターン・リバーサル効果は、2000年代の初頭に復活するものの、2000年代の半ばくらいから効果が薄れて、その後今日に至るまで、リターン・リバーサル効果でポートフォリオを作って計算してみても、かつてのようなレベルの有効性を示すことはなくなった。

 なぜなのだろうか? 思い当たる理由が2つある。

 一つは、大げさに聞こえるかも知れないが産業構造の変化だ。1990年代の半ば以降インターネットの普及発達と相俟って「情報」に関連するビジネスが発達して利益を集めるようになった。情報のビジネスでは「収穫逓増」効果が働きやすい。つまり、多くの情報を集めて相対的な優位を築いた企業やプロダクト・サービスがより優位を拡大しやすい。また、この種の新しいビジネスの登場と発展は振り返ると圧倒的だった。

 それ以前は、製造業などが中心で相対的に新しいテクノロジーを活用する「成長企業」と「シクリカル」などと称される旧来型の素材産業などが、景気の変動と一部は連動して株価の好不調を繰り返すと共に、個々の業種内でも同業の企業同士が勝ったり負けたりを繰り返しながら相対的な順位を意外に変えない競争状況に対して株価が対応していた。

 つまり、相対的に新しい時代では「勝者の総取り」的な優勝劣敗が発生しやすく、株価的に「いいものはいい」、「悪いものは悪い」が継続しやすかったのだろう。こちらの要因には、数ヶ月から数年の単位でのリターン・リバーサルを無効にする働きがあったのではないか。

 もう一つの要因として考えられるのが、株式トレーディングにあって、コンピューターを使った自動的で高速な売買が圧倒的に優勢になったことだ。この種の取引では、速度を利して一般投資家から利益を掠め取るのと同時に株価変動の細かな傾向性をリターンの源泉として刈り取るようにプログラムされているはずだ。この種の取引が、日次から数日レベルのリターン・リバーサルを無効にした可能性は十分考えられる。

 人間同士がトレードしていた時代に有効だった短期の株価のリバウンド的なリターンは高速トレードが先回りして獲得するようになったのだろうし、加えて高速トレード同士がチャンスを拾う競争をしているはずなので、日次レベルの株価データで計算するリターン・リバーサルにはかつてのような価値がなくなったのだろう。

順張りと逆張りの「解消」

 さて、本稿のはじめの方に、「順張りと逆張りは『卒業』した」と自分でも少し偉そうに思うことを書いたので、その顛末を説明しておこう。

 1980年代後半から1990年代前半にかけて、筆者は主に信託銀行で国内株式のアクティブ運用のファンドを担当していた。当時は、マルチファクター・モデルと呼ばれる株式ポートフォリオの分析ツールを使って、半分クオンツ運用(財務などのデータからの計算によってアクティブリターンの獲得を目指す)とジャッジメンタルな運用(人間が判断する運用のことを「ジャッジメンタル」と称することがある)を併用した運用を行っていた。

 この当時は、日本株の運用にあってリターン・リバーサル効果が有効だったので(但し取引コストとの兼ね合いには注意を要した)、ポートフォリオ全体にリターン・リバーサル的、つまり逆張り的な要素を意識的に組み込むことが有効だったのだが、こうした一つのファクターでポートフォリオを作ると、アクティブリターンが安定しにくいことに問題を感じていた。

 ポートフォリオの作り方として理想的なのは、有効な少数のファクターでポートフォリオにティルト(傾き)を与える(現在の「スマート・ベータ」運用のもう少し緻密なものをイメージされたい)のではなく、出来れば独立した個別の要因に基づいてプラスαのリターンの獲得を目指すことができる銘柄を十分な数だけ集めて、その上でポートフォリオ全体のバランスを取ることだった。これは、今でも変わらない原則のはずだ。

 そのために筆者が行ったのは、(A)利益予想の上方修正に対する反応が遅い銘柄のスクリーニングによる発見、(B)絶対的な株式価値を株価が大幅に下回る銘柄への投資、(C)ネガティブなイベントの対する過剰反応が見られる銘柄に対する投資、など、何れも銘柄固有の要因に基づく「プラスα」のポートフォリオへの取り込みだった。

 株価に対する反応としては、(A)が順張り的、(B)、(C)が逆張り的になることが傾向として多かったが、銘柄をピックアップする理由にあって重要なのは何れも直近の株価の動きよりも、「株価の絶対水準」であった。

 また、マルチ・ファクターモデルにあっては、直近数ヶ月のリターンの相対的な高低自体が一つのファクターとして組み込まれているので、他のファクターと同様にこのファクターに関してもリスクの中立化(完全にではないが、無用な影響を減ずる)を図ってポートフォリオを組み立てるように移行した。

 かくして、筆者のポートフォリオは当初の「意図的な逆張り(リターン・リバーサル)の利用」を離れて、「相互にバラバラの銘柄個別の要因によるプラスα」を集める方針に変化した。

 当時、リターン・リバーサルの効果は、それがプラスに働く時とそうでない時が(何れも数ヶ月続くことがある)比較的はっきり現れた。筆者のポートフォリオは上記の方針転換で、ベンチマークに対する相対的なリターンの変動を明らかにより安定的にコントロールすることができるようになった。

 個人の株式投資にあっても、一つのスタイルで投資銘柄の選択を行うよりも、「相互にバラバラの個別要因によるプラスα」を集めようとするアプローチは効果的だ。自分は「順張り(逆張り)なのだ!」とスタイルを決め込まないことが大事だろう。

「逆張りスピリット」は生きている

 純粋に価格データに反応する逆張りが有効でなくなったからといって、投資の世界から逆張りの考え方の有効性が消える訳ではない。

 ある銘柄が「徹底的に不人気」であることは、人気の「改善の可能性」を通じて投資のチャンスを提供することが今後もあるはずだ。

 また、同様の理屈で、「超人気」と思われる銘柄を外す運用戦略は、機関投資家のポートフォリオ運用にあっても有効な場合があるはずだ。

 また、企業の不祥事や、不測の事故などによる被害のようなネガティブなイベントはしばしば過剰な反応(株価の下落し過ぎ)を生む。ネガティブなイベントには、「期待の新製品の売り上げ」のようなポジティブなイベントよりも影響を数字で把握しやすい点に特徴がある。企業のネガティブ情報は、絶好の投資チャンスを生むことがある。

「それでも、順張りが有効だ!」と言えるケースも探すとあるはずなのだが、最後に逆張りの精神を紹介してみたくなるのだから、好みの問題として、筆者はやっぱり逆張りが好きなのだろう。