弁護士からウォール街の伝説へ

 バリュー投資家の代表と見なされているウォーレン・バフェットは、実は短期投資家としての側面も持っている。コロナウイルスのパンデミックに見舞われた直後、保有していた航空会社の株式を全て手放したことはその一例であろう。この見切りの早さもわれわれ投資家が見習うべき点である。

 バリュー投資のセオリーは極めてシンプルだ。安く買って高く売る。何らかの理由である株式が理論値より割安に放置されている場合、そこは絶好のチャンスとなる。

 世間にはあまり知られていないが、世界大恐慌時に最ももうけたといわれている伝説のバリュー投資家がいる。ゼロヘッジの記事「The Greatest Value Investor You've Never Heard Of(あなたの知らない最強のバリュー投資家)」から紹介したい。

 その投資家はフロイド・オドラムである。フロイド・ボストウィック・オドラムは、1892年3月30日、ミシガン州ユニオンシティで生まれた。メソジスト派の牧師であった父親とともに一家はコロラドに移り住む。コロラド大学で法律を学び、1914年に学位を取得した。

 1915年から弁護士として仕事を始め、いくつかの事務所を経験。法律事務所の仕事で収入を得つつ、オドラムは株式の世界へと入っていく。当初、オドラムは市場を「投機的な利益を得るための場」と捉えていたという。

 そして投機家としての道を歩み始めたオドラムは市場の授業料に見合った額を支払うことになる。当初手にしていた4万ドルの元手を失った後、オドラムはいったん市場からの撤退を余儀なくされる。しかし、この4万ドルの損失がオドラムを投機家から投資家に変えた。

 その後、ある企業への投資で財を築くことになる。1923年に彼が投資した会社は、その後2年間で企業価値が17倍へ拡大、66万ドルの巨大企業へと成長した。オドラムが好んだのは2種類の投資だったという。一つは公益事業関連株、そしてもう一つはスペシャル・シチュエーション(特別な状況)にある企業だ。

 オドラムは、この「特別な状況」について、第一の財政的スポンサーシップだけでなく、通常、企業経営の責任も伴う投資と定義している。オドラムの戦略には、特殊な状況を成功させるまで見届けるという決意が込められていた。

 1925年から1928年にかけて、66万ドルだった企業はさらに企業価値を10倍以上に拡大させた。1929年、市場の天井を警戒して、オドラムは資産の半分を売却した。オドラムは現金を積み増して嵐に備えた。間もなく訪れる次の暴落を待ったのである。

 オドラムは恐怖が完全に市場を支配し、街中に血の気が引いた時点で、準備を整え、持てる現金を最大限に活用した。彼の戦略は、「座って、待って、攻める」だった。

 1929年から1935年にかけて、オドラムは多様なビジネスに投資した。そして、それをコントロールした。グレイハウンドバス、パラマウントという小さな映画スタジオ、ヒルトンホテル、三つの婦人服の会社、ウラン鉱山、銀行、オフィスビル、石油会社などを所有していた。この戦略により、彼の資産は1億5千万ドルにまで膨れ上がった。

 4万ドルから始めたオドラムの投資は、市場への投機で最初に全てを失った。そして、さらに3万9,000ドルを集めて、最初の企業へ投資した。その3万9,000ドルは、わずか12年の間に1億5,000万ドルの資産になった。オドラムは、10年余りの間に資産を38万4,515%も増やしたのだ。年平均成長率に換算すると約3万2,000%の資産増加である。

 そんなオドラムが提唱している投資の三つのポイントがある。一つは「24時間365日、100%投資する必要はない」、二つ目は「退屈は美しい」、そして三つ目は「ゴミ箱へ飛び込め(基準をもって)」である。

【1】24時間365日、100%投資する必要はない

 オドラムはディープバリュー投資家であった。バリューのアイデアが枯渇すると、オドラムは現金を積み上げた。彼は投資を無理に行ったり、基準を下げたりはしなかった。投資する先がない場合、彼はひたすらキャッシュの上に座っていた。市場に勝ちたいのであれば、他とは異なる方法を取らなければならない。

【2】退屈は美しい

 公益事業関連株やオドラムが特別な状況と呼ぶ投資は、市場の中でも退屈な部類に入るだろう。しかし、こうした分野がオドラムのリターンを成層圏に押し上げた。この「退屈は美しい」という哲学をわれわれはどのように適用すればよいのだろうか。

 今日のハイテクが主役となっている市場においては、多くの投資家が退屈で成長の遅いキャッシュプロデューサーのことを忘れている。これらの企業は、道路運営会社であったり、電気部品の製造会社であったりとビジネス内容は退屈かもしれない。しかし、それほど退屈ではないリターンを生み出してくれる。

【3】ゴミ箱へ飛び込め(基準あり)

 オドラムが買った株は他の人が避けるような株だった。このため、52週安値や史上最安値のあたりで取引されているような状態だった。カクテルパーティーでこれらの銘柄を話題にする人はいない。

 しかし、誰もその潜在的な価値に目を向けようとしなかったからこそ、大きなリターンを得ることができた。基準を持ってゴミ箱にも飛び込もう。安値圏で取引されている企業の中には、マーケットが考えるほど悪くはないものがたくさんあるはずだ。